お前を殺してわたしも死ぬ

春秋花壇

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お前を殺してわたしも死ぬ

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「お前を殺してわたしも死ぬ」

頬に日本刀を当てられて、

身動きが取れない。

歯止めがしていないのも知っている。

父が居合いで竹を切っていたから。

ぽんぽんぽん、小さい頃、日本刀に手入れをしている

父を見ているのが好きだった。

静寂。そんな言葉がよく似合う光景だった。

父は泣いていた。

大きな瞳は、潤んでいる。

「悪い、殺す価値もないよ」

「もうさー、ついてこないでよ」

「頼むからほっといてよ」

「面倒見る価値なんてないんだからさ」

「どうしたらいいかって、聞きたいのはこっちだよ」

「いったいどうなってんだよ」

「なんでいつもこうなつちゃうわけ」

言葉が心から洪水のようにあふれ出す。

今度こそと思った三度目の高校も、

ある事件を機会に失われていく。

両親はどうしようもないわたしを

何とか高校だけでも出してあげようと必死だった。

だから、今度こそ、ちゃんとしようと

こんなところまできたのに……。

紡績工場に通いながら高校を卒業できる。

願ってもいない場所だったのに。

いや、そうじゃないな。

無力なくせに、傲慢の風船を膨らませていた私は、

たかをくくっていた。

たかが、定時制。

しかも、こんな広島の○○島の分校。

ここなら、多分一番取れるし、

がんばれる。

そう思っていたのだ。

ところが……。

ふたをあけてみたら、わたしより勉強してる人たちは沢山いた。

「はーー?」

「うそでしょう」

「WHY?」

知能指数165はどうしたーー。

このわたしが……。

勉強で負けるなんて。

普通なら、ここで心を入れ変えて、

勉学に励むとか、勉強の方法を変えて、

行間を読むとかやりようはあったろうに。

もがき、あがき、苦しむ。

幻覚と幻聴の中で、勉強をする習慣さえすでになくなっている。

「がんばろう」

「やればできるこなんだから」

「あはははは」

もうさー、笑って誤魔化すしかないじゃん。

必死に全うになろうとするわたしに、

飢え子のように、絡んでこようとする男子生徒。

悪いが異性にまったく興味はなかった。

だって、3歳のときから何度も監禁されたりしていたから……。

だからー、ほつといてよ。

なのに

なのに・・・。

なのに・・・・・。

教科書を隠された。

聞けば、一つ↑の男子生徒がもって帰ったという。

周りの生徒に犯人の男子生徒の家を聞き、

疑うことを知らないおばかな女の子は一人で返してもらいに行った。

家にたどり着く。

話をし、返してくれるように頼んだ。

「家に入れば」

「おうちの方がいらっしゃるんですか」

「いるよ」

その言葉に安心した。

ほんとにおばかな子。

中にいたのは、もう一人の男の子。

家に入った途端に、襲われた。

「ふざけんなー」

「私はお前らに陵辱されるために

こんなところまできたわけじゃないんだ」

二人をどうにか押しのけ、逃げてそのまま駐在に駆け込んだ。

狭い島のこと。

その日のうちに、噂は駆け巡る。

次の日、何食わぬ顔で登校したら、

「やらせてあげればよかったのにね」

だって。

「お前がやらせてやればいいじゃん」

売り言葉に買い言葉。

言われっぱなしで黙ってるようないい子じゃないんだよね。

なんせ、中一で村始まって以来の悪ですからw

その日からメンタルがたがた。

荒れる。セルフネグレクトする。

ふてくされる。

何があったかが問題じゃないのに。

どう対処するかが大切なのに。

頭痛がひどくなる。学校をサボる。

アンパンやってる男の子と友達になって、

ずーと海を眺めていたな。

頭痛がひどい。

痛み止めを飲む。

過敏に薬に反応するわたしを今度は、

別な男の子たちが8人で山に連れて行く。

また逃げる。

また、駐在へ。

「もう、なんなんだよ」

この島は、性犯罪の巣。

すきだらけにみえたんだろうな。

だって、ありがたい父親が、

NHKのニュースしか見せないで、

何も知らない純正培養なんですから。

手を握ったこともキスをしたこともないんですから。

あげくに、家は小さいときから料理屋で、

知らず知らずに男に媚を売るようなことが

身についていたのかもしれない。

相手ばかりが悪いんじゃないんだろう。

この世は鏡なんだから。

私はわたしの運命を呪う。

まるで、不幸になる魔法かけられている悲しい少女のように。

仕方なく、手に負えないわたしをもてあまして、

母は、父を呼んだ。

山30町歩、田10町歩。

没落セレブが、先祖伝来の不動産を人に預けてくるって、

大変なことなんだよ。

それをわたしのために……。

それはもう、地獄の負い目。

しかも、解決策があるならともかく。

そして、冒頭の文章に移行する。

もう、この島にもいられない。

だって、家に帰ったら父を人殺しにしてしまうもの。

こうして、また幻覚幻聴の中を

家出を繰り返す。

そして、保護されて保護センターで、

箸にも棒にもかからないと婦警さんから言われる。

みんなのように、のほほんと学園生活送りたかったな。

落書きの黒板、紺色のジャンパースカート、

白い上履き。皮の学校かばん。

白いソックス。黒のコインローファー。

好きだったのにな。

海鳴りは聞こえますか。

波のしぶきはあなたの胸に届きますか。

「おはようございます」

今日も新しい一日が始まる。


すきを使う農夫が畑にまっすぐな畝を立てたい時には,まっすぐ前を見つづけなければなりません。後ろを振り向いたりすればその畝は曲がってしまうことでしょう。自分がつまずいてしまうこともあるかもしれません。イエスの足跡に従う追随者たちの場合も同じです。たとえ一瞬であろうと,後ろを振り向き,この古い事物の体制を見るなら,問題を招き,足をつまずかせ,『命に至る狭められている道』からそれてしまうことになります。

PS.

父様、わたくしは今、ようやく少しだけ

正気で生活することができているようです。

毎日、自分と折り合いをつけ、

過去を整理しながら、

不完全さを受け入れ、

大嫌いだった自分と折り合いをつけ

自己肯定感を高めています。

自分の愛する娘を殺さなければいけないほど、

自堕落な生活をして本当にごめんなさい。

中学校で精神分裂症で入院と診断されたときの

父様の悲しみはいかばかりだったでしょうか。

わたくしの前には、いつも

「人生、いつも勉強」

と、広辞苑と字源をそばにおいて

勉強していたあなたがいます。


「世界中のみんながお前を悪い子といっても

父様と母様はいいえ、あの子は優しい子だというよ」


百行の基を

教えて

その後は

ただにみつめて

云わざりにけり


わたくしは愛着障害なんかじゃない。

ちゃんと愛されていたんです。


あなたの短歌が心のお守りです。

ありがとうございます。


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