ギリシャ神話

春秋花壇

文字の大きさ
353 / 1,436

胡蝶侘助 - 儚き祈りの化身

しおりを挟む
胡蝶侘助 - 儚き祈りの化身

オリュンポス山の麓、人里離れた深い森の奥に、ひっそりと佇む小さな泉があった。泉の周りには、苔むした岩々と、古木の根が複雑に絡み合い、昼なお暗い静寂に包まれていた。泉のほとりには、他の木々とは異なり、冬の寒さの中でも緑を保つ、一本の椿の木があった。その木は、春になると、白く、儚い花を咲かせた。人々はその花を「胡蝶侘助(こちょうわびすけ)」と呼び、その繊細な美しさに心を奪われた。

胡蝶侘助の起源は、悲しい愛の物語に遡る。愛と美の女神アフロディーテに仕えるニンフ、プシュケーは、蝶を愛し、その優雅な舞に魅せられていた。彼女は、蝶の羽のように軽やかで、泉のほとりで花々と戯れる日々を送っていた。

ある日、プシュケーは、泉のほとりで傷ついた一匹の蝶を見つけた。その蝶は、羽を痛め、飛ぶことができずにいた。プシュケーは、その蝶を優しく手のひらに乗せ、手当てを施した。献身的な看病のおかげで、蝶は再び羽ばたくことができるようになった。その蝶は、プシュケーへの感謝の気持ちを表すように、彼女の周りを優雅に舞い続けた。

プシュケーは、その蝶に特別な愛着を感じるようになった。彼女は、蝶に「エロス」と名付け、いつも一緒に過ごした。エロスは、プシュケーの悲しみを知り、喜びを分かち合う、かけがえのない存在となった。

しかし、プシュケーの幸せは長くは続かなかった。ある日、エロスは、森の奥深くへと飛び去ってしまった。プシュケーは、エロスを探し求めて森中を駆け巡ったが、どこにも見つけることができなかった。絶望に打ちひしがれたプシュケーは、泉のほとりで涙を流し続けた。

プシュケーの悲しみに心を痛めたアフロディーテは、彼女に言った。「プシュケー、お前の悲しみはよくわかる。しかし、エロスはもう戻ってこない。彼は、お前の心の中で生きているのだ。」

アフロディーテは、プシュケーの悲しみを癒すために、泉のほとりの椿の木に魔法をかけた。その魔法によって、椿の木は、プシュケーの涙を吸い上げ、白い花を咲かせるようになった。その花は、エロスの羽のように儚く、プシュケーの悲しみを表しているようだった。

その後も、プシュケーは、泉のほとりで暮らした。彼女は、椿の花を愛し、毎日、花に水をやった。花は、プシュケーの愛情に応えるように、毎年、美しい花を咲かせた。人々は、その花を「胡蝶侘助」と呼び、プシュケーの悲しい愛の物語を語り継いだ。

胡蝶侘助の花言葉は、「清らかさ」「謙虚」「静かな愛」など、プシュケーの純粋な心を表していると言われている。また、その白い花は、エロスの羽を、そして、プシュケーの涙を象徴しているとも言われている。

春になると、胡蝶侘助は、静かに花を咲かせる。その儚い姿は、過ぎ去った愛の記憶を呼び起こし、人々の心を静かに揺さぶる。泉のほとりには、今も、プシュケーの優しい魂が宿っていると言われている。風が吹くたびに、椿の葉が擦れ合う音が、プシュケーの囁きのように聞こえる。それは、失われた愛への、静かな祈りのようである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...