ギリシャ神話

春秋花壇

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創作

冬の日の約束

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冬の日の約束

12月19日。ギリシャの山間部には初霜が降り、木枯らしがオリンポス山から吹き抜ける。冬の空は鈍色に染まり、大地は沈黙していた。この日は神々が動く日ではないとされていたが、ヘルメスは山の中腹に降り立った。

「よく来てくれた、ヘルメス。」
声の主は古き狼の神リュコス。彼の役割は季節の変わり目に大地を見守ることだった。リュコスの背後には、枯田が広がり、名草も枯れていた。その瞳には、冬の蝶のような儚さがあった。

「名草が枯れ、命が薄れゆくこの季節。どうして私を呼んだ?」
ヘルメスは疑問の声を投げかける。するとリュコスは火鉢の前に腰を下ろしながら語り始めた。

「師走となるこの時期、山を越えた村々で社会鍋が焚かれ、人々が暖を取る。だが、この寒さを越えるためには神の助けが必要だ。」

村の近くの湖には、冬の蓮が枯れて漂っていた。そこに佇むのは、医神アスクレピオスの娘、パナケイアだった。彼女は枯山吹の茂みの間に座り、股引のように動きやすい衣を身につけている。その手には鮪を捧げものとして用意していた。

「パナケイア、なぜここに?」
ヘルメスが近づくと、彼女は微笑みを浮かべた。

「冬の空を見ていると、何かを救いたい気持ちになるのよ。枯田に立つ狼の神リュコスもそう願っている。だから、私は人々に薬草を分け与え、助けようとしているわ。」

一方、オリンポスの神々の間では冷たい争いが広がりつつあった。ゼウスは木枯らしを起こし、ヘラが冬の日差しを隠そうとする。冬の日の短さは、人間たちに希望を与えるにはあまりに少ない。

ヘルメスは神々に抗議した。
「人々は慈善鍋を囲み、くさめやくしゃみを繰り返しながら寒さに耐えている。私たちが彼らを見捨ててはならない。」

ゼウスはしばし沈黙した後、パナケイアに目を向けた。
「ならば、パナケイア。お前の癒しの力を用い、人間たちに希望を与えよ。だが、その代償として、彼らの命の長さはさらに限られるかもしれない。」

パナケイアはその提案を受け入れ、湖のほとりで祈りを捧げた。すると、冬の蝶が舞い上がり、初霜の冷たさを優しく溶かしていった。彼女の力によって、山を越えた村々には暖かさが戻り、枯蓮の湖もゆっくりと命の兆しを見せ始めた。

リュコスは静かにその光景を見守り、ヘルメスに一言だけ告げた。
「春はまだ遠いが、これで人々も耐えられるだろう。」

その夜、冬の空を見上げた村人たちは、星々の間に暖かな光を見た。それはパナケイアの祈りの名残だった。彼女は一人、枯山吹の茂みに戻り、静かに再び春が訪れる日を待った。






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