春の嵐

春秋花壇

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春の嵐

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春の嵐

陽光降り注ぐ桜並木を、少女さやかは軽やかに駆け抜けていた。風に揺れる花びらが舞い散り、まるでさやかを祝福するかのように彼女の髪に降り注ぐ。春爛漫、絶好の花見日和。さやかは、待ちに待った遠足に胸を躍らせていた。

目的地は、山奥にある古刹「天龍寺」。桜の名所としても有名で、毎年この時期には多くの人々が訪れる。さやかは、幼い頃から天龍寺の絵馬に描かれた桜の絵に心を奪われていた。それは、まるで夢の世界のような美しさで、さやかはいつか自分の目でその桜を見たいと願っていたのだ。

遠足バスに揺られ、山道を進むにつれ、景色は徐々に変化していく。街の喧騒が遠ざかり、木々の緑が濃さを増していく。そして、ついに天龍寺に到着。眼前には、絵馬で見るよりも美しい桜が広がっていた。

満開の桜は、まるでピンク色の雲海のように山を覆い尽くしている。その圧倒的な美しさに、さやかは言葉を失った。そよ風に揺れる花びらが、さやかの頬を優しく撫でる。

枝垂桜を中心に200本の桜がたおやかに風になびく姿は、ソメイヨシノや他の桜にはない力強さがあった。スカートをまくるほどの突風にも負けず、枝がそよぐ。
桜は樫の木と同じように硬い木だが、枝垂桜は風をいなすことができるという。

「柳に雪折れなし」

と、同じだとガイドさんが説明していた。

さやかは、友達と花見を楽しむ。お弁当を食べ、桜の下で写真を撮る。そして、さやかは一人、静かに桜を眺めていた。

ふと、さやかは背後から声をかけられた。振り返ると、そこには老婆が立っていた。老婆は、優しく微笑みながらさやかにこう言った。

「美しい桜でしょう?この桜は、昔から人々に愛されてきたのです。春が訪れるたびに、人々に希望を与えてくれます。」

さやかは、老婆の言葉に深く頷いた。確かに、この桜は見る人に希望を与える力を持っている。さやかは、この桜を一生忘れないだろう。

「わたしも、たおやかさとしなやかさを身に着けたい」

その夜、天龍寺周辺に突如として嵐が吹き荒れた。強風と雷雨は、桜の木を揺さぶり、花びらを散らしていく。さやかは、嵐の音を聞きながら、天龍寺の桜が心配でならなかった。

翌朝、さやかは恐る恐る天龍寺を訪れた。すると、驚くべき光景が目に飛び込んできた。嵐によって多くの桜が散ってしまっていたが、それでもなお、残った桜は力強く咲き誇っていた。

さやかは、その光景に心を打たれた。嵐に負けず、懸命に咲き続ける桜の姿は、まるで希望の象徴のようだった。さやかは、この桜から強い勇気をもらった。

さやかは、天龍寺を後にし、帰路についた。別れ際に、さやかは桜の木に向かってこう呟いた。

「また来年、必ず会いに行くからね。」

さやかは、来年もまたこの桜を見に来ようと決意した。そして、この桜のように、どんな困難にも負けずに力強く生きていくことを誓った。

春の嵐は、さやかに忘れられない思い出を与えてくれた。それは、希望と勇気の物語だった。

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