不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと

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1.貧乏小国はのんびりと

ここはとある貧乏小国。自然に囲まれ美味しい空気はあるが軍事力も弱ければ鉱山も特産品も全くない、ともすれば地図からも消されてしまうことすらある存在感ゼロの国だ。

ないない尽くしの国だが、貧乏に慣れ切っている民も王族もある意味『幸せ度100%』でいつも笑顔だけは絶えることが無い。
いうなればのんきな集団と言っても間違いではない。国として成り立っているのはあまりにも魅力がないので周りの国から価値なしと判断されて攻め込まれることがないからである。

…もはや国ではなく村と名乗った方が良いかもしれない。



ウモォーモォーモォー。
コッケッーコッコッコー。
ブヒブヒブヒッヒー。

今日も王宮の裏手にある家畜小屋からは元気な家畜たちの鳴き声が響いている。
そんななか一人の美少女が家畜に混ざって遊んでいる…ではなく、お世話をしている。

ポニーテールに纏めた髪を振り乱し、ブラシ片手に家畜を追いかけまわし叫んでいる。

「コラー!お待ちなさいっ、ブタ吉!ブラッシングの途中で逃げては駄目でしょうが!そんなんじゃ女の子にモテませんわよ~」

「ブッヒブッヒブヒーーー!」

「えっ?俺は男前だから要らん心配するなですって。あなたいつモテたんですか?毎日来ている私でもそんなの見たことないですよ~?
勘違いブタは残念ですわよ!」

ブタと仲良く話しながら追いかけっこをしているのはこの国の国王の娘であるロナ姫17歳。

姫と言っても貧乏国なので、ドレスを着て『ホッホッホ』と鈴のような声で笑いながら優雅に暮らすのでなく、自分のことは自分でやり、家畜のお世話もこなしてしまう庶民道まっしぐらの姫である。

…もはや村長の娘レベルといっても過言ではない。

ロナ姫とブタ吉との攻防戦が膠着していると城から駆けてきた侍女が大きな声を出して姫を呼んでいる。

「姫様ー、ロナ姫ー様。国王様が呼んでいらっしゃいますから急いで城にお戻りくださいー」

「はーい、分かったわ!」

元気よく返事をして侍女と一緒に城に戻ると着替えることなく汚れた作業服のまま国王がいる執務室へと入って行く。
勿論、誰もそのことを咎めることはない、これがこの城の日常だからだ。

「父上、どうなさいましたか。なにかあったのですか?」

「うむ。ちょっと良いことがあったんだ。ロナにも早く教えてあげようと思ってな。きっと吃驚するぞ、もしかしたらロナは腰を抜かしてしまうかもしれんな、ハッハッハ」

父である国王がご機嫌な様子で娘である姫に言う。もったいぶって言わないところを見ると、何があったか当てて欲しいらしい。

 本当に父上ったら子供なんですから…。

ロナ姫は期待に応えて予想を次々に口にしてみる。

「う~ん、分かりました!この前買った牝牛が妊娠していて春には買ってない仔牛が増える!どうですか?」

「ブッブブーー」

「え~と、では脱走していた馬が反省して帰ってきたとか?」

「ブッブッブブー」

こんなやり取りを繰り返す事10分。ロナ姫はめんどくさくなっているが、国王が止めようとしないのでやけくその回答を始める。

「ああ分かりましたわ。鳥が複数羽、城壁にぶつかって勝手に落ちてきて食料ゲットですかね~」

この答えを聞いてギクっとする国王。
「わ、儂が一人で食べたんじゃないぞ。宰相と一緒に食べたんだからな…独り占めでは決して…ない」

昨日の夜、皿の上に放置されている焼き鳥の串を数本見つけ、
『誰ですか!焼き鳥大好きな私に隠れて自分だけ美味しいものを食べた人はー?!』
と騒ぎ立てたが名乗り出る者はいなかった。

どうやら犯人の正体は国王と宰相だったようだ。

 憎っき犯人見つけたり~。
 
ジト目で父を見るロナ姫。

「………な・に・か・言いたいことがありますか?父上」

「す、すまん…でも儂はロナを誘おうって言ったんだぞ。だがな…宰相が少ししかないからと…、」

国王は言い訳をしながら同罪である友に助けを求めようと宰相が立っていた方を見るが…もうそこに彼の姿はなかった。

 早っ!宰相、逃げ足早っ!
 まさかの一人逃げか?!
 儂は親友だと思っていたのに…。


どうやら宰相は国王を見捨てて自分だけ助かることを選んだらしい。

しょんぼりとする国王にさっきまでのルンルン気分はない。そこに追い打ちを掛けるロナ姫。

「もしかしたら宰相は真の友ではなかったのかもしれませんわね。その人の『人柄』ではなく『身分』とお友達っていうのが世間ではよくあるみたいですよ。でも父上は国一番の身分を持っているから仮の友は大勢いますよ、きっと。
良かったですね、父上!」

これは励ましているようで励ましていない。それどころか後ろから更に切り付けているようなものだ。

瀕死の状態の国王に周りにいる家臣達は心の中で『『ドンマイ!!』』と一生懸命に声援を送るが届いていない…。

今度は家臣達がこんな状態を引き起こしたロナ姫をジト目で見つめてコソコソと話す。
 
「「姫様が何とかしてください。国王様がこうなったのは姫様の言葉が原因ですからね。
自分の尻は自分で拭おうです!」」

「尻って…。私、一応この国の姫だよね…」

「「それがなにか?!」」強気の家臣達。

「り、了解です…」

ロナ姫は『この国…力関係がおかしくないか…?』とちょっと頭を過ぎった、でも平和だから深く考えないようにする。

 平和が一番、私は二番~♪だから仕方ないか。
 …っていうか二番だよね?
 十二番とか圏外とかじゃないよね…。
 えっと…一応姫と愛されているかな‥‥?


チラリと後ろの家臣達を見たが真実が怖くて聞けないロナ姫。

 うん、忘れよう!
 真実が必ずしも幸せをもたらすとは限らない!

潔く考えない事を選択する。

そして家臣達のプレッシャーをビシバシ背中に感じながら国王に無駄に明るい口調で声を掛ける。

「父上。過ぎ去った過去など忘れましょう。
さあさあ気を取り直して良い事を早く教えてくださいませ♪」

「ああそうだな。すっかり大切なことを伝えるのを忘れるところだった。
なんと驚け!牛100頭を隣国から貰ったんだぞ!」

「えっ!100頭ですか。それは凄いですね!でもなぜ隣国はくれたんでしょうか?」

ロナ姫が首を傾げながら口にした疑問はそこにいる家臣達全員の疑問でもあった。

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