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僕はもふもふのジュリアーノ 星は瞬く

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「泣かないで、ママ」

僕が死んでから、僕は小さな星になって

ずっとママを見守ることにしたんだけど。

ママは以前にも増して、泣いてばかりいる。

母親、二人の子供、そして愛犬である僕の死。

どよーんとした喪失感から抜け出せないみたいなんだ。

保健婦さんは、また妊娠することをとっても心配して、

リングや避妊の指導を丁寧にしていた。

でもね、ママはどうしても女の子が欲しかったみたい。

名前までつけてあるんだ。すごいよね。

ママは、解離性同一性障害で、年中記憶が解離性健忘という

症状でなくなってしまうんだけど、

子供を愛したいという強い願望がママの のぞみ。

愛着障害だと診断されたのにね。

きっと、本とはいっぱい愛されて育ったと思うんだ。

ただ、ママは自分が病気で親を喜ばせることができなかったから、

幻覚、幻聴、家出、窃盗で解離性遁走で、

親を沢山困らせてきたから、

記憶を塗り替えてしまったのかもしれない。

だって、愛されて育ったのに、

恩返しどころか、問題行動ばかりしてたとしたら、

どうしようもない生きる価値のない子供ってことになっちゃうでしょう。

ママは、僕をお庭のバラが沢山あるところに埋めたの。

そして、夢の中で僕とお散歩に行くようになったんだ。

とっても楽しかったよ。

「ジュリアーノ、今日は竹やぶのほうに行ってみようか」

さーと風でそよいだ竹がすごくきれい。

「ジュリアーノ、今日は川に行ってみようか」

さらさらと流れる水面がきらきら輝いて爽やか。

ママは、アルコール依存症じゃなかったら、

きっと、毎日僕とお散歩して、

すごく楽しい日々を送れたんだと思う。

ママはね、自分でお金をためて、このおうちを買う前に、

指圧の学校に行ったんだけど。

病気のせいで、3度も高校を退学させられてたから。

どうしても、卒業したかったみたいなんだ。

だってね、専門学校なのに、奇跡のように入学を認めてもらえたから。

それもね、お座敷で校長先生にお会いして、

奇跡のようにそこからお話がスタートしたみたいなの。

あ、ママはね、昔、芸者さんだったの。

入学するちょっと前にね、腹膜炎で手術したんだって。

その時には、ママは、母親を引き取って

シングルマザーで生んだ子どもがいたから、

このまま仕事ができなくなるのはとても困ると思ったんだって。

弟の大学院のお金も出してたから、

いっぱい稼がないとだめだったんだって。

で、手に職があれば、生活しやすいだろうと思ったみたいだよ。

指圧の学校をがんばって卒業したのに、母親がすい臓がんになって、

苦しんでいるのに、毎日やせていってるのに、

何もできない自分がすごく悲しかったみたい。

そうなる前はね、漢方も勉強して、

小児喘息の治療に励んでいたの。

患者の子供たちはどんどんよくなって、

ママは、ああ、指圧を勉強できてよかったって。

初めて、生まれてきてよかったって。

生きていてよかったって。

喜びに満たされていたんだ。

なのに……。

ちゃんと、自己肯定感が出来上がる前に、

また、無力のどん底に戻されて、ほんとにしんどかったんだろうな。

僕はね、ジュリアーノ。犬だけど、弟を大学院まで出して、

父親が死んだ後、母親を引き取って、

シングルマザーで子供を育てて。

それだけでもすごいと思うんだけど。

ママは、自分の価値を評価できなかったみたい。

「ざるなの」

満足が壊れているって、自分で言っていた。

体も芸者をやめる前、相当疲れていたみたいで、

いつの間にか、お座敷に行く前に、近所の居酒屋でいっぱい飲んでから

お仕事に行くようになってたの。

それがとっても危険なことだって、

誰も気づかなかったんだよね。

今の人は、ブラック企業とか言って、

ちょっと残業すると、働きすぎだとか言うじゃない。

でも、底辺で生きている人は、

海援隊(武田鉄矢)の『母に捧げるバラード』は永らく名曲とされてきたが「いいか鉄矢 人様の世に出たからには働け 働いて働いて 休みたいとか遊びたいとか 思ったその時は 死ね それが男だ それが人間だ」みたいなことを歌って(語って)いるので、もはや時代にそぐわな過ぎて放送できない。ツイッター引用

そんな時代だったんだよね。

牡蠣であたったときでさえ、すごい痛みの中で日曜も休まずに仕事してたんだよ。

壮絶だよね。生活がかかってるんだね。面白いね。

働いて、働いて、アルコール依存症に

最初の一杯目からなってしまったママを

僕は夜空の星になっても、ずっと応援し続けたいんだ。

だって、殺処分になるところを貰ってくれたんだから。

本とはいっぱいいいところがあるって僕は知ってるから。

読んでくださってありがとう。




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