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僕はもふもふのジュリアーノ ボーイスカウト脱走事件

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「少年がいなくなったんですけど、そちらに戻っていませんか」

「いいえ、戻っていませんし、連絡もありません」

「わかりました。こちらも全力を尽くして探します。

連絡がありましたら教えてください」

僕はジュリアーノ。マルチーズ。

昔、ママに飼われていた。

今はお空のお星様。

ママを守りたくてそばにいる。

ママは少年とお嬢ちゃんを連れて、毎週土曜日に

パパさんのマンションに行き、食事をしたり、

一緒にビデオを楽しんだりしいた。

月曜日の早朝、一緒に帰ってくるのだか、

とても爽やかな日々だった。

少年は、小さな頃から、カブスカウトをしていて、無事に卒業した。

次のステップであるボーイスカウトの合宿が行われた。

いつものように炊飯をして、トイレを作り、

みんなでわいわい過ごしていたようだ。

なのに、突然、どうしたー。

カブの時は、そんなことはなかったようなのだが、

ボーイスカウトでは一番下っ端。

同級生の同じ学校のボーイスカウトの仲間と

残った食事の食べ比べをしたという。

ものの見事に負けてしまった。

作りすぎたカレーを食べ切れなくて、

根性なしが逃げてきたらしい。

と、書いたら今隣で少年がつねった。

まあ、書かれて嬉しいことではないのだろうが……。

少年の黒歴史?

家でやきもき、心配して待っていると、少年から電話があった。

迎えにいき、事情を聞いた。

「そうか、まけちゃったのか」

「がんばって食べたんだね」

「努力できてえらいね」

ほめるべきところはほめた。

「で、どうしたいの?」

このまま、連絡し、家に戻るか、もう一度合宿に参加するか、

少年は戻ることを選んだ。

彼の自由意志を尊重しようと思った。

少年に転ぶ権利があることを学んだから。

ママもそれでいいと思った。

少年もママと同じで、メンタルが豆腐だから、

ちょっとしたことで、なにくそと思うよりも、

勝手に先に体が拒否反応を示してしまうのかもしれない。

でも、少年のよいところは、また立ち向かっていくところだ。

不屈の精神。とっても大切なことだよね。

ママは、施設長に

「少年を女の子に育てるつもりか」

と、言われてから、男らしさとは何かを常に考えてきた。

男の考える男らしさと、女の考える男らしさはきっと違うと思うのだが、

これから君は何度も何度も失敗するだろう。

時には、もうだめだと思うようなことがあるかもしれない。

どうせ自分なんてと卑下したくなるかもしれない。

落ち込むかもしれない。

泣いてしまうこともあるかもしれない。

死にたくなることも放り投げたくなることもあるだろう。

それでいいんだよ。

だって、そんなことがなかったとしたら、

きっと、君は何もしなかったということなんだから。

周りの景色を楽しみながら歩くのもいいかもしれない。

とっても楽しいと思う。

でも、時には一歩一歩、足を引きずって

闘って這い上がるような道もあると思う。

何があったかじゃない。

どうとらえ、どう対処するかなんだ。

それが男だと思う。

そもそも、きみをカブスカウト、ボーイスカウトに入れたのだって、

様々な問題が起きたときに、他の男の人たちが

仲間の少年たちがどう考え、どう捕らえ、どう対処するかを

学んで欲しかったからなんだ。

男は男の背中を見て育つ。

昔から感じていたのだが、

ママが考えるよりいつも少年はナイーブだった。

幼稚園の頃、泥んこ遊びをさせようと

泥んこの中で押し倒そうとしたら、

「お洋服が汚れるじゃない」

確かに、近所でも評判の

デパートの服を着ている少年だったのだが……。


読んでくださってありがとうございます。

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