11 / 65
第2章 入学前編
4 アッシュタール
しおりを挟む
誰か冗談だって言ってくれ。
絶対反対すると思っていた公爵があっさり旅行を認めたのは100歩譲ってあるとしよう。
調子に乗ったユーリスが、せっかくだから旅行に持っていく持ち物や衣類一式を全てオーダーメイドで新調すると言い出して俺の仕事がバカみたいに増えたのもわかる。でもふざけんな。
けどそれ以上に、どうして手配した馬車が車寄せの隅っこでオロオロしていてエントランスの真ん前には公爵とアッシュタール号がいるんだ?
「二人とも乗れ。ルコ、荷物は鞍の1番後ろに金具があるからそこに固定しなさい。ノスの籠もだ。」
ユーリスが軽い足取りで葦毛の巨体に近寄ると、アッシュタールがスッと身をかがめた。
そのまま位置が低くなった背中の真ん中によじ登っていく。
下男が旅行鞄やノスニキの入った籠を荷台に括りつけた。
「旦那様、恐れながら、これはどういうことでございましょうか。」
「紫紺の森にある別邸に行くのだろう?私が連れていく。何だユーリス、話していなかったのか?」
「忘れてた。」
ほう!れん!!そう!!!
「ルコ、早く乗れよ!父上も。早く行こう?」
「あの、私は馬車で参ります。恐れ多くも私がアッシュタール様に乗るなど……」
「こいつと馬車では速さが違いすぎる。馬車だとどれくらいかかる予定だ。」
「8時間ほどかと。」
「こいつなら1時間かからない。」
「しかし……」
「ルコが来るのに8時間もかかったら僕のお昼ご飯は?」
うるさい。
「何だ、私のアッシュに乗るのは嫌か?」
公爵が片眉をあげて聞いてくる。
「まさか……」
ブルっとアッシュタールが鼻を鳴らしてこちらを見た。初めて会った頃にはなかった、美しい金色のツノが眉間に生えている。
重厚な体、しなやかに仕上がった筋肉。
ファンタジーゲームをやり倒したゲーマーの中に、こんなかっこいいユニコーンに乗りたくない奴がいるか?
いや、いるわけない。
雇った御者に詫びて予定代金全額を支払い、俺はアッシュタールの背中に恐る恐る乗った。その巨大な体躯は男が3人乗ってもビクともしない。
「鞍は今回新調したやつだからまだ硬いかもしれんが、我慢しろ。」
なるほど、この3人乗りの鞍は今回作ったのか……わ、わざわざ?
「他の馬具も新しいやつだろ?」
「まあ、せっかくだからな。」
お、親子……
「動くぞ、落ちるな。」
そう言われてユーリスが先頭の公爵の腰に手を回す。
俺は、
俺は……
「ほら、ルコ、僕に掴まって。」
目の前にはユーリスの背中。
仕方がないのでアッシュタールに乗る時より慎重に腕を目の前の体に回す。
ユーリスから抱きつかれたり引っ付かれたりして仕事の邪魔をされる事はしょっちゅうだけど、自分から抱きついたことはほぼない。
あの時以来だ。会ったばっかりのころの……いや、その事は考えるな。
へそあたりの高さに回した腕を少し高い位置にあげた。
腕を下げると更に下にあるものを意識してしまいそうになるから。
小さくて後ろからすっぽり包めた背中が、今は俺より少し広いんじゃないかって思うくらい。
あーもうだから、考えるなって。
「ね、ルコ、腕もうちょっと上。」
「はい。」
この位置は嫌だったかと更に腕を上にずらす。
「これでよろしいですか?」
「うーん……もうちょっとかな。耳貸して。」
「?」
言葉の続きを聞くために、身を乗り出して耳をユーリスに寄せる。
「ちゃんと乳首触って?」
耳に吹きかけるように小さく囁かれた。
はぁ?
とガチトーンで返す前にクンっと慣性が体を後ろに引っ張る感覚がする。
倒れそうになって慌てて緩んでた腕に力を込めた。
アッシュタールのスピードはぐんぐん上がって、街道に出る頃には近くの景色が目で追えないほどになる。
この景色の流れ方、すごく懐かしい。
高速道路で走ってる時みたいだ。
自動車よりは揺れるけど、まるで車内にいるみたいに逆風を感じない。
不思議に思って首を伸ばして前をみると、新幹線の先頭みたいな流線型のシールドがアッシュタールを覆っていた。
凄いな。スピードを出すための最適な技を身につけてる。
ゲームでは、この技は一切出てこなかった。
この世界はまるきりゲームの通りじゃない。きっと守護獣のことも、ゲームをやり込んだ俺でも知らないことがまだまだあると思う。
そして、今はもっとそれが知りたいって、思い始めてる。
そのためにはここでずっと働いてるわけにはいかない。
絶対反対すると思っていた公爵があっさり旅行を認めたのは100歩譲ってあるとしよう。
調子に乗ったユーリスが、せっかくだから旅行に持っていく持ち物や衣類一式を全てオーダーメイドで新調すると言い出して俺の仕事がバカみたいに増えたのもわかる。でもふざけんな。
けどそれ以上に、どうして手配した馬車が車寄せの隅っこでオロオロしていてエントランスの真ん前には公爵とアッシュタール号がいるんだ?
「二人とも乗れ。ルコ、荷物は鞍の1番後ろに金具があるからそこに固定しなさい。ノスの籠もだ。」
ユーリスが軽い足取りで葦毛の巨体に近寄ると、アッシュタールがスッと身をかがめた。
そのまま位置が低くなった背中の真ん中によじ登っていく。
下男が旅行鞄やノスニキの入った籠を荷台に括りつけた。
「旦那様、恐れながら、これはどういうことでございましょうか。」
「紫紺の森にある別邸に行くのだろう?私が連れていく。何だユーリス、話していなかったのか?」
「忘れてた。」
ほう!れん!!そう!!!
「ルコ、早く乗れよ!父上も。早く行こう?」
「あの、私は馬車で参ります。恐れ多くも私がアッシュタール様に乗るなど……」
「こいつと馬車では速さが違いすぎる。馬車だとどれくらいかかる予定だ。」
「8時間ほどかと。」
「こいつなら1時間かからない。」
「しかし……」
「ルコが来るのに8時間もかかったら僕のお昼ご飯は?」
うるさい。
「何だ、私のアッシュに乗るのは嫌か?」
公爵が片眉をあげて聞いてくる。
「まさか……」
ブルっとアッシュタールが鼻を鳴らしてこちらを見た。初めて会った頃にはなかった、美しい金色のツノが眉間に生えている。
重厚な体、しなやかに仕上がった筋肉。
ファンタジーゲームをやり倒したゲーマーの中に、こんなかっこいいユニコーンに乗りたくない奴がいるか?
いや、いるわけない。
雇った御者に詫びて予定代金全額を支払い、俺はアッシュタールの背中に恐る恐る乗った。その巨大な体躯は男が3人乗ってもビクともしない。
「鞍は今回新調したやつだからまだ硬いかもしれんが、我慢しろ。」
なるほど、この3人乗りの鞍は今回作ったのか……わ、わざわざ?
「他の馬具も新しいやつだろ?」
「まあ、せっかくだからな。」
お、親子……
「動くぞ、落ちるな。」
そう言われてユーリスが先頭の公爵の腰に手を回す。
俺は、
俺は……
「ほら、ルコ、僕に掴まって。」
目の前にはユーリスの背中。
仕方がないのでアッシュタールに乗る時より慎重に腕を目の前の体に回す。
ユーリスから抱きつかれたり引っ付かれたりして仕事の邪魔をされる事はしょっちゅうだけど、自分から抱きついたことはほぼない。
あの時以来だ。会ったばっかりのころの……いや、その事は考えるな。
へそあたりの高さに回した腕を少し高い位置にあげた。
腕を下げると更に下にあるものを意識してしまいそうになるから。
小さくて後ろからすっぽり包めた背中が、今は俺より少し広いんじゃないかって思うくらい。
あーもうだから、考えるなって。
「ね、ルコ、腕もうちょっと上。」
「はい。」
この位置は嫌だったかと更に腕を上にずらす。
「これでよろしいですか?」
「うーん……もうちょっとかな。耳貸して。」
「?」
言葉の続きを聞くために、身を乗り出して耳をユーリスに寄せる。
「ちゃんと乳首触って?」
耳に吹きかけるように小さく囁かれた。
はぁ?
とガチトーンで返す前にクンっと慣性が体を後ろに引っ張る感覚がする。
倒れそうになって慌てて緩んでた腕に力を込めた。
アッシュタールのスピードはぐんぐん上がって、街道に出る頃には近くの景色が目で追えないほどになる。
この景色の流れ方、すごく懐かしい。
高速道路で走ってる時みたいだ。
自動車よりは揺れるけど、まるで車内にいるみたいに逆風を感じない。
不思議に思って首を伸ばして前をみると、新幹線の先頭みたいな流線型のシールドがアッシュタールを覆っていた。
凄いな。スピードを出すための最適な技を身につけてる。
ゲームでは、この技は一切出てこなかった。
この世界はまるきりゲームの通りじゃない。きっと守護獣のことも、ゲームをやり込んだ俺でも知らないことがまだまだあると思う。
そして、今はもっとそれが知りたいって、思い始めてる。
そのためにはここでずっと働いてるわけにはいかない。
44
あなたにおすすめの小説
令嬢に転生したと思ったけどちょっと違った
しそみょうが
BL
前世男子大学生だったが今世では公爵令嬢に転生したアシュリー8歳は、王城の廊下で4歳年下の第2王子イーライに一目惚れされて婚約者になる。なんやかんやで両想いだった2人だが、イーライの留学中にアシュリーに成長期が訪れ立派な青年に成長してしまう。アシュリーが転生したのは女性ではなくカントボーイだったのだ。泣く泣く婚約者を辞するアシュリーは名前を変えて王城の近衛騎士となる。婚約者にフラれて隣国でグレたと噂の殿下が5年ぶりに帰国してーー?
という、婚約者大好き年下王子☓元令嬢のカントボーイ騎士のお話です。前半3話目までは子ども時代で、成長した後半にR18がちょこっとあります♡
短編コメディです
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
おしまいのそのあとは
makase
BL
悪役令息として転生してしまった神楽坂龍一郎は、心を入れ替え、主人公のよき友人になるよう努力していた。ところがこの選択肢が、神楽坂の大切な人を傷つける可能性が浮上する。困った神楽坂は、自分を犠牲にする道を歩みかけるが……
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る
竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。
子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。
ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。
神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。
公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。
それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。
だが、王子は知らない。
アレンにも王位継承権があることを。
従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!?
*誤字報告ありがとうございます!
*カエサル=プレート 修正しました。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる