ギリシャ神話

春秋花壇

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創作

月光の神殿

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「月光の神殿」

ミコノス島の夜、海風に揺れるオリーブの木々が、月の光を浴びて銀色に輝いていた。遠くからは穏やかな波音が響き、静寂が大地を包んでいる。島の北部に佇む白亜の教会、パラポルティアニは、その美しさから「神の住処」と呼ばれている。この夜、教会は何か特別な光に包まれ、古代の神々の息吹を感じさせる異様な静けさが漂っていた。

若い女性、アナスタシアは教会の前で立ち尽くしていた。彼女は島で育ち、この場所には幾度となく訪れたが、今夜は何かが違った。彼女の胸には、祖母から代々受け継がれた古びた銀のペンダントが光を放っていた。

「おばあちゃん、なぜ私にこれを託したの?」アナスタシアは幼い頃、祖母が語っていた古い伝承を思い出しながら、自問した。ペンダントはかつて、月の神アルテミスに捧げられたものだという。彼女は、アルテミスが教会の中で眠っているという話を聞いて育ったが、それを信じたことはなかった。だが今、アナスタシアは不思議な引力に導かれるように教会の扉を押し開けた。

中に入ると、白い壁に囲まれた狭い空間が広がっていた。月の光がステンドグラスを通してやわらかく床に落ち、まるで神々の儀式が始まるかのような神聖な空気が漂っている。アナスタシアは静かに歩みを進め、中央の祭壇に近づいた。

すると、突然ペンダントが熱を帯び、光を増していった。アナスタシアは驚き、思わず胸元に手をやる。ペンダントの光は次第に強くなり、やがて教会全体を照らし出すほどに明るくなった。

その瞬間、祭壇の背後から優雅な声が響き渡った。「我が娘よ、何故ここに来たのか?」

アナスタシアはその声に驚き、振り向くと、目の前に現れたのは長い銀髪と白いローブをまとった美しい女性だった。彼女は、アルテミス――月の女神そのものであった。

「あなたが……アルテミス……?」アナスタシアは信じられない思いで声を震わせた。

アルテミスは静かに微笑んだ。「そうだ。そして、我が娘よ、我を呼び覚ましたのはお前だ。お前に託された銀のペンダントは、我がかつての力を封じ込めていた。そして今、お前の中に流れる血が、その力を再び呼び起こしたのだ。」

アナスタシアはその言葉に混乱しながらも、祖母の言葉が脳裏によぎった。「このペンダントを持つ者は、神々と深い絆を結ぶ運命にある。」

「では、私は何をすべきなのですか?」アナスタシアは女神に問いかけた。

アルテミスは優しく彼女の肩に手を置いた。「我が力は、もはやこの地上では不要かもしれない。だが、我が娘よ、お前には特別な使命がある。この島と、そしてこの教会を守ることだ。古代の力は失われつつあるが、お前がその火を灯し続ける限り、この地は神聖であり続けるだろう。」

「私は……そんな大それたことは……」アナスタシアは恐れを抱いた。自分が普通の人間であり、この大いなる力を持つにふさわしい存在であるとは思えなかったのだ。

アルテミスは彼女の不安を見抜いたように微笑み、囁いた。「全ての力は、信じる心と行動から生まれるのだ。我が娘よ、お前は私の血を引いている。お前ならば成し遂げられる。今宵、月はお前を祝福し、その道を照らしてくれるだろう。」

女神の姿が次第に薄れていく中で、アナスタシアは何か熱いものが胸に宿るのを感じた。祖母から受け継がれた血筋と、その中に秘められた力――彼女は初めて自分の使命を理解し始めたのだ。

教会を出た時、月光はますます冴え冴えと輝き、彼女の未来を優しく照らし出していた。アナスタシアは空を仰ぎ見て、静かに誓った。「私はこの島を守り、祖先の力を受け継いでいく。」

その日から、アナスタシアはパラポルティアニ教会の守護者となり、神々の力を継ぐ者として新たな一歩を踏み出した。








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