ギリシャ神話

春秋花壇

文字の大きさ
1,037 / 1,436
創作

傲慢な太陽神と一人の少女

しおりを挟む
傲慢な太陽神と一人の少女

太陽神ヘリオスは、その圧倒的な輝きと傲慢な性格でオリュンポスの神々の中でもひときわ目立つ存在だった。黄金の戦車に乗り、天空を駆け巡りながら、地上のあらゆるものを見下していた。人間たちを、彼にとっては取るに足らない存在だと思っていたから、彼の目にはどんな小さな出来事も些細なものにしか映らなかった。

ある日、ヘリオスはテッサリアの谷を通り過ぎた。肥沃な大地で人々が誠実に暮らしているその光景の中で、ひときわ目を引いたのは、麦わら色の髪をなびかせて野の花を摘む少女、リュキアだった。彼女の姿は、まるで太陽の光を受けて輝く麦穂のように、無邪気で美しく見えた。

「人間が、私の前でそんなふうに楽しんでいるとは。」
ヘリオスはその光景に不快感を覚え、力を誇示するかのように、太陽の光を集めて一気にリュキアの周りの麦畑を焼き払った。黄金色の穂は瞬く間に黒い灰となり、甘い香りは焦げた煙に変わった。

リュキアは愕然とし、大切な作物を失った村人たちを見て悲しみと怒りに満ちた声で叫んだ。

「太陽神よ、なぜこんなことを!私たちは何も悪くない!」

その叫びは空へと響いたが、ヘリオスはただ傲慢に笑うだけだった。

「愚かな人間どもよ、力なき者は、力ある者に従うのが自然の摂理だ。」
ヘリオスはそのまま空へと駆け上がり、地上を見下ろして無視した。

だが、神々の世界には「ネメシス」という女神が存在する。彼女は復讐と均衡を司り、傲慢で不正な行いをする者を決して見逃さなかった。ヘリオスの行動は、すぐに彼女の目に留まった。

ネメシスはリュキアに力を授けた。それは太陽の光ではなく、月の光、星の光、そしてほんのわずかなかがり火の光を操る力だった。しかし、その力は決して強大ではなく、むしろ控えめで穏やかなものだった。

「これではヘリオスに立ち向かうには力不足ではないか?」
リュキアは初め、力の小ささに戸惑ったが、ネメシスは優しく微笑んで言った。
「力は大きさだけでは測れない。どんな力でも使い方次第で、どれほど大きな影響を与えることができるのかを見ていなさい。」

リュキアはその言葉を胸に、光を操る術を学び始めた。昼間は野の花を集め、夜は星空を見上げ、月の満ち欠けを観察し、かがり火の灯りの揺れを見守った。彼女はそのわずかな光を手に取るように感じ、次第にその力を制御できるようになった。

月日が流れるにつれて、リュキアの力は成長していった。彼女の操る光は、ヘリオスの強烈な光とは対照的に、繊細で柔らかく、そして何よりも人々を包み込むような優しさを持っていた。

ある日、ヘリオスはいつものように天空を駆け巡っていた。しかし、その日、空には厚い雲が立ち込めており、太陽の光は遮られていた。地上の人々は薄暗く不安を感じ、空には重苦しい静けさが広がっていた。

ヘリオスは驚きと苛立ちを感じた。自分の光が遮られるなんてありえないことだった。彼は力を込めて雲を吹き飛ばそうとしたが、雲はびくともしなかった。そのとき、月の光が雲間から漏れ、静かに地上を照らし始めた。

「月の光だと?この私がいるのに!」
ヘリオスはさらに力を込めて雲を焼き払おうとしたが、その力が空しくも届かない。今度は星の光が空を照らし、地上の暗闇を薄めていった。

「星の光まで!一体何が起こっている!」
ヘリオスは焦り、全力で雲を焼き払おうとしたその瞬間、雲間から一筋の光が差し込んだ。それはヘリオスの光とはまったく異なり、優しく温かい白い光だった。その光は、ヘリオスの目を眩ませ、彼の戦車の動きを乱してしまった。

ヘリオスは制御を失い、天空をさまようことになった。彼の傲慢な叫び声は、空に吸い込まれていった。

地上でリュキアは、静かに空を見上げていた。手に持ったかがり火は、月の光や星の光と共鳴し、ヘリオスを眩惑させる一筋の光となった。

「力は大きさだけではない。使い方次第で、大いなる力となる。そして、傲慢は必ず自らを滅ぼす。」
リュキアは静かにそう呟いた。

その後、ヘリオスは以前のような傲慢さを見せることはなくなった。彼は、人間や自然が持つ力の偉大さを認識し、謙虚さを学んだという。そして、リュキアはその後も人々に光を与え続け、共に慎ましく、穏やかな日々を送った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...