いつかどこかで

にゃあちゃん

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いつかどこかで

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 祖国を追い出されるようにやってきたのが、日本であった。先祖が元国の者である為、逃げるようにここ京都にやってきた。所謂在日韓国人のハナは、韓国でカケルと結婚をして京都に住処を求めてやってきたのだ。ここ京都にも、元国の人たちが居ることを聞きつけてきたのだ。
 しかし、特段与えられた土地はなかったが、少し資産価値のある物を持っていた為、それをお金に換え土地を購入する事にした。そこで何かしらの商売をし、生きていく事を決めたのだった。商売として何も頭に浮かばなかったが、戦時中であっても金属類はお金になるという事を知ったカケルは、種類を問わずひたすら、集める事にした。後にではあるが、これが結構いいお金に代わるものとなり、子どもを作る事にした。子どもは、二男一女と恵まれ、やがて日本の小学校に通う事となった。ハナもカケルも片言の日本語しか話せなかったが、子どもたちは流暢な日本語を話せるようになっていて、逆に言葉では子どもたちに助けられるようになっていた。こんな手探りの生活ではあったが、何とか子育てができてはいた。そんな中であったが、少し子どもたちも大きくなった事もあり、休暇を設けて祖国へ帰る事にした。
 祖国を離れて十年近くが経とうとしていた。久しぶりに会う祖父母に、カケルもハナも涙が零れてきた。そこで、長男の隼人を真っ先に紹介した。続いて二男の英人、最後に長女の淑子であった。祖父はその愛らしい淑子の事が一番可愛かったのか、椅子に腰かけている姿勢のまま淑子を膝に乗せてくれていた。少しずつ仕事が軌道に乗ってきたという報告も済ませたカケルは、祖父母と三人で話をしていた。その会話の内容まではわからないハナであったが、何となく感づいてはいたのだ。
 恐る恐るカケルに後で聞いたハナは思っていた通りの答えに少しショックを覚えた。しかしこの祖父母の発言は絶対である為、例え在日韓国人であるから、守らなくていいという事にはならなかったのだ。この祖父母との約束事は日本に帰って来てから、子どもたちに伝えられた。
 あれから約十年が経とうとしていた。子どもたちは思春期を迎えて、それぞれ彼女や彼氏が出来ていた。その都度ハナは、祖父母との約束事を子どもたちに口を酸っぱくして、話してはいた。隼人からは「ハイハイ」と言う返事がすぐに返ってきていたが、英人は違っていた。返事は勿論返ってはこなかった。それだけではなく、その言葉を発するハナを睨むようにいつも見てくるのであった。ハナはカケルに「毎度目にする英人の想いをわかってあげてほしい」と言ったが話にならなかった。かなりの収入を得るようになりだしたカケルは、愛人を作るようになっていた。その愛人に夢中になっていたカケルには、純粋な英人の想いは通じなかったのだ。カケルは隼人と英人を呼び、自分の愛人の存在を明らかにして、更にその愛人までも養う事を自ら肯定していた。カケルは好きな人を作ってもよい、いや寧ろ男として作るべきだと言っていた。その言葉を真に受けたのか、隼人は勧められるままの相手との結婚を視野に入れて、恋愛に勤しんでいた。その一方で英人は、カケルに愛人が居る事も許せないでいたのだ。だからなのか、いつもハナの事を気にかけてはいた。ハナはこの頃から気付いていた。英人は愛する人を一人だけ大事にしたいという想いのある子であるという事を・・・・・・。
 更に五年が過ぎていた。月日は経っても英人の気持ちは変わらず、一人の女性を愛していた。カケルは愛人の自宅で寝泊まりしていた事もあり、仕事は隼人に任せていた。自立が出来ている隼人に結婚の話がきたのだ。それはあの約束通りに、祖国から持ち寄られた縁談であった。祖父母が「けして祖国の気高い血を汚してはいけない」と言っていたからであった。その事を早くに承諾していた隼人は、まだ会った事も無いユナと結婚した。ユナは、日本にきた事もなかったが、生活が保障されている事に幸せを感じていた。しかしハナも経験した言葉の壁を、来てすぐ感じたユナは、ハナにだけは自分の気持ちを素直に話してはいた。
 隼人はユナの事が好きでも嫌いでもなかった。どちらかというと、どうでもよかった。逆にユナとは言葉が通じず、日本語での会話の方がよかった隼人にとって、ユナとはほとんど会話はせず、フラフラと夜になると出歩いていたのだ。ひとまずカケルより「子作りに励め」と言われた隼人は、それだけには専念していた。そんな様子を一部始終側で見ている英人は、ユナの事を適当にあしらっている隼人に対して、憤りを感じていた。英人はユナの事を気にかけ、優しく話しかけるようにしていた。
 あれから何年も経つが、英人は一途に日本人の佐知の事を愛していた。その純愛を持つ英人が間違っているとは言えないハナは、この先の不安な気持ちを、ユナに話していた。ユナは「英人の方が人格者で好感が持てる」とはっきりと言った。その言葉に救われたハナは『この先なるようにしかならない』と気楽に考えるようにしていた。
ユナが来て五年の歳月が流れた。ユナは三人の子どもの母親になっていた。ユナを気遣うハナは、暇があれば孫の面倒を見ていた。心優しい英人も、甥や姪の遊び相手をしていた。まだこの頃は、遊びに行っても自宅に帰ってきていた隼人であったが、いつしか帰らなくなっていった。
 突然、悪い知らせがきた。それは英人に縁談の話であった。結婚相手は、勿論祖国の女性であった。長年付き合っていた佐知と別れるのが嫌で、英人はわざわざ断る為に祖国へ行ったが、そこでいきなり結婚式を挙げさされる事になった。英人はどうする事も出来ず、嫌々結婚式をした。英人は日本に結婚したサラと帰ってきた。英人自身も思いもよらない出来事に泣いていた。
 ユナはその姿を見て、サラには気付かれないように、敢えて英人と遠ざける行動をとるようにしていた。英人はサラが寝たのを確認して、佐知のところへ行った。泣きながら英人は、サラと結婚した事を話し始めた。佐知とは別れたくなかったが、サラと結婚してしまった事は事実であり、隼人がユナにしている事を許せない英人は、同じようにサラを苦しめる事が出来なくなり、別れる決断をした。英人は佐知と別れてからは、サラを大切にしていた。英人はサラが寂しくならないように、とにかくたくさん会話をするようにしていた。
 笑顔で接する英人ではあったが、心のどこかでまだ佐知の事を思っていた。ユナはそんな英人の想いに気が付いていた。英人はそのまま実家でサラと暮らしていた。あまり言葉がわからないサラの事が心配だったからであった。ユナは少しだけ話せるようになった日本語を、サラに教えていた時、サラの異変に気付いた。サラの妊娠
がわかったのだ。もともと子どもが大好きな英人は喜んでいた。サラの夫である英人が喜ばないと、サラはきっと悲しむだろうという想いがあったからでもあった。サラはこの時の子どもを含め、二人の子どもに恵まれた。言葉の不自由は感じていたが、何不自由なく暮らせる生活に満足していたサラが、時折寂しそうな顔をしている姿を見るようになっていた。
 この一か月程前に、英人は偶然佐知と出会ったのだった。佐知は未だに結婚もせず、英人を愛していた。その事が分かっている英人は、佐知の事が急に心配になってきた。佐知は最近、仕事も手に付かない状態になってきていた。佐知は何も考えのないままフラフラと夜道を歩いていた。そこで、煙草を買いに出た英人とばったり会ってしまったのだ。覇気がない佐知の姿に、英人は慌てて車から降り近づいた。佐知の顔を見つめた英人は、おもむろに顎を手で持ち上げキスをした。英人 
は、その後佐知を車に乗せて家まで送った。佐知は日本人であったが、在日韓国人の英人の事を日本人の男にはない真実の愛を感じていた。それ以降、毎晩のように二人で会うようになっていった。そんな生活が半年程経った時、サラに言われた一言で、英人は子どもを残したまま家を出てしまった。英人はその後佐知と会い、とにかく車を走らせた。目指すは誰も知らないところであった。英人はどこかわからないところであったが、車を止め用意していた七輪に練炭を燃やし、佐知と手を繋いだ。
 その数日後、二人は手を繋いだままの状態で、遺体となって見つかった。慌てて駆けつけたハナは、愛を貫き通した英人と佐知の手を、そっと握り締めた。サラは英人が亡くなった事を知り、我が子を置いて祖国へと帰っていった。英人の子どもは、その後ハナとカケルの養子にして、ハナが育てる事にした。残された二人の子どもは、当時二歳と九カ月の子であったが、ハナは大切に育て上げた。おかげで二人ともハナ想いの優しい子どもに育っていた。
 いつかどこかでこの子たちに、悲しい真実を話さないといけなかったハナだったが、思い出すだけで悲しくなり、いつまで経っても話せないでいた。そんな時、当時物心ついていたユナの子どもから、悲しい現実を知る事となった。遅かれ早かれハナも話そうと思っていたので、孫たちを怒りはしなかった。ハナの可愛い孫たちは、英人のような綺麗な心で育ってくれていた。この事をハナは『きっと英人が見守ってくれていたからなのだ』と思っていた。
 先に英人のところに旅立ったカケルが、英人と出会っていると信じていた。ハナはすっかり年老いていたが、孫たちに囲まれて幸せに暮らしていた。いつもより起きるのが遅いハナが心配になり、寝室に見に行ったユナは、息をしていないハナを発見した。ハナは胸元で、英人と佐知の写真を握り締めていた。いつかどこかで英人と佐知が結ばれる事をサラも願った。 
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