ギリシャ神話

春秋花壇

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創作

ピュトーナの影 - 悪霊の正体

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「ピュトーナの影 - 悪霊の正体」

アレクシアが過去を振り返り、解放されたと思ったその時でさえ、悪霊の影はまだ彼女を見守っていた。彼女が誓った平穏な生活は、ほんの一時のものだった。あの暗い夜の出来事を忘れることはできない。あの女性の目、空洞のように虚ろでありながら、どこか切迫した意志を感じさせる目を――。

アレクシアはその後、占いを放棄し、街を離れる決意を固めた。しかし、運命は再び彼女を試すことを決めた。数ヶ月後、彼女が新しい町で静かな生活を始めたころ、ある夜、再びあの影が現れた。今度は、暗い霧の中からではなく、ふとした瞬間に部屋の隅から、ひっそりと彼女の視界に入った。

「アレクシア、逃げられないよ。」

その声は、あの日聞いたものと同じだった。彼女の体は凍りつき、心臓が激しく鼓動し始めた。恐怖が一気に襲いかかる。その声が響くたびに、彼女の胸は締め付けられるような痛みに襲われた。

「あの時の悪霊だ…」

アレクシアはようやく口を開いた。その悪霊の正体を知らなかった自分が恥ずかしく、もう一度その霊と向き合わなければならないことに、恐れを感じていた。しかし、この恐怖に立ち向かわなければ、再び自分の魂が闇に引きずり込まれてしまうことを理解していた。

霧がゆっくりと濃くなる中で、アレクシアは声を振り絞った。「あなたは誰?」

そして、悪霊が答えた。

「私はピュトーナ。かつて、デルフォイの神託所を守護していた者だ。アポロに殺され、死後もその力を求めてさまよっていた。死者として存在する私たちは、神々の世界に足を踏み入れることは許されなかった。だが、私の魂は、力を求める者たちに乗り移ることで、再び生きることができた。」

その言葉を聞いたアレクシアは、過去の神殿の神託と占いの伝統が、いかに神々の意志を超えて邪悪な霊の力に支配されていたのかを理解した。ピュトーナ――その名は、ギリシャ神話のデルフォイの神託所に関連していた。

「アポロに殺された?」アレクシアは驚き、問い返した。「なぜ?」

ピュトーナの霊は、さらに語り続けた。「私はかつて、アポロの神託を預かる神殿で、最も力を持つ巫女だった。しかし、アポロが私を罰したのは、私が神々の意志に反して力を使いすぎたからだ。私は未来を見通し、神々の意志を超えて、人々を操る力を持ちすぎた。それが、アポロの怒りを買った。そして、彼に討たれた。死後も、私はその力を求め、様々な者に憑依し、力を使い続けてきた。」

アレクシアはその言葉を聞きながら、ピュトーナがただの死者の霊ではなく、力に執着し、神々の意志に逆らう者であったことを深く理解した。彼女の憑依は、単なる偶然ではなく、神々の支配に対する反逆の一部だったのだ。ピュトーナは、死後もなおその力を手に入れることを望み、アレクシアに取り憑いてその力を得ていた。

「あなたは、私にどんな目的があるのですか?」アレクシアは再び問いかけた。

「お前が力を捨てようとしていることは、私の計画を邪魔することだ。」ピュトーナの声が冷たく響いた。「私はお前に乗り移ることで、かつての力を取り戻し、アポロの復讐を果たすことを望んでいた。しかし、今、私はお前の中で消えようとしている。お前が私に立ち向かわなければ、私は永遠に消えない。」

その言葉にアレクシアは震えた。ピュトーナの存在は、ただの霊的な影ではなく、明確な目的と欲望を持っていた。そして、アレクシアの魂を完全に支配し、その力を手に入れようとしていることが、いよいよ明らかになった。

アレクシアはその瞬間、自分の中で強く決意を固めた。このまま悪霊に支配されるわけにはいかない。彼女の魂は、もはやその力に屈してはいけない。過去の過ちを反省し、神々に赦しを乞い、再び新しい生き方を選ぶことこそが、彼女に与えられた唯一の道だ。

「ピュトーナ、お前の力はもう私には必要ない。」アレクシアは声を強くして言った。「お前がどれだけ執拗に私を試みても、私はもうお前に屈しない。」

その言葉が、彼女の心に新たな力を宿らせた。アレクシアは両手を広げ、霧の中で深く祈った。その祈りが届いた瞬間、ピュトーナの霊は消え、闇の中に消え去った。

アレクシアは再び自由を得た。そして、彼女はもう一度、神々の意志に従い、過去を清算し、未来へと歩みを進めることを誓った。






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