すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと

文字の大きさ
19 / 26

19.悲劇~エリザベス視点~

身籠ってからは何もかも順調だった。心配性のアレクはなるべく別邸で仕事をするようにしていて、まだ生まれてもいないのに笑っちゃうくらい親ばかぶりを発揮していた。

幸せに満ちた毎日。

本邸で育っているあの女性が産んだ子を忘れているわけではないが、彼と同じで私もこの幸せが一番大切であり優先すべきことだった。

だからロザリンとその子供の存在から目を背けていた。

私もこの子とアレクがいればいい…。その為にも夏前までに夢を解析しなければ。

今日は王宮で外せない仕事がある彼は朝から外出していて不在だ。この間に少しでも何かヒントを見つけたいと思って、夢を書き出した紙を見直し何か見落としがないか考える。

誰にも知られたくないので完全に人払いして、庭にある温室のなかで一人静かに紙を捲る。

だから気が付かなかった…忍び寄る足音に。

カサリッ。

葉を踏むわずかな音がして後ろを振り返ると直ぐ近くにロザリンの姿があった。彼女はなぜかメイド服に身を包み大きな花束を抱えている。

私が口を開く前に彼女のほうから話し掛けてきた。

「ご懐妊おめでとうございます。本当はもっと早くにお祝いを申し上げたかったのですが、私は別邸に来る許可を頂けなくて…。
でも珍しい薔薇の花が手に入ったので、是非にエリザベス様にお祝いの品として差し上げたいと思いメイドに扮して来てしまいましたわ」

ロザリンが手にしている薔薇は確かに珍しいものだった。それは普通なら夏にしか咲かない薔薇のはずで、夢に出てきたあの薔薇だった。

 …なぜ今の時期にそれが咲いているの…?

花束から目が離せずにいると、『気に入って頂けたようで嬉しいですわ』と言ってからにたりと笑う。

「この薔薇は改良されたものですのよ。本来ならば夏しか楽しめないものでしたが、冬にも咲くようになりましたの。まだ市場には出回っていませんから大変貴重なものですのよ。
ふふふ、貴女の死を飾る為に奮発したんですの。
どうかこれを受け取って永遠の眠りについてくださいな」

そう言いながらロザリンは小走りに私に向かって走ってきて薔薇の花束を押し付けてきた。

ドスン!!バサリ‥‥。

 …っえ………、な、に…こ…れ………。

鈍い衝撃とともに真っ赤に染まった右胸。
立ってはいられずに、その場に崩れ落ちる。扉を開けて近寄ってくる使用人達の姿がぼやけて見える。

私が倒れた周りにはロザリンが持って来た薔薇の花びらが散っている。

ごっぼっ…。

口から血が溢れ息が苦しい。痛みを感じ始めた胸に目をやりようやく刺されたことを自覚する。
痛みに堪えながら赤ちゃんがいるお腹のほうに視線をやり、お腹は刺されていないことにホッとする。

 あ、赤ちゃんは無事‥よね…?
 良かった…刺されたのがお腹ではなくて…。

駆け付けた使用人達によって地面に押さえつけられ喚き散らすロザリンの声が聞こえる。

『奥様、しっかりなさってください!今医者を呼んでいますから、お気を確かに!』
胸から溢れ出る血を必死の形相で止めながら、励ましてくれる侍女。

 もっと気を付けるべきだった…。
 赤ちゃんだけは助…けて、お願い神様…。

 ごめんね赤ちゃ…ん。守れな…く、て。


ゴブッ、ゴッホゴッホ…。

溢れ出る涙も血も止まることはなかった。
このままアレクに会えずに死ぬのかと思うと死ねないと思った。だってまだ私はアレクにこれから起こる不幸を止めていない。彼をあんな目に遭わせたくはない…。

‥‥生きていたい。

考えとは反対に身体は冷えて感覚はどんどん鈍くなってくる。

 …アレ、ク…ごめんね。
 もうお別れか…も…しれない。
 お腹の…赤ちゃんまで連れて行って…しまう、のかな…。
 あ、あなたを一人…にしたくない…のに‥‥。

あなたにおすすめの小説

三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで

狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。 一度目は信じた。 二度目は耐えた。 三度目は――すべてを失った。 そして私は、屋上から身を投げた。 ……はずだった。 目を覚ますと、そこは過去。 すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。 ――四度目の人生。 これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、 同じように裏切られ、すべてを失ってきた。 だから今度は、もう決めている。 「もう、陸翔はいらない」 愛していた。 けれど、もう疲れた。 今度こそ―― 自分を守るために、家族を守るために、 私は、自分から手を放す。 これは、三度裏切られた女が、 四度目の人生で「選び直す」物語。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

真実の愛の言い分

豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」 私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

この罰は永遠に

豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」 「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」 「……ふうん」 その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。 なろう様でも公開中です。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。