7 / 10
7
ライアンはベットの上で枕を抱えながら座っている私に向かって、大股で近づいてくる。
その表情は私のことを本気で心配しているように見える。
嬉しいけれど、それは私が幼馴染だからだろう。
それが分かっているから、さらに悲しくなる。
だから涙が止まらない。
誰に泣かされたかと聞かれたけれど、誰かに泣かされたわけではない。
私が勝手に失恋して泣いているだけなのだから…。
……答えられるわけないわ。
『ライのことを好きだから泣いているのよ』となんて、伝える勇気はない。
ライアンがどんな反応するのか怖い。
笑われるか、それとも困った顔をされるか、はたまた呆れられるか…。
どんな反応だとしても惨めだし、幼馴染としての関係も終わってしまう。
そう……いま一番怖いのは、幼馴染の立場を失うこと。
彼との本当の恋人になるのは無理だともう分かっている。
でも幼馴染としての関係まで崩れてしまうのはだけは避けたい。
どんな形でもいいから、彼の隣にいる権利が欲しい。
うん、それだけは絶対に譲らない!
そうと決まったら泣いてはいられない。
涙を手に持っている枕で拭く。
これは毎日侍女が新しいカバーに替えているので、衛生的に問題はないので安心だ。
「おい、ケティ。黙ってられたら分からん。なにか言ってくれっ!」
答えない私に向かってライアンはまた声を掛けてくる。
私は本当の事を言わないと決めた。
でも無視するのは違うし、嘘を吐くのも気が引ける。
だからこの場で言うに一番妥当な言葉を口にする。
「ライ、扉の弁償はどうする?」
「へっ?……扉のことはあとでは駄目なのか?
それより俺は他のことを先に聞きたいんだが、」
「駄目よ、ライ。我がオールガー伯爵家では、最優先事項は扉と決まっているのよ」
「…………初耳だ」
「………初めて話したわ。さっき決まったから」
「そうか、それなら納得だな」
そう言うとライアンは非の打ち所のない弁償方法をスラスラと話し始めた。
忘れていた、ライはモテるだけでなくなかなか優秀だったのだ。
「これでいいか?ケティ」
「え、ええ…。ライ、完璧な答えを…ありがとう?」
文句がつけようがないので、呆気なく最優先事項は解決済みとなってしまった。
もう話を逸らすのは許さないとばかりに、心身ともにじりじりと迫ってくるライアン。
「ケティ、話せ。俺に隠しごとは許さねぇからなっ!」
口の悪いライアン。
私にだけぞんざいな口調なのを嫌だなって思っていたけれど、今は『私だけのライ』って都合の良いように錯覚しそうだ。
自分の想いを紡ぎたい。
言わないって決めていたのに…。
幼馴染の立場は死守するって決めたのに…。
でも、でも…どうすればいいの…。
止まっていた涙がまた零れてくる。
自分の心と口が別々に動き出しそうで、怖い。
気づけば体が微かに震えている。
恋ってこんなにも人を弱くするなんて知らなかった。
「…イ、……ライ、ライ…ライ……」
「ケティ、大丈夫だ。俺がいるっ。お前にはいつだって俺がついているからな」
ただライアンの名前を呼び続けて泣く私の耳元で優しく囁いてくれるライアン。
そして両手で私の体を包み込むようにそっと抱きしめてくれる。
こんなライアンなんて初めてだった。
これは夢だろうか。
ライが私を抱きしめてくれている?
嘘…、本当なわけない。
これはきっと夢だわ…。
そうだ、これは白昼夢というやつだ。
人は極限まで追い込まれると、現実逃避という手段に走ることを知った。
私はいま自分が望む都合の良い夢を見ている。
夢ならば何をしてもいいだろう。
というか、何もしないなんて勿体ない。
夢の世界では責任なんて負わなくていいのだから、しっかりと夢を堪能するべきだ。
私はライの顔を両手でしっかりと挟んで固定する。彼が逃げられないようにと、初めての私が失敗しない為だ。
「な、なにしてんだっ…ケティ?」
ちょっと狼狽えているライアン。
それはそうだろう、私の顔がすぐ目の前まで迫ってきているのだから。
「ちょっと黙っていて、ライ。私、初めてだから動かれると上手くできないわ」
「…っ…えっ?ええーー」
「ライ、お口チャックよ」
「………」
ライが口を閉じた瞬間に、私は彼の唇を奪った。
その感触は柔らかくてとても温かい。それに少しだけ湿っていてなんだか甘く感じ、とても夢とは思えないほどだった。
あまりの心地よさに頭がぼうっとなってしまう。
白昼夢って最高だわ…。
名残惜しいけれど口づけを終えて、ライアンの目を真っ直ぐに見つめる。
私の大好きな深い藍色の瞳に私だけが映っている。
今は私だけのライだ。
「ライ、大好きよ」
「ケティ、俺も愛してる」
絶対に伝えないと決めていた想いを、夢の中だから言葉にしていた。答えなんてなくてもいい、現実でなくても自分の想いを言えただけで満足だった。
だがライアンは私の想いに応えてくれる。その口調はとても甘く、普段の彼からは想像もできないものだった。
やはり夢だけあって、私の願望がしっかりと反映されているようだ。
「夢でも嬉しいわ…ライ」
「ケティ、夢じゃない」
呟くようにそう言った私に、すかさずライアンは言葉を返す。
出来ればもう少しだけ夢を見させて欲しい。
だってこれは私の白昼夢だ、誰にも邪魔はさせない。
「ライ、そんなことまた言ったら、もう一度口づけをするわよ」
「夢・じゃ・な・い」
即答するライアン。
そして今度は私からではなく、彼の方からそっと口づけをしてくる。
初めは優しく、でもだんだんと彼は大胆になっていく。
それはもう未知の世界で、白昼夢とは思えないほど…。
これって夢よね…?
もちろん夢に決まっている。だからこそ私はあんなことやこんなことをしているのだ。
――でも念のため、空いている手でそっと自分の太腿をつねってみる。
なぜか普通に痛かった。
その表情は私のことを本気で心配しているように見える。
嬉しいけれど、それは私が幼馴染だからだろう。
それが分かっているから、さらに悲しくなる。
だから涙が止まらない。
誰に泣かされたかと聞かれたけれど、誰かに泣かされたわけではない。
私が勝手に失恋して泣いているだけなのだから…。
……答えられるわけないわ。
『ライのことを好きだから泣いているのよ』となんて、伝える勇気はない。
ライアンがどんな反応するのか怖い。
笑われるか、それとも困った顔をされるか、はたまた呆れられるか…。
どんな反応だとしても惨めだし、幼馴染としての関係も終わってしまう。
そう……いま一番怖いのは、幼馴染の立場を失うこと。
彼との本当の恋人になるのは無理だともう分かっている。
でも幼馴染としての関係まで崩れてしまうのはだけは避けたい。
どんな形でもいいから、彼の隣にいる権利が欲しい。
うん、それだけは絶対に譲らない!
そうと決まったら泣いてはいられない。
涙を手に持っている枕で拭く。
これは毎日侍女が新しいカバーに替えているので、衛生的に問題はないので安心だ。
「おい、ケティ。黙ってられたら分からん。なにか言ってくれっ!」
答えない私に向かってライアンはまた声を掛けてくる。
私は本当の事を言わないと決めた。
でも無視するのは違うし、嘘を吐くのも気が引ける。
だからこの場で言うに一番妥当な言葉を口にする。
「ライ、扉の弁償はどうする?」
「へっ?……扉のことはあとでは駄目なのか?
それより俺は他のことを先に聞きたいんだが、」
「駄目よ、ライ。我がオールガー伯爵家では、最優先事項は扉と決まっているのよ」
「…………初耳だ」
「………初めて話したわ。さっき決まったから」
「そうか、それなら納得だな」
そう言うとライアンは非の打ち所のない弁償方法をスラスラと話し始めた。
忘れていた、ライはモテるだけでなくなかなか優秀だったのだ。
「これでいいか?ケティ」
「え、ええ…。ライ、完璧な答えを…ありがとう?」
文句がつけようがないので、呆気なく最優先事項は解決済みとなってしまった。
もう話を逸らすのは許さないとばかりに、心身ともにじりじりと迫ってくるライアン。
「ケティ、話せ。俺に隠しごとは許さねぇからなっ!」
口の悪いライアン。
私にだけぞんざいな口調なのを嫌だなって思っていたけれど、今は『私だけのライ』って都合の良いように錯覚しそうだ。
自分の想いを紡ぎたい。
言わないって決めていたのに…。
幼馴染の立場は死守するって決めたのに…。
でも、でも…どうすればいいの…。
止まっていた涙がまた零れてくる。
自分の心と口が別々に動き出しそうで、怖い。
気づけば体が微かに震えている。
恋ってこんなにも人を弱くするなんて知らなかった。
「…イ、……ライ、ライ…ライ……」
「ケティ、大丈夫だ。俺がいるっ。お前にはいつだって俺がついているからな」
ただライアンの名前を呼び続けて泣く私の耳元で優しく囁いてくれるライアン。
そして両手で私の体を包み込むようにそっと抱きしめてくれる。
こんなライアンなんて初めてだった。
これは夢だろうか。
ライが私を抱きしめてくれている?
嘘…、本当なわけない。
これはきっと夢だわ…。
そうだ、これは白昼夢というやつだ。
人は極限まで追い込まれると、現実逃避という手段に走ることを知った。
私はいま自分が望む都合の良い夢を見ている。
夢ならば何をしてもいいだろう。
というか、何もしないなんて勿体ない。
夢の世界では責任なんて負わなくていいのだから、しっかりと夢を堪能するべきだ。
私はライの顔を両手でしっかりと挟んで固定する。彼が逃げられないようにと、初めての私が失敗しない為だ。
「な、なにしてんだっ…ケティ?」
ちょっと狼狽えているライアン。
それはそうだろう、私の顔がすぐ目の前まで迫ってきているのだから。
「ちょっと黙っていて、ライ。私、初めてだから動かれると上手くできないわ」
「…っ…えっ?ええーー」
「ライ、お口チャックよ」
「………」
ライが口を閉じた瞬間に、私は彼の唇を奪った。
その感触は柔らかくてとても温かい。それに少しだけ湿っていてなんだか甘く感じ、とても夢とは思えないほどだった。
あまりの心地よさに頭がぼうっとなってしまう。
白昼夢って最高だわ…。
名残惜しいけれど口づけを終えて、ライアンの目を真っ直ぐに見つめる。
私の大好きな深い藍色の瞳に私だけが映っている。
今は私だけのライだ。
「ライ、大好きよ」
「ケティ、俺も愛してる」
絶対に伝えないと決めていた想いを、夢の中だから言葉にしていた。答えなんてなくてもいい、現実でなくても自分の想いを言えただけで満足だった。
だがライアンは私の想いに応えてくれる。その口調はとても甘く、普段の彼からは想像もできないものだった。
やはり夢だけあって、私の願望がしっかりと反映されているようだ。
「夢でも嬉しいわ…ライ」
「ケティ、夢じゃない」
呟くようにそう言った私に、すかさずライアンは言葉を返す。
出来ればもう少しだけ夢を見させて欲しい。
だってこれは私の白昼夢だ、誰にも邪魔はさせない。
「ライ、そんなことまた言ったら、もう一度口づけをするわよ」
「夢・じゃ・な・い」
即答するライアン。
そして今度は私からではなく、彼の方からそっと口づけをしてくる。
初めは優しく、でもだんだんと彼は大胆になっていく。
それはもう未知の世界で、白昼夢とは思えないほど…。
これって夢よね…?
もちろん夢に決まっている。だからこそ私はあんなことやこんなことをしているのだ。
――でも念のため、空いている手でそっと自分の太腿をつねってみる。
なぜか普通に痛かった。
あなたにおすすめの小説
婚約者の幼馴染にマウントを取られましたが、彼は最初から最後まで私の味方でした
柊
恋愛
学園で出会い、恋人になり、婚約したリアラとエルリック。
卒業後、リアラはエルリックの故郷へ挨拶に向かう。
彼の両親への挨拶に緊張していると、そこに現れたのはエルリックの幼馴染サラだった。
「私の方がエルリックを知ってる」
「サバサバしてるだけだから」
そんな言葉でリアラを見下し、距離を詰めてくるサラ。
さらにはリアラという婚約者がいるにも関わらず、エルリックに想いを告げてきて――
※複数のサイトに投稿しています。
幼馴染同士が両想いらしいので応援することにしたのに、なぜか彼の様子がおかしい
今川幸乃
恋愛
カーラ、ブライアン、キャシーの三人は皆中堅貴族の生まれで、年も近い幼馴染同士。
しかしある時カーラはたまたま、ブライアンがキャシーに告白し、二人が結ばれるのを見てしまった(と勘違いした)。
そのためカーラは自分は一歩引いて二人の仲を応援しようと決意する。
が、せっかくカーラが応援しているのになぜかブライアンの様子がおかしくて……
※短め、軽め
彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった
みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。
この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。
けれど、運命になんて屈しない。
“選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。
……そう決めたのに。
彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」
涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。
最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。
幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。
一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。
ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。
妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです
今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。
が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。
アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。
だが、レイチェルは知らなかった。
ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。
※短め。
夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!
佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。
「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」
冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。
さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。
優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。