ギリシャ神話

春秋花壇

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創作

なにが神だ

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なにが神だ

オリュンポスの神々は天を支配する者として人間を見下ろし、絶対の存在として君臨していた。しかし、彼らの振る舞いを知る者ならば、果たしてそれを「神」と呼ぶべきか疑問に思うことだろう。

神々の住まう神殿では、今日も酒宴が繰り広げられていた。黄金の杯に注がれた神酒が溢れ、甘美な香りが空に満ちる。笑い声、怒号、嘲笑が飛び交い、床には酔い潰れた神々が転がっている。

「聞け、聞け! 我が勇猛なる戦の話を!」

アレスが豪快に笑いながら杯を掲げた。彼はこの日、ある都市国家に戦をもたらし、血の雨を降らせてきたばかりだ。死者の数は数千を超え、街は瓦礫と化した。それを誇るように話す彼を、アテナが冷ややかに見下ろした。

「愚かなことだな、アレス。戦をもたらして何が得られる? 死者の山と無駄な殺戮だけではないか。」

「無駄な殺戮だと?」

アレスは眉を吊り上げた。

「戦こそが男の誇り、栄光、力の証明ではないか。貴様のような机上の知恵に生きる女には理解できんだろうがな!」

アテナはため息をつき、杯の縁を指でなぞった。

「お前が愚かだからこそ、私は知恵を授けねばならんのだ。人間たちは苦しんでいる。それを見ても何も感じないのか?」

「何を言う、人間など玩具だ。我らの手の中で踊ることこそ彼らの役割よ。」

それを聞いたヘスティアが静かに首を振った。

「違う。人間は火を持ち、知恵を持つ。彼らは弱くとも、私たちよりもよほど自制を知っている。」

その言葉に、ゼウスが哄笑した。

「ほざけ、ヘスティア! お前はただ炉の前でじっと火を見つめているだけの女。戦いも恋も知らぬ者が、何を言うか!」

「恋……?」

ヘスティアは静かに視線を巡らせた。ディオニュソスは酔い潰れ、ヘルメスは浮気の計画を考えている。アフロディテは嘲笑を浮かべながら新たな愛の戯れに思いを馳せ、ヘラはゼウスの裏切りに怒りを燃やしている。

「お前たちの言う『恋』とは、欲望と嫉妬の渦のことか?」

ゼウスは口を開きかけたが、ヘスティアは先に言葉を続けた。

「人間たちは確かに弱く、愚かだ。しかし、彼らの恋は真実を伴う。お前たちのように、気に入らぬ者を呪い、欲する者を強引に手に入れるものではない。」

アフロディテは笑みを浮かべた。

「人間の愛が純粋だと言いたいの? それこそ戯言ね。人間の恋とやらも、結局は欲望に過ぎないわ。」

「欲望が伴うのは当然だろう。それでも、彼らは愛の名のもとに、自らを律しようとする。お前たちのように、欲のままに動きはしない。」

ゼウスは笑い、アレスは鼻で笑い、アフロディテは肩をすくめた。ヘスティアは静かに杯を置くと、席を立った。

「お前たちこそ、自らを『神』と呼ぶ資格があるのか?」

神殿は静まり返った。

ヘスティアは続ける。

「お前たちは力を持つ。人間よりも遥かに強く、長く生きる。だが、自制を知らぬ。責任を負うことを知らぬ。お前たちの所業を見よ。愛と呼ぶものは略奪、戦と呼ぶものは破壊、統治と呼ぶものは傲慢。お前たちは、人間よりも遥かに愚かではないか?」

沈黙が落ちる。ゼウスが杯を握り締めた音が響く。ヘラは眉を寄せ、アポロンは難しい顔をしている。

「……では、お前はどうするというのだ?」

ヘスティアは静かに微笑んだ。

「私は炎を守る。それが私の役割だからな。」

そう言い残し、彼女は神殿を後にした。

酒宴はその後も続いた。だが、ヘスティアの言葉は、神々の心に小さな棘のように残った。彼らがその言葉を忘れるのは、もう少し先の話である。







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