ギリシャ神話

春秋花壇

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創作

森のこだま—パンの嘆き

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森のこだま—パンの嘆き

鬱蒼とした森の奥深く、ひっそりとたたずむ洞窟。そこは、森の神パンの住処でした。上半身は逞しい人間の男性、下半身は山羊という異形の姿をしたパンは、森のすべての生命を愛し、守っていました。木々のざわめき、鳥のさえずり、小川のせせらぎ。それらはすべて、パンにとって大切な友であり、慰めでした。

しかし、パンの心には、常に深い孤独が巣食っていました。オリュンポス山で神々と共に宴を楽しむことも、人間のように愛する者と心を通わせることもできない。パンは、いつも一人でいました。

ある日、パンは森の中で迷子の少女に出会いました。少女は村から迷い込み、不安そうに辺りを見回していました。パンは優しく声をかけました。「迷子になったのか?怖がらなくても大丈夫だ。私が村まで送って行こう。」

少女は最初、パンの異形の姿に驚きましたが、彼の温かい言葉に安心し、涙ながらに頷きました。パンは少女を背に乗せ、ゆっくりと森の中を歩き始めました。

森を抜けるまでの間、パンは少女に森の生き物や木々、星空の話をして聞かせました。少女は興味津々で、目を輝かせながら話に耳を傾けました。

村に着くと、少女は深々と頭を下げ、感謝の言葉を述べました。「本当にありがとうございました。あなたがいなかったら、どうなっていたか…」

少女の笑顔を見たパンの心には、今まで感じたことのない温かい感情が込み上げてきました。それは、孤独を忘れさせてくれる、喜びの感情でした。

それからパンは時折村を訪れるようになり、村人たちは最初こそその異形の姿を恐れていましたが、次第に彼の優しさに触れ、心を開いていきました。パンは村の子供たちに笛を吹いて聞かせたり、森の話をしてあげたりしました。子供たちは彼のことを「森のおじさん」と呼び、慕うようになりました。

しかし、村に疫病が流行し、状況は急変しました。多くの村人が倒れ、苦しみました。パンは薬草を探したり、病人を看病したりしましたが、疫病の勢いは止まらず、最終的に親しくしていた少女も倒れてしまいました。

パンは必死に看病しましたが、少女は力尽き、息を引き取ってしまいました。少女の死を目の当たりにしたパンは、再び深い悲しみと孤独に包まれました。人間との交流が与えてくれる喜びと同時に、別れの悲しみもまた深いものであると痛感したのです。

それ以来、パンは再び森の奥深くに引きこもるようになりました。しかし、以前とは違っていたのは、少女との思い出が心の中に温かな光として残っていたことでした。パンは笛を吹き続けました。それは、かつて少女に聞かせた優しい調べでした。その調べは、森のこだまとなって遠くまで響き渡り、パンの嘆きと共に、人間への鎮魂歌となりました。
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