ギリシャ神話

春秋花壇

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創作

「おなかをかかえてわっはっは」

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創作ギリシャ神話　「おなかをかかえてわっはっは」

　オリュンポス山の午後は、今日も退屈だった。
　神々は雲の上の会議室であくびをかみ殺しながら、ゼウスの長話を聞いている。

「……ゆえに！　人間界にもっと“秩序”が必要なのだ！」
「（もう三時間目だぞ……）」
　アポロンが竪琴の弦をいじりながら、こっそり隣のヘルメスに耳打ちする。
「ねえ、何か面白いことでもして気分変えようぜ」
「お前の“面白いこと”って、だいたい雷が落ちる結果になるんだが」
「いいじゃないか、落雷芸だ」
「芸じゃねえよ！」

　ゼウスの声が響く。
「そこで！　“真面目な神々”を表彰する！」
　――ざわっ。
　その瞬間、空気が凍りついた。

「ま、真面目って……基準は？」
「日々の行い、だ！」
「それ、一番やばいのあなたじゃ……」
　と、ヘルメスが小声で言った瞬間、ゼウスの雷が**ピシャーン！**
　床の大理石が焦げた。

「誰だ今の！」
「（バレた！）」
「ゼウスの神聖な名を口にした者は……罰として！」
「また罰ゲームか……」
　アテナが眉間を押さえる。

---

「いいか、神々よ！」
　ゼウスが胸を張る。
「今から“笑ってはいけないオリュンポス”を開催する！」
「なんでやねん！」
　思わずディオニュソスがツッコミを入れる。
「笑った者は、雷の刑！」
「うわー、デンジャラス番組だな……」
「だが報酬は“神の蜜酒一年分”だ」
「よしやろう！」
　一斉に前のめり。
　神々の食欲と好奇心は、いつも倫理を上回る。

---

　最初の挑戦者は、ヘルメス。
「よーし、俺が司会する！　テーマは“神々の変な習慣選手権”！」
「やめろ！」とアポロンが真っ先に叫ぶ。

「第一位、アポロンさん。鏡の前で“今日の俺は太陽より眩しい”と毎朝言う！」
「それは詩的な儀式だ！」
「詩的というより自撮りだろ！」
　クスクス……
　女神たちが笑いをこらえる。

「第二位、ポセイドン！　毎晩波に向かって“今日もいい波だったな”と語りかける！」
「当然だ！　海は私の妻だ！」
「愛が深すぎる！」
　パン！とアテナの手からお茶が吹き出した。
「笑ったな！」
「お茶が熱かっただけ！」

---

「では第三位、アレス！　“筋トレ中に鏡を見て戦うポーズを決める”！」
「筋肉は芸術だ！」
「それを五時間やるのは芸術じゃなく執念だ！」
　アレスの顔が真っ赤になる。

　そのとき――
　後ろの方で小さな笑い声が漏れた。
「ぷっ……」
「誰だ！　笑ったのは！」
　ゼウスが雷を握る。
　そして見つかったのは――ヘラだった。

「わ、私じゃないわよ！」
「お前が笑うと雷が止まるんだぞ！」
「あなたの顔が真面目すぎて、つい……！」
「どういう意味だ！」
「（ほんと夫婦漫才だな）」とヘルメス。

---

　次の瞬間、ディオニュソスがワインの壺を持ち上げた。
「もう我慢できん！　宴にしよう！　笑いすぎて腹が減った！」
「おい！　それは真面目な会議中だ！」
「だからこそ飲むのだ！」
　彼がワインを振ると、壺が爆発し、泡が飛び散る。
　アポロンの髪にブドウが絡まり、ポセイドンの顔に泡がつく。
「俺の髭がピンク色になった！」
「うわあ、神の泡風呂みたい！」
「やめろぉおお！」

　その様子にヘルメスが吹き出した。
「ぷっ……はははっ！」
「笑ったな！　雷の刑！」
「ぎゃああ！」
　ビリビリビリ――！！
「おお、神話史上初の“通電司会者”だ！」

---

　だが笑いの伝染は止まらなかった。
　ゼウスのヒゲに静電気が走り、ピンッと立つ。
「わははは！　父上のヒゲ、アンテナみたい！」
　アレスが爆笑。
「やめろ！」
「いや、どう見ても電波拾ってる！」
「グ、グォオオオオ！」
　ゼウスが雷を構え――
　その瞬間、ポセイドンの水しぶきが飛び、雷と混ざった。

　**ドカーーン！！**

　爆発。
　泡、雷、ヒゲ、パンくず（なぜか出た）――
　オリュンポス中に飛び散った。

「うわあ、眩しい！　なにこれ、天界のカラオケ？」
「煙がワインの香りする！」
「わたしのドレス、トーストみたいな匂いになってる！」

---

　しばらくして、雲が晴れた。
　ゼウスの髭は完全に逆立ち、アポロンの竪琴は焦げ、
　ヘルメスのサンダルからは煙が立っていた。

「……もうやめよう」
　アテナが額を押さえた。
「学びました。神々に“笑ってはいけない”は無理です」
「そ、そうね……」
　ヘラが笑いながら涙を拭う。
「腹が痛い……もう笑えない……」
「ま、まさか本当に“おなかをかかえてわっはっは”とはこのことだな……」
　ヘルメスが苦笑しながら言う。

　ゼウスがふらふら立ち上がる。
「……勝者は誰だ？」
「全員だ！」とアポロン。
「なぜだ？」
「だって全員笑ったから！」
　一瞬の静寂――そして。

　**「わっはっはっはっはっはっは！！！」**

　オリュンポス山が揺れるほどの大爆笑。
　山の雪が崩れ、雷がまたひとつ落ちた。

　その日、人間界では突然空が光り、
　人々はこう言った。
「神様たち、今日も楽しそうだな」

　――そして後に、酒場の壁にこう書かれたという。
　**“笑う神に福来たる。雷はオマケ。”**

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