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31, 【番外】憧れの天使5

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こうした事を全て感覚的に我流でこなしていたアリアスにユジンは驚いた。
確かにアリアスがやった事は自分が時間をかけて辿り着いた悪魔の従属や隷属の維持の方法に酷似していた。
とんでもない感性だと内心感心する。

「秘密にしていてすみませんでしたね。」

すまなさそうなアリアスの様子に話に偽りは無いと確信できたユジンは、ラムールを解放し変幻の妨害を解いた。
アリアスは謝罪を口にしながら人の姿に戻ったラムールの頬を撫で慰める。

「それにしても危険すぎます。悪魔と暮らすなんて。教会に全容が知れたら貴方といえど良くて破門、下手したら処刑ですよ。いつまでも派遣先がこの小さな教会とも限りませんし。」

ユジン自身教会の上層部なんて扱い方を知っていれば大抵どうとでもなると理解している。実際ラムールはここに助祭として潜り込めた。
しかし旗色が悪くなれば直ぐに足元を掬われるのも事実だ。今のアリアスの後ろ盾は父である現教皇しかなく、それすらも後継候補から外れた事で地盤の脆いものとなっている。

「わかってます。」

「なら、ラムールを帰しましょう。帰し方は分かっています。」

悪魔を帰すには然るべき日に悪魔の望みを受けて暗闇への道を開けばいい。
そうすれば、悪魔は年に一度のサウィン祭だけ人間の世界を訪れる害のない存在になる。
ユジンだってこれまでの生活でラムールに対する情は生まれていたが、アリアスが教会に咎められないようにすることの方が大事だと判断した。

「嫌です。ラムールの居場所はここです。」

アリアスがユジンから隠すようにラムールの体を抱きしめた。

「アリアス、私は部下としてじゃなく弟として貴方を心配している。兄さん、頼むから……」

「愛してるんです。離れたくない。」

縋り付くアリアスの髪をラムールがそっと撫でた。その異様な光景に、ユジンはこの二人がもうずいぶん昔から通じ合っていたのだと察する。

「つまり、お前たちは私が知らないところでずっとデキてたわけか。」

初めて乱暴な言葉をアリアスにぶつけた。同業者が禁忌を犯していたことより、家族にずっと除け者にされていたことに傷付いていた。胸を襲う疎外感になんとも言えない嫌な感情が湧いてくる。苛立つような、悲しいような。
アリアスにとって共に暮らす肉親である自分は一番の存在だと、心のどこかで思っていたから。

「黙っていて本当にごめんなさい。でも、ユジンは優しい子ですから、僕たちの味方になってくれますよね?貴方はきっと教会で地位を築きます。その手段をラムールと僕は与えた。」

必死なあまり口を滑らすアリアスに、ユジンが眉を顰める。

「私にルパルドの次の後ろ盾になれと?……最初から、そのつもりで……?」

違って欲しかった。アリアスはただ、兄弟の自分に愛情を持っていたのだと思いたかった。

「……そうですね。…………あの手紙に飛びつくような寂しい子なら、きっと手懐けられると思った。」

帰ってきたのは肯定の言葉で、ユジンは足元が抜けたような感覚を覚えた。
嘘なら嘘でどうして吐き通してくれないのか。いや、これまでだって自分は利用価値があるから生かされてきただけじゃないか。そこにアリアスが含まれたところで大した事ではない。
色々な思考が巡った。
こんなに考えがまとまらないなんて初めてだった。

「少し、考えさせて欲しい。」

ユジンがそう言えばアリアスは気遣わしげに見つめてきたが、それを無視して部屋を去った。

それからしばらく、ユジンは教会の仕事をこなしながら教皇庁の学術部に送る論文を書き上げた。もうそろそろ出せと再三教皇庁から催促は来ていたが、それまではずっと無視していた。それは司祭に昇格するためのもので、合格すればユジンは他の教会に長として派遣される事になる。

論文の評価は上々で、暫く司祭を務めれば司教に昇格し枢機卿の称号をやがて得るだろうと目処がたった。赴任先に関しても大抵の希望は叶いそうな状況だ。
だからユジンはレンナの町のさらに北にある小さな村に新しい教会を建てることを提案し、教会はそれを認めた。
ユジンは18歳になっていた。

そしてシャルドーレを去る当日、アリアスとラムールはぎこちなさを滲ませながらも見送りに城砦の門まで来てくれた。

「何か困ったら、直ぐ相談してくださいね。」

アリアスが遠慮がちに声をかけてくる。その後ろにはそっとラムールが立っていた。
あの日から今日まで二人とはまともに会話をしていない。
それが大人気ない事だとユジンは分かっていた。だから、もう止めにしようと思った。

「ああ、兄さんも、何かあれば私に言えばいい。私は偉くなるから。」

そう言えば二人は驚いたようにユジンを見た。
アリアスはみるみる目尻に涙を溜めていく。

「ありがとう、ユジン。貴方に神の祝福とご加護がありますように。」

二人は自分を利用するつもりで一緒に暮らしたのだろうが、過ごした日々が偽りには思えなかった。
だからユジンは二人を許したのだが、何だかもう一緒に暮らす気にはなれない。

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