ギリシャ神話

春秋花壇

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創作

辛夷の誓い -プロメテウスとコブシの花-

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辛夷の誓い -プロメテウスとコブシの花-

神々が人間を創造して間もない頃。

オリュンポスの神々の一柱であるプロメテウスは、人間に火を与え、知恵を授けたことでゼウスの怒りを買い、コーカサス山脈に磔にされていた。

昼になると巨大な鷲が舞い降り、彼の肝臓を啄み、夜になるとそれは再生する。
――永遠に終わることのない苦痛。

しかし、そんな彼の傍らに、毎晩そっと寄り添う一人のニンフがいた。
彼女の名は、コブシ。

コブシは、プロメテウスの苦しみを和らげようと、
夜ごとに彼の傷を撫で、花の蜜で傷口を潤し、せめてもの慰めを与えていた。

「なぜ、お前は私に尽くすのか?」

プロメテウスが問いかけると、コブシはそっと微笑んだ。

「あなたは、人間に希望を与えた。その罰は、あまりに過酷です。
ならば、私はせめて、あなたに寄り添いましょう」

プロメテウスの瞳がかすかに揺れる。
神々に見放され、孤独な責め苦に耐える日々の中で、初めて救いを感じた瞬間だった。

「……お前は、私にとって唯一の光だ」

コブシは答えなかった。ただ、静かに彼の傷に触れた。

神々の怒り
しかし、二人の関係はゼウスの知るところとなる。

「コブシ、お前は人間の味方をするというのか?」

ゼウスの声は雷鳴のごとく響いた。

「お前は神でありながら、なぜこの罪人に寄り添う?」

コブシは静かに目を伏せた。

「……私は、ただ彼の苦しみを和らげたいだけです」

その言葉に、ゼウスの怒りはさらに燃え上がった。

「ならば、お前も同じ罰を受けるがよい」

ゼウスが手を掲げると、コブシの身体はたちまち一本の木へと変えられた。
彼女の唇は閉ざされ、二度と言葉を発することはできなくなった。

しかし、彼女の想いは、白い花となって枝先に残された。
それは、まるでプロメテウスへの最後の微笑みのようだった。

辛夷の花
春。
磔にされたままのプロメテウスは、遠くに咲く白い花を見つめた。

「コブシ……お前なのか?」

応える声はない。
だが、風にそよぐ白い花弁が、微かに揺れた。

それは、まるで彼の言葉に頷くかのようだった。

「ゼウスは、お前を私から奪った……だが、お前の想いは、こうしてここにある」

プロメテウスはその誓いを噛み締め、ゼウスに屈することなく、苦しみを耐え抜いた。

英雄の訪れ
時が流れ――

ついに英雄ヘラクレスが現れ、プロメテウスの鎖を断ち切った。
長い年月を経て、彼は自由を得たのだ。

解放されたプロメテウスは、すぐに一本の木のもとへ向かった。
春の風に舞う、白い花弁が迎えるように揺れていた。

彼はそっと花を手に取り、静かに囁いた。

「コブシ……私はお前との誓いを守った。人間は自由を手にした。
だが……お前がいない世界は、あまりにも寂しい」

ふと、木の枝が風に揺れ、花が舞った。
それは、まるで彼の言葉に微笑んでいるようだった。

永遠に咲き誇る花
プロメテウスは、辛夷の花を人間たちに分け与えた。

「この花を見よ――これは、希望を忘れぬ者の証だ」

人々は辛夷の花を愛し、彼女の優しさを胸に刻んだ。
そして、春が訪れるたびに白い花が咲き誇り、静かにこの物語を語り継いでいく。

それは、絶望の中で生まれた希望と愛の物語。
そして、永遠に続く――辛夷の誓い。











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