山姥はおこだよ

春秋花壇

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ときめきかやすらぎか

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「遊が達也さんと遊ぶの」

「樹里が画像で遊ぶの」

心の中の葛藤が騒がしい。

山姥はたまには一人でゆっくりしてみたかった。

掃除もあるし片付けも。

「わかった」

「じゃあ、今日は主人格で」

お正月用にと買った料理が大量に余っていたり、

食べ終わったなべが空いていたり、

大家さんが玄関前においていった

腐葉土の片づけがあったり、

結構、しなきゃいけないことは沢山あった。

お雑煮は一度もまだ今年食べていなかった。

とりあえずおなかがすいたので、

お雑煮を作ることにする。

そこに、上条大地さん登場。

山姥は明治神宮以来なんだけど、

確か昨日、樹里ちゃんが一緒に池袋のサンシャインどおりに

出かけたはず。

記憶を整理して応対する。

「アマゾンから荷物が届いたから、

貰ってほしいんだけど」

「?」

きれいな包装紙でくるんだ小さな箱。

「開けていい?」

「どうぞ」

中には、プラチナのペンダント。

「ありがとう」

「気に入った?」

「かわいい」

「よかった」

彼と一緒にいても、楽しいけど、ちっともどきどきしたりしない。

遊ちゃんのように、耳までまっかになったりしない。

キュン死もしない。

ゆるい微笑み。

遊ちゃんは、達也さんといるとき、スカイプなのに、

目を潤ませ、心ときめかせ、

喜びに満ちている。

その代わり、達也さんが

「ああああああああ」

って叫んだり、

ラインや遊ちゃんのことを避けてるのかなって態度に出られると、

何も見えなくなり何も手につかなくなる。

「この違いは何」

「恋してる人と愛してくれる人」

「そのペンダント、達也さんに軽いって言われるから

つけてもらったりしないでね」

いろいろ、注文が細かい。

山姥は、遊ちゃんが達也さんを好きなのはいいが、

嫌われることを余りにも恐れ、

一挙手一投足に神経質になりすぎているように思えた。

「そういう状態ってさ、ずーと一緒にいられないんじゃないの?」


「みるくちゃんみたいに、年中パニックになったり、

神経すり減らして、疲れきっちゃうんじゃないの?」

自問自答。

「お雑煮作ろうと思うんだけど、召し上がります?」

「あ、今年まだ食べてない。」

「じゃあ、ご一緒に」

二人分の菜鶏の雑煮をつくった。

ワケギと柚子を散らして、彩を添えた。

「うーん、香りがいいね」

「お餅もおいしい」

「鶏肉も下味がついてて、おいしい」

まるで給食で男子生徒と一緒に食べてるみたいに、

やっぱりときめきも恥ずかしさもない。

どきどきときめきすぎるのも疲れるし、

かといって平静でいられるのも味気ないし、

なかなか、うまくいかないね。

ものすごく、贅沢な悩みなのかもしれない。

結婚するなら、二番目に好きな人と……。

そんなセリフをどこかで聞いたことが逢ったようななかったような。

「ブルマンのおいしいお店を見つけたんだ。いかない?」

しいて断る理由もなかっので、お供することにした。

カフェ・ベルニーニ。

珈琲が好きな人なら、一度入ってみたい店だろう。

落ち着いた感じのお店。

「大人の雰囲気ね」

「スタバとはぜんぜん違うね」

「スピーカー、新しいのが届いたんだけど

うちによらない?」

「聞いてみたいです」

別にほんとはどっちでもいいのだけど。

マンションに着くと、びっくり。

このみのアナログ設定。

「うわー」

そういえば、達也さんのお母様はピアノの先生で、

今日、遊がBill Evans - Waltz For Debbyをかけたのに、

全く聞こうともせず、いつも歌う曲もアニメの曲。

クラシックがすきという割には、

音楽の話を共感できなかった。

接点は小説だけなのかな。

もっと、達也さんの生活が知りたかった。

タンノイのスピーカーをわざわざ、

わたしの好みに合わせて買ってくれた大地に感謝。

「こういう人と一緒になったら、

ほんとに幸せに暮らせるんだろうな」

ときめきか安らぎか

むずかしいよね。

静かにYo-Yo Ma, Kathryn Stott - Ave Mariaが流れる。

このままここにずっといたいと思った瞬間だった。


ウインリイちゃんには
冒険とウエディングドレス
つかささんには
冒険とたくさんの栞とピカチュウのストラップ、金平糖の根付け
リビエラちゃんには
たてと迷宮
どうしてわたしには何もないんだろう
みるくにはたくさんの時間を使ったって
半年も前の話><


うーん
どうしていつまでも
忘れられないのかな
愛されてないのに



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