17 / 40
17, 悪魔退治
しおりを挟むユジンがさっと立ち上がって側の長剣を掴み台所に向かうのを俺様も追った。
中に入ると、薄暗い室内で作り付けの戸棚や小窓がガタガタギシギシ音を立てて揺れている。
部屋には穢れの気配が充満していた。
「ひっ……」
思わず体がすくんだ。
「落ち着け。変幻を解けるか?」
「で、でも……」
「大丈夫だ。駄目なら私が助ける。」
力強く言われて少し覚悟が決まる。
変幻を解くと部屋に溜まった邪念に体が更に反応してビリビリした。
けど俺様の体に入ってくる様子はなくて、気配の中心にあるものが少しハッキリする。
それは俺様と同じ悪魔だった。
黒い体に角、尻尾をピョコピョコさせながら戸棚を開け閉めしたり窓をガタガタ押したりしてる。
「見えたか?」
「う、うん……ユジンは?」
「ぼんやりとはな。よし、お前、あいつの穢れを引き受けられるか?」
「っええ!?」
「お前は多分邪念や穢れを取り込みやすい。昨日みたいに本体に触れたら吸収出来るんじゃないか。やってみろ。」
や、やってみろって、昨日みたいになるのか!?
「ユジンっでも……」
「出来なかったらお仕置きな。」
ひっ、酷いのだ!
でも、お仕置きは嫌なのだ。尻尾くにくにばっかりは……ううっ……。
俺様は暴れる悪魔に近寄った。
「お、おいお前!」
触るために話しかける。
ー誰?マリーアン?ー
俺様の声が聞こえたのか悪魔が呟いた。
「へ?マリーアン?」
俺様が聞き返す。
「リュス、これが使えそうだ。」
俺様の背後に立ったユジンがザンバザルから預かったペンダントトップを渡してきた。
ーマリーアン!ー
とたんにちょこまか暴れていた悪魔がこちらに飛びついてくる。
それをチャンスだと思って手を伸ばして捕まえ、抱き寄せた。
とたんに相手が溜め込んだ穢れが一気に俺様に流れ込む。
頭の中に色々な声が響いた。
『気味が悪い屋敷だ』
『嫌だ、私まで呪われちゃう』
『あの強欲人間の妻だから天罰さ』
『どうせ死ぬなら面倒見る必要ないだろ』
『流行病が移ったら敵わん』
富に対する妬み、不幸に対する優越感、病に対する侮蔑、そんな黒い感情が体に流れ込んでくる。
どんどん体が重くなって気分が悪い。
『あの人の事、恨んでないのよ。あの人は知ってるだけなの。お金で避けられる不幸があるって事を。』
不思議なことに、最後に聞こえたのはそんな優しい声だった。
薄れて行く意識の中で一つの光景が浮かんでいく。
ベッドから窓を見つめる顔色の悪い女の人と、窓辺に留まる一羽のカラス。
女人がカラスに話しかけたことが次々聞こえてきた。
『あなた、不思議な鳥ね。私の言うことがわかるみたい。』
『みんなはあの人が私を追い出したって言うけど、私が頼んで出てきたの。今は事業の大事な時期だから、邪魔したくなくて。』
『最近雇った人が全然来なくなっちゃったわ。私の病気が怖いみたい。でもいいの自分のことは自分で出来るし。あの人にも言ってないわ。手紙を出してもあまり返事が来ないから。』
『あなた、台所に入り込んだでしょ?久々に来たメイドが台所がめちゃめちゃだって騒いでたわ。お手伝いしようとしてくれたの?ありがとうね。』
『あの人がお金の事ばかり考えて忙しいのはね、私たちの最初の子供が死んじゃったからなの。私たちにお金がなくて、病気になった時満足な食べ物も治療も出来なかったから。』
『もう私駄目みたい。最後にあの人に会いたかった。あの人が成功して、輝く宝石も綺麗な服もここには沢山あるけど何にもならない。私あの人ともっと一緒にいたかったわ。』
『ありがとう、お話たくさん聞いてくれて。大好きよ、私の鳥さん。』
女の人の姿が消えた後、カラスは台所で暴れていた悪魔の姿になった。
そこでふと意識が戻る。
体はユジンに支えられていた。
「よくやった。後で浄化してやるからもう少し耐えろ。」
まだ気分が悪いけど、どうにか様子を伺う。
ユジンは俺様が一人で立てそうな事が分かるとうずくまる悪魔に近付いていた。
「お前、俺の話が聞こえるか。」
「……聞こえる。」
ユジンの問いかけに悪魔が答えた。
「結構。このままおとなしく暗闇に行く事を望むか?」
「マリーアンに会いたい……」
「彼女は死んだ。もう会えない。今の世の中では、彼女のようにお前を受け入れてくれる人間がまた見つかるかも怪しい。残ればまた穢れ呪われた動物として彷徨うことになるだろう。」
「暗闇は嫌だ。寂しい。愛されたい……」
その声に、俺様の心もギュッと痛くなる。
「……では、変われるか?お前次第だ。」
そう言ってユジンは俺様から取り上げたペンダントトップを差し出した。
「マリーアン……」
悪魔が指先でそれを撫でる。
「この中に宿れるなら、彼女の家族にお前ごと引き渡してやる。家族が大事にする限り、お前も平穏に過ごせるだろう。ただ保証はしかねる。そうすればまた苦しむ事になるぞ。」
「マリーアン……」
悪魔はスッとペンダントトップに吸い込まれていった。
「頑張れよ。」
ユジンがポツリと溢した。
5
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる