恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥

矢野りと

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僕――ケイレブの目の前には頭を抱えて唸っている男がいる。
彼は姉の幼馴染のライアン・グレシャムだ。

姉とのことで凹むことがあった後には、こうやって僕の部屋で彼は落ち込むのだ。
迷惑なことこのうえない。

でもそんなことは言わない。
僕はまだ12歳だけれども、精神年齢は彼よりも上だと思っているから。


8つ年が離れているライアンは、昔から僕のことを本当の弟のように可愛がってくれている。
頼りになるし優しい彼のことを、僕も好きだ。

そんな彼は、僕の姉ケイトのことを大好きなのだが、その気持ちは姉には全く伝わっていない。
本人なりに頑張っているようだが、空回り気味だ。

これは姉が鈍すぎるのもあるが、彼にもかなり問題はあると思う。

「僕の部屋でいじけられても困ります」
「………」
「…ねえ、ライアンったら無視しないでください」

かなりの時間落ち込んでいたから、もうそろそろ大丈夫かと思って声を掛けてみるけど、返事はない。
顔を上げてもくれない。

大人なのに、この態度でいいのだろうか…。

「ねえ、もういい加減に、」
「…違う、呼んでくれ」

顔は下を向いたままだけど、僕の言葉を遮りライアンが言葉を発する。

「はいはい、分かりました。、そろそろ何があったか話してくれませんか?」

「ああ、分かった。あのな…」

そう言ってライアンは今日、姉との間であったやり取りを詳細に語りだした。


ちなみに『』と呼んでくれと言われたのは、僕がまだ小さい頃のこと。
『でもライアンはぼくの兄ではないですよ?』
『大丈夫、未来の義兄上だから問題ない』
『姉上とこんやくしたのですか?そんな話はきいていませんが…』
『そ、それはこれからだが……。つまりはあれだ、…そう、だ!だから『義兄上』と呼んでくれ』
そのことわざは使い方が間違っていませんか?と指摘するべきか悩んだけど、言わないでおいた。
問題はそこではないのだから、指摘しても意味はない。
『……では二人だけのときはそう呼びます』
僕は幼いながらも、彼が姉を大好きなのを見抜いていたので合わせてあげた。

 だってそうしないと、落ち込んじゃうから…。

彼は姉が絡むととても面倒くさい人になる。それ以外は本当に優秀で良い人なのに、本当に残念だ。



ライアンから落ち込んだ経緯を聞き終わった感想は『なにをやってるのですか…』しかなかった。

どうしてこの二人は簡単なことを複雑にするのだろうか。
ひとりひとりだと至ってまともなのに、二人だとありえない化学反応を起こすのだ。

もう僕の理解を軽く超えている。

「どうして姉上が誤解するような言葉を発するんですか?にやけながら『まあ、嬉しいかな』なんて言ったら、まるで令嬢達に群がられているのを喜んでいて、姉上が酷い言葉を浴びせられるのは構わないと言っているようにしか聞こえません。
それに姉上から何度も確認されているのに、『本気だ』なんて念押しまでして…」

僕の指摘にライアンは真っ青になる。
どうやら自分の想いが全く伝わっていないどころか、全然反対の意味で伝わっていたことが分かったらしい。

「えっ、だが、そんな意味じゃない」
「おそらく義兄上は、周りの令嬢達を『俺とケイトの仲を公認する言葉を発する応援部隊外堀を埋める隊』くらいに思っていたのでしょうね。
でもそんなふうに聞こえていたのは義兄上だけです。誰もそんなふうには聞こえません」
「ケティはだから、別れるって言ったのか…」
愕然とするライアンに構わず、話しを続ける。
「そうですね。付き合うに至った前段階でもかなり問題はありましたが、この際それは考えるのはやめておきましょう。今回は義兄上の話し方と態度にかなり問題がありましたから、これは当然の結果と言えるでしょう」
「……っ…一体どうすればいいんだ……」

僕の両肩をガシッと掴んで縋ってくるのは本当に勘弁してほしい。
こうしてガンガンと肩を揺さぶら瞬間にも、僕の脳細胞はご臨終しているのですよ。

日頃の優秀さをどこに置き忘れてきたんですかとライアンに問いただしたくなる。
しかし経験上それは無駄だと分かっているので、『離してください』と僕は呟くだけにしておいた。



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