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17.ギルアの影武者①
今日は『後宮問題解決策』提案の為、王宮に来ている。約束の時間は午後二時なので、20分前には王宮入口に到着していた。馬車が入れるのは此処までで、ここから長い外廊下を歩き、王宮の政務棟にある国王執務室に向かうのである。
シルビアは正妃として国王に面会を申し込んでいたので、服装も正妃らしい少し豪華なドレスを身に纏い、繊細な細工を施している腕輪だけを付けている。派手ではないがパッと目を引く美しさだ。一緒に連れてきている侍女サーサと護衛騎士サカトも珍しく、正式な制服を着用している。
気合いバッチリの三人は(((いざ出陣!)))と歩き始めると、
「正妃様、お待ちください。ご案内いたします」
王宮侍女に呼び止められ、案内をされる事になった。
年配の王宮侍女に付いて歩き始めるが、政務棟ではなく反対の左の棟に向かっていく。シルビアは国王執務室に行くのは二回目なのでこの道順が間違っているのにすぐに気づいた。
「これは執務室に行く道順ではないわね。どういうことですか?」
「執務室ではなく、王族の庭園にご案内するようにとギルア国王から言われております。なのでそちらに向かっております」
ご安心くださいとでも言うように王宮侍女は優しい声色で答え、そのまま案内を続ける。
「今歩いている棟は、国王とその家族が住む場所で、現在はギルア様のみがお暮しです。ここを抜けるとその先に王族専用の庭園がございます。今日はそちらに、話の場をご用意しております」
棟から出るとすぐに庭園が見えてきた、八メートルはある立派な楠を中心にして花々が咲き乱れている。その楠の日陰にテーブルと椅子が用意されている、どうやらここが、今日の話し合いの場のようだ。もう既に国王は席に着いて、正妃様はあちらにどうぞと促される。サーサとサカトも付いて行こうとするが止められた。
「正妃様の侍女と護衛騎士はあちらでお願いします」
建物近くにもテーブルと椅子が置いてあり、どうやらお付きの者の為にわざわざ用意していたようだ。だが専属とは、常にお側で控えるべき存在だ、『シルビア様の側を離れるつもりはない』と訴える二人。
「ここは王族のプライベート空間です。王宮侍女が責任を持って正妃様のお世話も致します。ましてやギルア国王が側にいるのだから護衛は不要です。オーサン国にギルア様より強い者はおりません、だからこそ国王なのです」
流石は王宮侍女、貫禄があり一枚上手である。
シルビアは太腿を軽く叩き、二人に『大丈夫』だと合図する。太腿には隠し剣があり、剣術の腕前を知っている二人は『了解しました』と合図を返し、側を離れる。
シルビアがテーブルに近づき椅子に座ると、国王が先に口を開いた。
「今日は急に悪かったな」
「いいえ、大丈夫です。こんなに早く報告の時間を取っていただき有り難うございます。早速ですが、本題に入ってよろしいですか?」
シルビアは先日依頼された公務の報告をしようとするが、国王が待ったを掛けてきた。
「報告の前にお茶を楽しまないか。せっかく綺麗な花に囲まれているのだから楽しもう」
「……」
(……この人は誰だ?確か顔は国王のようだが、雰囲気が全然違う、声色も甘い…?そして何故にお茶?)
今日で会うのが三回目の夫の顔を朧気にしか覚えていない失礼な妻は、悩む…悩む…、『この人は本物』かと。そして『国王の影武者来たり!』と結論をだした。
「このような場所で報告会とはおかしいと思いましたが、まさか影武者を寄越すとは、何かのテストですか?フフッ受けて立ちますよ♪」
「…影武者?俺は本物だぞ」
「顔は確かに似ている気がしますが、雰囲気が全然違います。影武者になるには雰囲気も大事です、もっと国王の観察が必要ですね」
(影武者は顔だけでは駄目なのよ。きっと新人なのね、ガンバ!)
本物だと信じてもらえないうえに、『顔は似ている気がする』?という事はギルアの顔をちゃんと覚えていないと言っているのだ。ショックに落ち込むギルアの顔色は悪くなる。
「そ・れ・で・す・よ!影武者さん。国王は尊大な威圧オーラ満載でした、気弱は駄目です。もっと自分勝手な威張りん坊でいきましょうね、そしたら似ますよ♪」
シルビアは影武者ギルアに対しダメだしをし、優しく指導をしてくる。言い方は優しいがその内容が容赦なくギルアに突き刺さる。
『顔が似ている気がする』剣がすでに腹にブスリと一本入っているのに、続けて『自分勝手』剣が背中に一本、『威張りん坊』剣が胸に一本。もうギルアは瀕死の状態だ、その様子を見かねた年配の王宮侍女が助けに入った。
「正妃様、そちらのギルア国王は本物です。影武者ではありませんよ」
と言われても、まだ疑わそうな表情をするシルビア。
「ではギルア様、本物だという証拠を正妃様にお見せしてはどうでしょう?」
ギルアは名案だとばかりに、おもむろにシャツの釦を外し、左胸の独特な痣をシルビアに見せる。
「この痣は俺が生まれた時からあるものだ。これがある俺は本物だ」
「確かにその痣は独特なので真似出来ませんね。でもそれは『生まれたときから国王を知っている人』か『以前に閨をともにした人』しか分かりません。側妃方ならいざ知らず、私には無理です」
(ふふ~ん!ほら初夜も迎えてないのを知らないあなたは影武者よ、見破ったり♪)
痛恨のミスをしたギルアと、助け舟を出したつもりが結果的に泥沼に国王を沈めてた王宮侍女は屍と化した…。
もう周りも気まずそうで誰も助けに入ってくれない、そもそもどう助ければいいのか分からない。真の臣下はいないのか…?
そんな時、遠くからギルアに声が掛かる。
「ギルア様、おさぼりいいですね!俺も参加しようかな~ワッハッーー」
そちらを見ると、首に縄をつけ引きずられていくガロンと引きずる宰相の姿が建物の中へと消えていくところだった。道理でガロンの声が途中で途切れるはずである…。
でもこれが良かった!兄貴分的存在のガロンが国王を間違えるはずがないし、ましてや影武者を信じさせる為の演技を単純犬が出来るはずがないとシルビアは考えたのだ。知らずに手柄をたてたガロン、君こそ真の臣下だ!
「…どうやら本物のようですね。数々の無礼お許しください」
(まさか本物とは。きっと頭をぶつけたのね、でも後遺症で雰囲気が変化するものかしら?)
「気にするな、俺の行いが返ってきただけの事。こちこそ今まで悪かった」
本物だと信じてもらいホッとするギルアとそんな様子に戸惑うシルビア、とりあえずは仕切り直してお茶会がスタートする。
「今日はなぜここなのですか?」
シルビアは素朴な疑問をぶつけてみる。頭をぶつけた可哀想な人と思っているので、口調も優しめにしている。
「昨日ガロンとお茶会をしたのだろう?夫婦である俺としてないのはおかしいだろう」
「…お茶会がお好きなのですね」
「それにガロンと名前で呼び合っているそうだな。夫婦の俺たちが『国王』と『正妃』ではおかしい。俺の事は『ギルア』と呼んでくれ、『シルビア』と呼んでいいか?」
「…ええ構いません、ギルア様」
この返事にギルアの尻尾がブンブンと揺れているが、テーブルに隠れてシルビアからは見えない。その為シルビアはギルアの変化の意味が分からない。もちろん尻尾を振っている本人も自分の尻尾の意味に気づいていない、まだまだ未熟なのだ。
急な態度の変化は怪我の後遺症かもしれないが、ギルアが自分の事を認めたことは理解した。前向きなシルビアは根に持たないので、今までのギルアの無礼は水に流し、明るい未来を作る仲間として仲良くしようと思った。
「これからお互い協力して頑張りましょうね、ギルア様」
(ギルア様と友達になれて良かった!ご近所さんとは仲良くした方が気持ちよく暮らせるものね♪)
「もちろんだ、シルビア」
(なんか夫婦っぽいな♪モヤモヤもなくなっている、…なんでだ?)
本当は大きな齟齬があるが、お互い状況に満足しているので問題なし。
お茶を飲みながらの会話は意外にも弾み、あっという間に時間が過ぎていった。
二時間後、宰相がギルアを回収に来て、あまりに楽しい会話にお互い夢中になり肝心な報告は全くしていなかったのに気が付いた。
「明日、またここでお茶をしながら報告を聞かせてもらってもいいか?」
「はい、分かりました。私もギルア様との会話が楽しくて肝心なことを忘れてしまいました♪」
「俺もシルビアとの会話は楽しかった!こんなに時間が速く感じたのは初めてだ」
明日の約束を取り付けて、今日のお茶会は終了となった。
執務室に戻ったギルアは上機嫌で尻尾をブンブンと揺らしながら書類にサインを始める。
昨日、ガロンから報告を聞いた後はなぜか原因不明の不調に悩み、自分もシルビアとお茶や名前呼びをしなければと王族専用の庭園にお茶会の用意までさせたのはギルア自身だ。そして、今はなぜか昨日の不調が嘘のように消え、気力が漲っている。今回の原因は分からないままだが、気分が最高に良いので、気にしていないというか、ハイになっているので考えてないようだ。
本来なら報告を聞いてない国王にネチネチと嫌味を言う宰相だが今日は違う、一緒になって尻尾を揺らしている。ギルアの微々たる前進に喜びを隠せないのだ。
(いいですね~。これは本人の努力なのでトト爺にも邪魔されないでしょう。私の一歩リードですよ)
以前『仏のトト』に負けた事をまだ根に持っているらしい。
国王の執務室にある自分の机で必死に書類と格闘中のガロン。宰相からお仕置きとして渡された仕事が徹夜をしても終わらず、目が虚ろになっている。そんなガロンの机の上の書類の山が気づくと半分ほどなくなっている。
「ガロン、これは俺がやっとくぞ♪」
「えっ、いいのか…?」
「ああ、お前には助けられたからな!」
何を助けたかのか分からないが、仕事が減るのは天の助けとばかりに、ギルアに抱き付き感謝した。
「ギルア様、好きだ―!」
いつもならふざけるなと拳を入れるところだが、影武者説を覆してくれた恩人なので今回は見逃した。
---これを後に後悔することになるのだが---
シルビアは正妃として国王に面会を申し込んでいたので、服装も正妃らしい少し豪華なドレスを身に纏い、繊細な細工を施している腕輪だけを付けている。派手ではないがパッと目を引く美しさだ。一緒に連れてきている侍女サーサと護衛騎士サカトも珍しく、正式な制服を着用している。
気合いバッチリの三人は(((いざ出陣!)))と歩き始めると、
「正妃様、お待ちください。ご案内いたします」
王宮侍女に呼び止められ、案内をされる事になった。
年配の王宮侍女に付いて歩き始めるが、政務棟ではなく反対の左の棟に向かっていく。シルビアは国王執務室に行くのは二回目なのでこの道順が間違っているのにすぐに気づいた。
「これは執務室に行く道順ではないわね。どういうことですか?」
「執務室ではなく、王族の庭園にご案内するようにとギルア国王から言われております。なのでそちらに向かっております」
ご安心くださいとでも言うように王宮侍女は優しい声色で答え、そのまま案内を続ける。
「今歩いている棟は、国王とその家族が住む場所で、現在はギルア様のみがお暮しです。ここを抜けるとその先に王族専用の庭園がございます。今日はそちらに、話の場をご用意しております」
棟から出るとすぐに庭園が見えてきた、八メートルはある立派な楠を中心にして花々が咲き乱れている。その楠の日陰にテーブルと椅子が用意されている、どうやらここが、今日の話し合いの場のようだ。もう既に国王は席に着いて、正妃様はあちらにどうぞと促される。サーサとサカトも付いて行こうとするが止められた。
「正妃様の侍女と護衛騎士はあちらでお願いします」
建物近くにもテーブルと椅子が置いてあり、どうやらお付きの者の為にわざわざ用意していたようだ。だが専属とは、常にお側で控えるべき存在だ、『シルビア様の側を離れるつもりはない』と訴える二人。
「ここは王族のプライベート空間です。王宮侍女が責任を持って正妃様のお世話も致します。ましてやギルア国王が側にいるのだから護衛は不要です。オーサン国にギルア様より強い者はおりません、だからこそ国王なのです」
流石は王宮侍女、貫禄があり一枚上手である。
シルビアは太腿を軽く叩き、二人に『大丈夫』だと合図する。太腿には隠し剣があり、剣術の腕前を知っている二人は『了解しました』と合図を返し、側を離れる。
シルビアがテーブルに近づき椅子に座ると、国王が先に口を開いた。
「今日は急に悪かったな」
「いいえ、大丈夫です。こんなに早く報告の時間を取っていただき有り難うございます。早速ですが、本題に入ってよろしいですか?」
シルビアは先日依頼された公務の報告をしようとするが、国王が待ったを掛けてきた。
「報告の前にお茶を楽しまないか。せっかく綺麗な花に囲まれているのだから楽しもう」
「……」
(……この人は誰だ?確か顔は国王のようだが、雰囲気が全然違う、声色も甘い…?そして何故にお茶?)
今日で会うのが三回目の夫の顔を朧気にしか覚えていない失礼な妻は、悩む…悩む…、『この人は本物』かと。そして『国王の影武者来たり!』と結論をだした。
「このような場所で報告会とはおかしいと思いましたが、まさか影武者を寄越すとは、何かのテストですか?フフッ受けて立ちますよ♪」
「…影武者?俺は本物だぞ」
「顔は確かに似ている気がしますが、雰囲気が全然違います。影武者になるには雰囲気も大事です、もっと国王の観察が必要ですね」
(影武者は顔だけでは駄目なのよ。きっと新人なのね、ガンバ!)
本物だと信じてもらえないうえに、『顔は似ている気がする』?という事はギルアの顔をちゃんと覚えていないと言っているのだ。ショックに落ち込むギルアの顔色は悪くなる。
「そ・れ・で・す・よ!影武者さん。国王は尊大な威圧オーラ満載でした、気弱は駄目です。もっと自分勝手な威張りん坊でいきましょうね、そしたら似ますよ♪」
シルビアは影武者ギルアに対しダメだしをし、優しく指導をしてくる。言い方は優しいがその内容が容赦なくギルアに突き刺さる。
『顔が似ている気がする』剣がすでに腹にブスリと一本入っているのに、続けて『自分勝手』剣が背中に一本、『威張りん坊』剣が胸に一本。もうギルアは瀕死の状態だ、その様子を見かねた年配の王宮侍女が助けに入った。
「正妃様、そちらのギルア国王は本物です。影武者ではありませんよ」
と言われても、まだ疑わそうな表情をするシルビア。
「ではギルア様、本物だという証拠を正妃様にお見せしてはどうでしょう?」
ギルアは名案だとばかりに、おもむろにシャツの釦を外し、左胸の独特な痣をシルビアに見せる。
「この痣は俺が生まれた時からあるものだ。これがある俺は本物だ」
「確かにその痣は独特なので真似出来ませんね。でもそれは『生まれたときから国王を知っている人』か『以前に閨をともにした人』しか分かりません。側妃方ならいざ知らず、私には無理です」
(ふふ~ん!ほら初夜も迎えてないのを知らないあなたは影武者よ、見破ったり♪)
痛恨のミスをしたギルアと、助け舟を出したつもりが結果的に泥沼に国王を沈めてた王宮侍女は屍と化した…。
もう周りも気まずそうで誰も助けに入ってくれない、そもそもどう助ければいいのか分からない。真の臣下はいないのか…?
そんな時、遠くからギルアに声が掛かる。
「ギルア様、おさぼりいいですね!俺も参加しようかな~ワッハッーー」
そちらを見ると、首に縄をつけ引きずられていくガロンと引きずる宰相の姿が建物の中へと消えていくところだった。道理でガロンの声が途中で途切れるはずである…。
でもこれが良かった!兄貴分的存在のガロンが国王を間違えるはずがないし、ましてや影武者を信じさせる為の演技を単純犬が出来るはずがないとシルビアは考えたのだ。知らずに手柄をたてたガロン、君こそ真の臣下だ!
「…どうやら本物のようですね。数々の無礼お許しください」
(まさか本物とは。きっと頭をぶつけたのね、でも後遺症で雰囲気が変化するものかしら?)
「気にするな、俺の行いが返ってきただけの事。こちこそ今まで悪かった」
本物だと信じてもらいホッとするギルアとそんな様子に戸惑うシルビア、とりあえずは仕切り直してお茶会がスタートする。
「今日はなぜここなのですか?」
シルビアは素朴な疑問をぶつけてみる。頭をぶつけた可哀想な人と思っているので、口調も優しめにしている。
「昨日ガロンとお茶会をしたのだろう?夫婦である俺としてないのはおかしいだろう」
「…お茶会がお好きなのですね」
「それにガロンと名前で呼び合っているそうだな。夫婦の俺たちが『国王』と『正妃』ではおかしい。俺の事は『ギルア』と呼んでくれ、『シルビア』と呼んでいいか?」
「…ええ構いません、ギルア様」
この返事にギルアの尻尾がブンブンと揺れているが、テーブルに隠れてシルビアからは見えない。その為シルビアはギルアの変化の意味が分からない。もちろん尻尾を振っている本人も自分の尻尾の意味に気づいていない、まだまだ未熟なのだ。
急な態度の変化は怪我の後遺症かもしれないが、ギルアが自分の事を認めたことは理解した。前向きなシルビアは根に持たないので、今までのギルアの無礼は水に流し、明るい未来を作る仲間として仲良くしようと思った。
「これからお互い協力して頑張りましょうね、ギルア様」
(ギルア様と友達になれて良かった!ご近所さんとは仲良くした方が気持ちよく暮らせるものね♪)
「もちろんだ、シルビア」
(なんか夫婦っぽいな♪モヤモヤもなくなっている、…なんでだ?)
本当は大きな齟齬があるが、お互い状況に満足しているので問題なし。
お茶を飲みながらの会話は意外にも弾み、あっという間に時間が過ぎていった。
二時間後、宰相がギルアを回収に来て、あまりに楽しい会話にお互い夢中になり肝心な報告は全くしていなかったのに気が付いた。
「明日、またここでお茶をしながら報告を聞かせてもらってもいいか?」
「はい、分かりました。私もギルア様との会話が楽しくて肝心なことを忘れてしまいました♪」
「俺もシルビアとの会話は楽しかった!こんなに時間が速く感じたのは初めてだ」
明日の約束を取り付けて、今日のお茶会は終了となった。
執務室に戻ったギルアは上機嫌で尻尾をブンブンと揺らしながら書類にサインを始める。
昨日、ガロンから報告を聞いた後はなぜか原因不明の不調に悩み、自分もシルビアとお茶や名前呼びをしなければと王族専用の庭園にお茶会の用意までさせたのはギルア自身だ。そして、今はなぜか昨日の不調が嘘のように消え、気力が漲っている。今回の原因は分からないままだが、気分が最高に良いので、気にしていないというか、ハイになっているので考えてないようだ。
本来なら報告を聞いてない国王にネチネチと嫌味を言う宰相だが今日は違う、一緒になって尻尾を揺らしている。ギルアの微々たる前進に喜びを隠せないのだ。
(いいですね~。これは本人の努力なのでトト爺にも邪魔されないでしょう。私の一歩リードですよ)
以前『仏のトト』に負けた事をまだ根に持っているらしい。
国王の執務室にある自分の机で必死に書類と格闘中のガロン。宰相からお仕置きとして渡された仕事が徹夜をしても終わらず、目が虚ろになっている。そんなガロンの机の上の書類の山が気づくと半分ほどなくなっている。
「ガロン、これは俺がやっとくぞ♪」
「えっ、いいのか…?」
「ああ、お前には助けられたからな!」
何を助けたかのか分からないが、仕事が減るのは天の助けとばかりに、ギルアに抱き付き感謝した。
「ギルア様、好きだ―!」
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