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お近づき編
29, その花言葉は「初恋」
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ジョンの言った言葉に耳を疑った。
花は、ジョンから?
だって、初めて会った時にエドヴァル様は僕にたくさん花を贈ったって言ったのに。
あれは嘘だったの?
「ルネ……すまない。がっかりさせることは分かっていたが……。」
ジョンが男らしい眉毛を下げて言う。
「エドヴァル様は、僕のお芝居を観ていたのかな……」
「すまないが俺には分からない。エドヴァルは、あまり自分のことを話さないから。」
エドヴァル様が本当に何度も舞台を観に来ていたら、同じく観に来ていたジョンが気づかないなんてことあるだろうか。
「エドヴァル様、僕のお芝居たくさん観たって言ったんだ。でも、花も沢山贈ったって言った。贈ったのはジョンだったのに……」
僕の演技を見込んでとか、嘘だったのかもしれない。
単に、貧民上がりの下品な女男という存在が宮廷で一番嫌われそうだったから選んだんじゃないか。
だとしたら、見込まれたって浮かれて協力した僕は馬鹿みたいだ。
黙った僕を見て、ジョンが焦ったように言った。
「その、他の名前で贈っていたかもしれないし、もし違っても君の気を引きたくて吐いた嘘だろう。きっと悪気があってやったことでは……」
珍しく饒舌にエドヴァル様をフォローする。
それに少しむっとした。
ふぅん。僕のこと好きなくせに、エドヴァル様の肩を持つんだ。
宮廷にいた一年で、僕だって多少はエドヴァル様の性格を理解したつもりだ。
そして僕の知ってるエドヴァル様は、自分に得があるなら多少の嘘は吐く人だった。
なのに、ジョンはエドヴァル様に味方するんだ。そうだよね。エドヴァル様の方が付き合い長いもんね。
「気を引きたいとか、絶対違う。だってエドヴァル様と僕の間には何の恋愛関係も無いんだから。」
僕はジョンに秘密をばらした。
だって、エドヴァル様が僕の舞台を熱心に観てくれてたと思ったから協力したんだ。
それに、約束した報酬だってエドヴァル様が出していたわけじゃなかった。
だったら僕だって少しくらい約束破ってもいいじゃないか。
「どういう、ことだ?」
「全部エドヴァル様に頼まれてしたお芝居だったんだよ。王妃様が宮廷で嫌われないよう、僕が代わりに嫌われてやったんだ。」
「君はエドヴァルが好きなのではないのか……?」
「わかんない。僕、恋ってよくわかんないし。僕の演技を見込んでくれたのは嬉しくて、エドヴァル様見た目も格好いいし、だから好きだと思ってたけど、それが嘘だったら……」
考えるとムカムカしてくる。
流石に見た目が格好いいだけだったら、僕は王妃様への嫌がらせだって断ってた。
結局は自分で決めたことだから文句言えないのは分かってるけど。
あまりジョンの前でエドヴァル様を悪く言うのは良くないだろうかと、ちらりと顔色を伺う。
彼は何かを堪えるような顔をしていたけど、引き結ばれた口の口角は少し上がっていた。
うん?初めて見る表情だ。
ひょっとして…………笑ってる?
「ジョン?」
「すまない。君は傷ついているというのに、君とエドヴァルの間に何も無かったと知って浮かれている。」
ジョンが口元を隠してしまった。
もっと見たいから隠さなくていいのに。
そう思うと、僕も自然と笑っていた。
さっきまでカッカしていた気持ちが不思議と治っている。
僕ってこんなに単純だったっけ。
「ジョン、今までお花くれてありがとう。凄く嬉しかった。」
まさか贈る花を自分で育ててる人がいると思わなかったけど、それだけ手間暇かけてくれてたってことだよね。
「う、うむ。なら良かった。」
「また見に来ていい?」
僕の方も自然と笑顔になって尋ねる。
「っ……ああ。君のために作った温室だ。好きなだけ来るといい。そ、そうだ。これを、持ってくれないか?」
ジョンは近くにあった剪定バサミでパチパチいくつかの花の房を枝から切り落とし、僕に差し出した。
それを受け取って、ご機嫌な気持ちのままブロマイドを撮る時のノリでポージングしてみる。
「っ……はぁ……可愛い。思ったとおり、フワフワの花がよく似合う。」
「ふへへ、ありがと。」
ポーズを解いて花を眺める。
これ貰っていいよね。
「じゃあ次は、こっちの花が付いた植木を背景に立ってみてくれないか。」
「え、良いけど……。」
言われたとおりの場所に立ってまたポーズ。
それをじっと見て嬉しそうなジョン。
悪い気はしないけど、何だか嫌な予感がする。
「そしたら、次はティタニアが妖精に話しかける感じで。むむ、衣装のレプリカを作っておけば良かったな。」
どんな感じだよ。
嫌な予感がさらに増してくるけど、期待の込められた視線に促され何もない空間に話しかける。
「こんにちは。妖精さん。」
うん、恥ずかしすぎる。
こんなの絶対カペラ座の人たちには見せられない。
けど、ジョンには大ウケみたいだ。
感極まった顔をしている。
どうしよ。心底バカみたいなことしてるのはわかってるのに、その様子を見ると悪い気がしないから困る。
「そ、そしたら次は……」
そうやって延々とポーズを披露させられてぐったりし始めた頃、中々帰ってこないジョンに業を煮やしたルパートさんが診察の時間だと言ってジョンを回収していった。
花は、ジョンから?
だって、初めて会った時にエドヴァル様は僕にたくさん花を贈ったって言ったのに。
あれは嘘だったの?
「ルネ……すまない。がっかりさせることは分かっていたが……。」
ジョンが男らしい眉毛を下げて言う。
「エドヴァル様は、僕のお芝居を観ていたのかな……」
「すまないが俺には分からない。エドヴァルは、あまり自分のことを話さないから。」
エドヴァル様が本当に何度も舞台を観に来ていたら、同じく観に来ていたジョンが気づかないなんてことあるだろうか。
「エドヴァル様、僕のお芝居たくさん観たって言ったんだ。でも、花も沢山贈ったって言った。贈ったのはジョンだったのに……」
僕の演技を見込んでとか、嘘だったのかもしれない。
単に、貧民上がりの下品な女男という存在が宮廷で一番嫌われそうだったから選んだんじゃないか。
だとしたら、見込まれたって浮かれて協力した僕は馬鹿みたいだ。
黙った僕を見て、ジョンが焦ったように言った。
「その、他の名前で贈っていたかもしれないし、もし違っても君の気を引きたくて吐いた嘘だろう。きっと悪気があってやったことでは……」
珍しく饒舌にエドヴァル様をフォローする。
それに少しむっとした。
ふぅん。僕のこと好きなくせに、エドヴァル様の肩を持つんだ。
宮廷にいた一年で、僕だって多少はエドヴァル様の性格を理解したつもりだ。
そして僕の知ってるエドヴァル様は、自分に得があるなら多少の嘘は吐く人だった。
なのに、ジョンはエドヴァル様に味方するんだ。そうだよね。エドヴァル様の方が付き合い長いもんね。
「気を引きたいとか、絶対違う。だってエドヴァル様と僕の間には何の恋愛関係も無いんだから。」
僕はジョンに秘密をばらした。
だって、エドヴァル様が僕の舞台を熱心に観てくれてたと思ったから協力したんだ。
それに、約束した報酬だってエドヴァル様が出していたわけじゃなかった。
だったら僕だって少しくらい約束破ってもいいじゃないか。
「どういう、ことだ?」
「全部エドヴァル様に頼まれてしたお芝居だったんだよ。王妃様が宮廷で嫌われないよう、僕が代わりに嫌われてやったんだ。」
「君はエドヴァルが好きなのではないのか……?」
「わかんない。僕、恋ってよくわかんないし。僕の演技を見込んでくれたのは嬉しくて、エドヴァル様見た目も格好いいし、だから好きだと思ってたけど、それが嘘だったら……」
考えるとムカムカしてくる。
流石に見た目が格好いいだけだったら、僕は王妃様への嫌がらせだって断ってた。
結局は自分で決めたことだから文句言えないのは分かってるけど。
あまりジョンの前でエドヴァル様を悪く言うのは良くないだろうかと、ちらりと顔色を伺う。
彼は何かを堪えるような顔をしていたけど、引き結ばれた口の口角は少し上がっていた。
うん?初めて見る表情だ。
ひょっとして…………笑ってる?
「ジョン?」
「すまない。君は傷ついているというのに、君とエドヴァルの間に何も無かったと知って浮かれている。」
ジョンが口元を隠してしまった。
もっと見たいから隠さなくていいのに。
そう思うと、僕も自然と笑っていた。
さっきまでカッカしていた気持ちが不思議と治っている。
僕ってこんなに単純だったっけ。
「ジョン、今までお花くれてありがとう。凄く嬉しかった。」
まさか贈る花を自分で育ててる人がいると思わなかったけど、それだけ手間暇かけてくれてたってことだよね。
「う、うむ。なら良かった。」
「また見に来ていい?」
僕の方も自然と笑顔になって尋ねる。
「っ……ああ。君のために作った温室だ。好きなだけ来るといい。そ、そうだ。これを、持ってくれないか?」
ジョンは近くにあった剪定バサミでパチパチいくつかの花の房を枝から切り落とし、僕に差し出した。
それを受け取って、ご機嫌な気持ちのままブロマイドを撮る時のノリでポージングしてみる。
「っ……はぁ……可愛い。思ったとおり、フワフワの花がよく似合う。」
「ふへへ、ありがと。」
ポーズを解いて花を眺める。
これ貰っていいよね。
「じゃあ次は、こっちの花が付いた植木を背景に立ってみてくれないか。」
「え、良いけど……。」
言われたとおりの場所に立ってまたポーズ。
それをじっと見て嬉しそうなジョン。
悪い気はしないけど、何だか嫌な予感がする。
「そしたら、次はティタニアが妖精に話しかける感じで。むむ、衣装のレプリカを作っておけば良かったな。」
どんな感じだよ。
嫌な予感がさらに増してくるけど、期待の込められた視線に促され何もない空間に話しかける。
「こんにちは。妖精さん。」
うん、恥ずかしすぎる。
こんなの絶対カペラ座の人たちには見せられない。
けど、ジョンには大ウケみたいだ。
感極まった顔をしている。
どうしよ。心底バカみたいなことしてるのはわかってるのに、その様子を見ると悪い気がしないから困る。
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