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彼女の所為ってわけでもないけど、結局その日は少し残業してから帰宅した。
スマホを見るとメッセージ通知。
……先輩だ。
[お仕事お疲れ様(^_^)]
わ、顔文字とか使うんだ。
意外な一面にちょっとアガる。
[お疲れ様です。今日はランチご馳走様でした。]
すぐ既読がついた。先輩も仕事終わったのかな。
そしてすぐに次のメッセージが表示される
[明日もあそこで一緒に食べよう?ご馳走する。]
ええ!?
[すみません。明日は同期と食べる約束をしてます。]
とっさに嘘を吐いた。
だって、あそこ絶対高い。失礼だから調べてはないけど、出てきたものは千円二千円の質じゃなかった。
それを連日なんて気が引けすぎる。
[同期の子も一緒に来ればいい。]
メッセージを思わず二度見した。
人数も聞かずにこんな事言えるって、奢り文化怖い……。僕こんな風に絶対なれない。
[本当に大丈夫です。明日は同期だけで食べます。]
とにかく断らなきゃ、とすぐに返す。
送った後でちょっと冷たい文面だと思った。
取り消そうにも、既読になってしまっている。
取り繕うためにスタンプを送った。
牛丼チェーンが無料配布してる、サラリーマン風敬語スタンプ。
『誠に申し訳ありません!』とスーツを着た牛のキャラクターが菓子折りを前に土下座してるやつ。
暫く既読のまま返信なくて、7年上の先輩にスタンプはマナー違反だったか?と心配していたらスタンプで帰ってきた。
僕が送ったのと同じ種類で、『善処します!』とスーツ牛が敬礼してる。
これは、ちょっと使い所違う気がするけどこっちの意図が伝わったんだよな?
[よかったらまた次の機会にご一緒させて下さい。]
お辞儀の絵文字をつけて送った。
[木金は俺が終日外勤だから、来週の月曜日は?(^_^)。絶対開けるから(^_^)。」
向こうの返信と、『何卒ご検討を!』と直角お辞儀するスーツ牛のスタンプ。
画面を見ながらちょっと笑ってしまった。先輩、スマートなイメージなのにメッセージは可愛くないか?
[月曜日でお願いします。社食がいいです。]
スーツ牛が『お取引ありがとうございます』と手を差し出しているスタンプを送る。
お弁当を持っていけば先輩に負担をかけないで済むだろう。
先輩からは『やったー!』と業績表の前で万歳するスーツ牛のスタンプが三つ連続で送られてきた。
「ふふっ」
つい声が漏れて、はっとして夢中でみていた画面から目を離す。
まだ着替えてもなかった。
着替えて、夕飯作って、登録したチャンネルの新動画見たりしてもチラチラスマホを確認して先輩からのメッセージを返す。
明日ご飯を食べる同期も、交流が多いやつに声掛けたら2人ほどつかまった。
先輩に嘘を吐いた申し訳なさはあるけど、あそこで断らなかったら奢らせる事になってたから仕方がないよな。
次の日、普通に働いて食堂で同期とお弁当を食べ、また黙々と決算業務のサポート事務をする。
すると、何だか周りがざわつき始めた。
何かと顔をあげると、通路には明るい顔をした花邑先輩とその後ろを赤い顔でぎこちなく着いていく安西さん。
ざわつきは、主に先輩を見たフロアにいる女性社員の声みたいだ。
歩く2人を見て何だかざわりとする。
営業部門とはフロアが分かれてるから営業の人はそんなに来ないはず。
何で一緒に歩いてるんだろう……と思っていたらなんと僕の前に先輩が来た。
「ユウくん元気?はい、これ。」
そう言って出張の証憑を渡される。
「え?はい……」
目を丸くして先輩を見た。
後ろの安西さんだって僕らをガン見している。
その様子は、明らかに会社が先輩に本来こんな雑用をさせたりしていないことを物語っていた。
「あとこれ、差し入れ。経理だから今忙しいよな。頑張って。」
袋の中には僕が昨日メッセージの中で何気なく好きだと送った缶コーヒーやコンビニ菓子がぎっしり入っていた。
白い歯が覗く眩しすぎる営業マンスマイルを添えて。
「あ、ありがとうございます……」
「昼は一緒に食べられなかったけど、顔が見れてよかった。邪魔してごめん。じゃあね。」
「え、あ……はい……。」
先輩はまたにっこり笑って去っていった。
一体どういう状況!?
業務中だけど我慢できず私用スマホでグループから安西さんのアカウントを探して思ったまんま個別メッセージを送る。
暫くして、
[こっちが聞きたいよ!ちょろっと竹迫くんに渡しに行くって言ったら丁度いいからって着いてきちゃったの!朝から若様に似合わないコンビニ袋持ってきてんなとは思ってたけどさ!!!差し入れだったんかい!しかも私の同期に!!!!何!?竹迫くんすごい気に入られてない!?!?若様のご寵愛受けてない!?!?!?」
やたらテンション高い長文が返ってきた。
ご寵愛って……。確かに、気に入られてるのかなとはちょっと思ってるけど。
自分から送っといて返事に困り、わかったとだけ返した。
何事だったんだ?と探りを入れてくる同じ課のお姉様方も曖昧に交わして仕事に集中する。
でも、どこか胸にむず痒いものを感じていまいち集中しきれなかった。
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