ギリシャ神話

春秋花壇

文字の大きさ
1,130 / 1,436
創作

クラーネルレット・ヌアラぶどう

しおりを挟む
クラーネルレット・ヌアラぶどう

――ギリシャ神話より――
プロローグ
遥か太古、神々と人間がまだ共に生きていた時代。

神々は人間に恵みを与え、人々は神々を敬い、世界は調和に満ちていた。

しかし、時が流れるにつれ、人の心には 欲望 が芽生え始める。

神々の絶大な力。

不老不死という永遠の命。

人間は、神々への畏敬の念を忘れ、その力を 渇望 するようになった。

ついには、神々の領域に踏み込み、その力を奪おうとする者まで現れる。

そんな人間の 業 を試すかのように、豊穣の女神デメテルは一本の神聖なる葡萄の木を創り出した。

クラーネルレット・ヌアラ。

黄金色の房は太陽の雫を凝縮したかのように輝き、その香りは甘美にして狂おしい。

その実を口にすれば、不老不死の力を得られる と伝えられた。

しかし、それは 禁忌 でもあった。

神々の領域を侵した者には、決して逃れることのできない 苛烈な罰 が下る。

これは、その果実に魅せられた ある王の物語 である――。

第一章:楽園の島
エーゲ海の果てに浮かぶ、美しき孤島 クラーネル島。

白亜の崖が陽光を反射し、青い海と調和するその光景は、まさに楽園。

その中心には クラーネル山 がそびえ、その山頂には豊穣の女神デメテルを祀る 神殿 が建っていた。

その神殿の庭に、神々のみが口にすることを許された葡萄の木があった。

――クラーネルレット・ヌアラ。

黄金色の実は、天上の光を閉じ込めたように輝き、風が吹けば甘美な香りが広がる。

ただ一口含めば、不老不死の力を授かるという。

しかし、それは 神々だけのもの だった。

人間がそれに触れれば、神の怒りを買い、恐るべき罰が下る――。

だが、その禁忌を破ろうとする者がいた。

クラーネル島の王、オデュッセウス――。

第二章:王の渇望
オデュッセウスは若くして王位を継ぎ、島を繁栄へと導いた。

賢く、勇敢で、民からの信頼も厚い王。

しかし、その胸には 消えることのない恐怖 があった。

――死への恐怖。

最愛の妻を喪ったその日から、死の影が離れなくなった。

どれほどの富と名声を得ようとも、

どれほどの栄光を手にしようとも、

やがて自分も朽ち果てる。

その絶望は、やがて 狂気 へと変わっていく。

ある日、王の耳に クラーネルレット・ヌアラ の伝説が届く。

不老不死の果実。

「それさえあれば、私は永遠に王であり続けられる……。」

王の瞳に、執念の炎 が灯る。

「神々だけの特権など、認められるものではない……。」

王は、禁断の果実を奪うことを決意した。

第三章:聖域への侵攻
王は屈強な兵士たちを率い、クラーネル山 を目指した。

だが、山はまるで 神々の意志 のように、人間を拒んだ。

断崖絶壁。

突如吹き荒れる嵐。

霧に包まれた迷宮のような道。

次々と兵士が倒れ、ついに 王ひとりだけ が残った。

それでも彼は 執念 で山を登り続ける。

――そしてついに、彼はデメテルの神殿に辿り着いた。

黄金の果実が、彼を誘うように煌めいていた。

「これが……不老不死の果実……!」

震える手を伸ばし、王は葡萄の房を掴む――。

その瞬間、冷たい声が響き渡った。

「――愚かな人間よ」

第四章:女神の鉄槌
そこに立っていたのは、豊穣の女神 デメテル だった。

流れる金髪、白く輝く衣。

しかし、その青い瞳には 深い悲しみ が宿っていた。

「汝の愚かさを、永遠に悔いるがいい。」

女神が手をかざした瞬間、雷鳴が轟く。

王の喉が 焼け付くように渇き 始める。

湖の水をすくう。

川の水を飲む。

酒を流し込む。

しかし、それらは 砂のように通り抜ける。

デメテルは静かに告げた。

「砂漠が雨を拒むように、

おまえの渇きは決して癒えぬ。」

第五章:焦土を彷徨う亡者
オデュッセウスは 焦土を彷徨う亡者 となった。

彼は水を求め続ける――。

だが、どこまで行っても、その渇きが癒されることはなかった。

エピローグ
クラーネルレット・ヌアラ――。

それは 神々だけが口にすることを許された果実。

人は神の領域を侵してはならない。

「人は神になれない」

それは、決して変わることのない 真理 なのだ。

――終わり。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...