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5.一人目の婚約者候補②
気を取り直しドレスの下にこっそりと忍ばせたメモ用紙と鉛筆を柱の陰に隠れながらさっさと誰にも見られないように素早く取り出す。
そしてまずは遠目からケビン様を観察して気づいたことを書き留めていく。
夢中になりすぎて周囲から浮いてしまうのは令嬢として良くないので、合間合間にお茶やお菓子を摘んでさり気なさを演出するのも忘れない。
自然な演出と栄養補給の両立とは我ながら完璧な段取りだ。
うっふふん~♪
いい感じ、いい感じ。
なんか楽しくなってきたわ。
でも餡ぱんと牛乳がないのが惜しいわね。
気分は狩人から自警団へと変化していく。
まさに誰にも気づかれずに順調にことは進んでいた。
途中でケビン様の手を取りダンスをしている時は流石に書き留めることは諦めたけれど、踊りながら頭の中に情報はしっかりと蓄積しておく。
観察に夢中になり数回ほど足を踏んでしまった気もするが…それはご愛嬌だろう。
踊り終えると少しだけ会話をしてから『少し疲れたので失礼しますわ』と言って自然な形で彼から離れた。
彼も『エミリア様、無理をなさらないでください』と眉を顰めながら心配そうな表情を浮かべて言ってくれた。
本当に私が疲れていると信じ優しい言葉をかけてくるケビン様に少しだけ申し訳ない気持ちになる。
なぜなら私は全然疲れてはいない。
自分で言うのは気が引けるけれども私の容姿は上の上だと言われている。
華奢な身体、ふわふわな髪、透き通るような白い肌、そして黒曜石のような瞳。
『儚げな美しさを守ってあげた』と周りからは言われている。
…完全に誤解している。
私は生まれてから一度だって寝込んだことがない健康優良児だったし、乗馬も得意で体力には自信がある。
兄妹割適用でお兄様と一緒に屋敷で剣術も学んでおり、兄とは互角の勝負ができる腕前になっている。
ちなみに兄は性格はあれだが…剣術の腕は学園一と言われている。
守ってあげたいと言われ照れながら首を傾げる仕草もまた愛らしいと周囲から絶賛されていたけれども、それも違う。
照れてない、私はただ相手の言葉の意味を真剣に考えていただけだ。
守ってあげたい?って何からかしら…。
熊、暴れ馬、それともあの大きな蜥蜴…ゴジラから?
うーん、でもこの方は勝てるのかしら?
それとも囮になって逃してくれる捨て身作戦?
いつも考えているだけなのに周囲の勘違いは増していく。最初こそ『それは違いますわ』と丁寧に訂正していたが『はっはは、ユーモアがありますね』と切り返され話しが通じない。
どうやら私の周りには耳が遠い人が多いようだ。
まあ兎に角私は元気いっぱいで疲れ知らずだが、今はその誤解が有り難い。ケビン様から失礼に思われないように離れられたから、頭の中の情報を忘れないうちに書き出す時間が出来た。
私は人目につかないように誰もいないバルコニーに出てから、隅に置いてある休憩用の椅子に座って早速メモを取り始める。
将来が掛かった大事な作業に真剣に取り組んでいた私は近づいてくる人がいることに声を掛けられるまで気が付かなかった。
だからいきなり声を掛けられ令嬢らしくない声を上げて驚いた私は悪くないはずだ。
「ちょっとよろしいですか、ダートン子爵令嬢?」
「ぎゃっー!!」
声を上げたと同時に自分が淑女らしからぬ対応をしてしまったことに焦る。
ま、まずいわ…これは駄目なやつよ。
『ぎゃっー!!』は令嬢として終わっている…。
せめて『きゃっ!』でないと。
だが時間は巻き戻せない。
だから言い直して先程の『ぎゃっー!!』は聞き間違いということにしてしまおう。
今ならきっと大丈夫、まだ間に合うはず。
落としたものも三秒以内に拾えば大丈夫なんだからこれは三秒ルールの特別適用または拡大解釈に当たるはずだ。
まさに名案だった。
「コッホン…、きゃっ!」
令嬢らしい小さな声で驚いてみせる。
すると彼は目を見開き、私以上に驚いた様子を見せてくる。
「あ、ええっ!!なにを…あー、そういうことか…。
申し訳ありません。驚かせてしまったようですね」
「いいえ、大丈夫ですわ。お気になさらないでください、ほっほほ」
上手くいった、相手はこちらの思惑通り聞き間違えだと思ってくれたようだ。抜けている人で良かったと思っているとその人は丁寧な口調で話し掛けてきた。
そしてまずは遠目からケビン様を観察して気づいたことを書き留めていく。
夢中になりすぎて周囲から浮いてしまうのは令嬢として良くないので、合間合間にお茶やお菓子を摘んでさり気なさを演出するのも忘れない。
自然な演出と栄養補給の両立とは我ながら完璧な段取りだ。
うっふふん~♪
いい感じ、いい感じ。
なんか楽しくなってきたわ。
でも餡ぱんと牛乳がないのが惜しいわね。
気分は狩人から自警団へと変化していく。
まさに誰にも気づかれずに順調にことは進んでいた。
途中でケビン様の手を取りダンスをしている時は流石に書き留めることは諦めたけれど、踊りながら頭の中に情報はしっかりと蓄積しておく。
観察に夢中になり数回ほど足を踏んでしまった気もするが…それはご愛嬌だろう。
踊り終えると少しだけ会話をしてから『少し疲れたので失礼しますわ』と言って自然な形で彼から離れた。
彼も『エミリア様、無理をなさらないでください』と眉を顰めながら心配そうな表情を浮かべて言ってくれた。
本当に私が疲れていると信じ優しい言葉をかけてくるケビン様に少しだけ申し訳ない気持ちになる。
なぜなら私は全然疲れてはいない。
自分で言うのは気が引けるけれども私の容姿は上の上だと言われている。
華奢な身体、ふわふわな髪、透き通るような白い肌、そして黒曜石のような瞳。
『儚げな美しさを守ってあげた』と周りからは言われている。
…完全に誤解している。
私は生まれてから一度だって寝込んだことがない健康優良児だったし、乗馬も得意で体力には自信がある。
兄妹割適用でお兄様と一緒に屋敷で剣術も学んでおり、兄とは互角の勝負ができる腕前になっている。
ちなみに兄は性格はあれだが…剣術の腕は学園一と言われている。
守ってあげたいと言われ照れながら首を傾げる仕草もまた愛らしいと周囲から絶賛されていたけれども、それも違う。
照れてない、私はただ相手の言葉の意味を真剣に考えていただけだ。
守ってあげたい?って何からかしら…。
熊、暴れ馬、それともあの大きな蜥蜴…ゴジラから?
うーん、でもこの方は勝てるのかしら?
それとも囮になって逃してくれる捨て身作戦?
いつも考えているだけなのに周囲の勘違いは増していく。最初こそ『それは違いますわ』と丁寧に訂正していたが『はっはは、ユーモアがありますね』と切り返され話しが通じない。
どうやら私の周りには耳が遠い人が多いようだ。
まあ兎に角私は元気いっぱいで疲れ知らずだが、今はその誤解が有り難い。ケビン様から失礼に思われないように離れられたから、頭の中の情報を忘れないうちに書き出す時間が出来た。
私は人目につかないように誰もいないバルコニーに出てから、隅に置いてある休憩用の椅子に座って早速メモを取り始める。
将来が掛かった大事な作業に真剣に取り組んでいた私は近づいてくる人がいることに声を掛けられるまで気が付かなかった。
だからいきなり声を掛けられ令嬢らしくない声を上げて驚いた私は悪くないはずだ。
「ちょっとよろしいですか、ダートン子爵令嬢?」
「ぎゃっー!!」
声を上げたと同時に自分が淑女らしからぬ対応をしてしまったことに焦る。
ま、まずいわ…これは駄目なやつよ。
『ぎゃっー!!』は令嬢として終わっている…。
せめて『きゃっ!』でないと。
だが時間は巻き戻せない。
だから言い直して先程の『ぎゃっー!!』は聞き間違いということにしてしまおう。
今ならきっと大丈夫、まだ間に合うはず。
落としたものも三秒以内に拾えば大丈夫なんだからこれは三秒ルールの特別適用または拡大解釈に当たるはずだ。
まさに名案だった。
「コッホン…、きゃっ!」
令嬢らしい小さな声で驚いてみせる。
すると彼は目を見開き、私以上に驚いた様子を見せてくる。
「あ、ええっ!!なにを…あー、そういうことか…。
申し訳ありません。驚かせてしまったようですね」
「いいえ、大丈夫ですわ。お気になさらないでください、ほっほほ」
上手くいった、相手はこちらの思惑通り聞き間違えだと思ってくれたようだ。抜けている人で良かったと思っているとその人は丁寧な口調で話し掛けてきた。
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