ギリシャ神話

春秋花壇

文字の大きさ
1,003 / 1,436
創作

コリントの真実

しおりを挟む
「コリントの真実」

アカイア属州、ギリシャ南部の中心に位置する州都コリント。ここは、商業と信仰が交錯する繁栄の地だった。街中には古代の神々の神殿が建ち並び、活気あふれる市場では異国の品々が行き交う。その一方で、陰に隠れた別の声も存在した。

その声とは、ナザレのイエスを信じる者たちのものだった。彼らは迫害を恐れながらも、人々に新しい希望を語りかけていた。

「主よ、導きをお与えください」

夜の闇の中、密かに集う人々の中心に立って祈るのは、若き信徒ソティリオスだった。彼はこの地で聖パウロから洗礼を受けた一人であり、迫害が激化する中でも信仰を守り続ける者だった。

だが最近、街には危険な噂が広がっていた。

「新しい神を説く異端者がいる。彼らはローマ皇帝を侮辱し、古き神々を冒涜している」

ローマ当局は異端者たちを捕らえようとし、街中を厳しく監視していた。

ある日、ソティリオスは信徒の仲間であるエリニアから一冊の古びた巻物を託された。その巻物にはギリシャ語でこう記されていた。

「Ἡ ἀγάπη μακροθυμεῖ, χρηστεύεται ἡ ἀγάπη· ἡ ἀγάπη οὐ ζηλοῖ, ἡ ἀγάπη οὐ περπερεύεται, οὐ φυσιοῦται」
(愛は忍耐強く、愛は情け深い。愛はねたまず、愛は自慢せず、誇らない。)

「これは何だ?」ソティリオスは驚きながら尋ねた。

「パウロが私たちに残した手紙です。愛についての教えが記されています。この言葉を守り、広めてください。」

エリニアはそう言うと、ソティリオスの手を強く握った。

その夜、コリントの街で信徒たちが密かに集まり祈りを捧げているところを、ローマ兵が襲撃した。エリニアは捕らえられ、他の仲間たちも四散した。ソティリオスは辛うじて逃げ延びたが、エリニアが捕らえられたと知り、胸が張り裂けるような思いだった。

「主よ、なぜ私たちを試されるのですか?」

彼は涙ながらに祈ったが、答えはなかった。

数日後、ソティリオスはエリニアが裁かれる裁判所へと足を運んだ。そこには州総督のガリオが座していた。

「この女は、ローマ皇帝を侮辱し、新しい神を説いた罪により、処刑されるべきだ。」

そう叫ぶ群衆の声が響き渡る中、エリニアは静かに目を閉じ、祈りを捧げていた。

その時、ソティリオスは勇気を振り絞り、群衆を押し分けて進み出た。

「待ってください!」

ガリオは彼を鋭い目で見つめた。

「お前は何者だ?」

「私は彼女の仲間です。そして、私たちが説く神は、皇帝を否定するものではありません。我々の教えは、愛と赦しを説くものです。」

ソティリオスの言葉に、群衆はざわついた。

ガリオはしばらく沈黙し、それから静かに言った。

「この女を釈放しろ。」

その一言に群衆は驚きの声を上げたが、ガリオはそれ以上何も言わず、席を立った。

その後、エリニアは釈放され、ソティリオスと共に信仰を守り続けた。彼らが託されたパウロの手紙は、後に「コリントの信徒への第一の手紙」として知られるようになる。

「Ἡ ἀγάπη οὐδέποτε πίπτει」
(愛は決して滅びることがない。)

その言葉は、迫害の中でも信仰の光を灯し続ける人々の心に刻まれ、永遠に伝えられることとなる。

コリントの街の夕陽は、今もなお、愛と信仰の物語を静かに見守っている。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...