ギリシャ神話

春秋花壇

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創作

ヘーラクレース、不死の力とヘーラーの試練

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「ヘーラクレース、不死の力とヘーラーの試練」

ヘーラクレースが生まれた夜、オリュンポス山の頂きでゼウスは静かに思案していた。彼の息子ヘーラクレースは、人間の血を引きながらも、神々の血を宿す存在だった。だがゼウスは、それだけでは満足できなかった。息子を完全に神の力で守り、不死の存在にしたいと強く願っていた。だがそのためには、ゼウスの妻ヘーラーの力が不可欠だった。

ヘーラーは、ゼウスの浮気とその結果生まれた子供であるヘーラクレースを憎んでいたが、彼女の母乳は神々の力を与える不思議な力を持っていた。ゼウスは、息子を不死の存在にするため、ヘーラーの母乳を与える策を考えた。そして、ある晩、ゼウスは眠っているヘーラーの元へこっそりとやってきた。

ゼウスは静かに赤ん坊のヘーラクレースを抱き、眠っているヘーラーの胸に近づけた。「これで、お前も不死の神となる」と囁きながら、彼はヘーラクレースに母乳を吸わせた。赤ん坊のヘーラクレースは驚くほどの力で乳を吸い始めた。だが、その吸引力は想像を超えており、ヘーラーは痛みに目を覚ました。

「痛っ!これは何だ!」ヘーラーは激しく叫び、目を覚ますと同時に赤ん坊を突き飛ばした。乳が飛び散り、空高く舞い上がっていった。その乳が夜空を白く輝かせ、天の川——「ミルキーウェイ」を形作ったのだ。

ゼウスはすぐに姿を消し、ヘーラーが何が起こったのかに気づく前に、ヘーラクレースをアルクメーネーの元へ戻した。だが、ヘーラーはただで済ませる女神ではなかった。彼女は自分が無意識にヘーラクレースに神の力を与えてしまったことを知り、怒りと屈辱で心を燃やした。

「ゼウスの浮気の子供に、不死の力を授けるなんて!私は決してあの子を許さない。必ず報復してみせる!」

その思いを胸に、ヘーラーは密かに策を巡らせた。まず、ヘーラクレースを危険な目に遭わせることを決意した。彼女は魔術を使って、二匹の巨大な蛇を召喚した。蛇たちは鋭い牙を光らせながら、赤ん坊のヘーラクレースとイーピクレースが眠っている揺り籠へと静かに忍び寄った。

ヘーラーは、自分の目で復讐の瞬間を見届けようと、遠くからその様子をじっと見つめていた。「あの子を殺してしまえば、ゼウスの計画も無に帰すだろう……」

蛇たちは静かに近づき、赤ん坊たちの体に巻きつこうとした。だが、その瞬間、ヘーラクレースが目を覚ました。彼は生まれたばかりとは思えぬほどの力で、素手で蛇の一匹を捕まえると、すぐにその身体を締め上げた。驚くべきことに、ヘーラクレースは赤ん坊の手でその蛇を絞め殺したのだ。

もう一匹の蛇も、ヘーラクレースの強力な手で同じ運命を辿った。イーピクレースは驚いて泣き叫んでいたが、ヘーラクレースは泣きもせず、まるで何事もなかったかのように蛇の死体を掴んで微笑んでいた。

「な……なんという子供だ!」ヘーラーは驚愕の表情を浮かべ、すぐにその場を去った。ヘーラクレースがまだ幼いにも関わらず、すでに神々の力を示したその光景に、彼女の計画は失敗に終わったのだ。

その朝、アルクメーネーは二匹の死んだ蛇を見つけ、驚きのあまり声を失った。だが、ヘーラクレースがどうやって蛇を殺したのかを知ると、彼がただの子供ではないことを悟った。彼女は同時に、この子を守るためには並大抵の覚悟では足りないことも理解した。ヘーラーの執拗な憎しみが、これからも続くことを予感していたからだ。

その夜、再びゼウスがアルクメーネーの前に姿を現した。彼はヘーラクレースの強さを見て満足しながらも、これから彼がどれほどの試練を受けるかを憂えていた。

「アルクメーネー、ヘーラクレースは私の子だ。だが、これから彼には多くの試練が待っている。ヘーラーは彼を憎んでいる。だが、私は約束しよう。彼がどんな困難に直面しても、私は決して見捨てない。彼は私の息子であり、やがて偉大な英雄となる。」

アルクメーネーは静かに頷いた。彼女はゼウスの言葉を信じながらも、息子を守るために心を固めた。

その後、ヘーラクレースは不死の力を授かりながらも、神々と運命の試練に立ち向かうことになる。彼の強さは、生まれながらにしてその姿を見せたが、それ以上に強いのは彼の心の勇気だった。ヘーラーの憎しみが何度彼を襲おうとも、ヘーラクレースは決して屈することはなかった。そして、彼の名は後に偉大な英雄として語り継がれることとなる。

だが、それはまだ遠い未来の話。今は、神々の思惑の中で育つ赤ん坊ヘーラクレースが、揺り籠の中で静かに眠っていた。






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