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1-10 ジュリアン侯爵の頼み
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「おや?貴女は・・・?」
ジュリアン侯爵は突然応接室に入って来たカサンドラを瞬きしながらじっと見つめた。カサンドラの着ているドレスは新品なのだろうか?今迄見た事も無い鮮やかな緑色のドレスの端々には蝶の刺繍が施されている。
間違いない、あれは・・・『レディ・アート』のドレスだ・・・!
「お初にお目にかかります。私、カサンドラ・シュナイダーと申します。ライザの従妹にあたり、今年18歳になります。」
ニコリと笑みを浮かべ、ドレスの両端を摘まんで頭を下げると、当然の如くライザはジュリアン侯爵の向かい側の席にストンと腰を下ろした。
・・・昔からずっとそうだった。カサンドラが我が家に引き取られてからずっと・・彼女は我儘に振舞って来た。普通、その屋敷の中で一番目上の者が命じない限り、我が家では勝手に座る事は許されない。なのにカサンドラだけは別だった。彼女は座りたい時に座るし、退席したい時は自由に去る。それが唯一許された存在だったのだ。一方の私が仮にカサンドラのような真似をすれば、罵倒され、折檻され、仕置き部屋へと閉じ込められる。
一体私とカサンドラは何故こうも待遇が違うのだろう?私はこのシュナイダー家の実の娘のはずなのに・・・。
私は母の座るソファの背後に立ち、歯を食いしばりながら屈辱に耐えた。
ジュリアン侯爵の前で辱められるのは非常に辛いものだった。
侯爵は突然現れ、挨拶をしてきたカサンドラの態度に戸惑いながらも微笑みながら返事を返した。
「え、ええ・・初めまして・・。」
そして立ちっぱなしの私に見向きもせずに席に着いたカサンドラを不思議に思ったのか、首を傾げながら私を見ると声を掛けてきた。
「ライザ・・・何故、貴女は席に着かないのですか?」
「!そ、そうよっ!ライザッ!な・何をしているの?早く席に着きなさいっ!」
母は顔を真っ赤にし、私を叱責した。
「す、すみません。」
私は頭を下げると慌てて席に座り・・冷たい瞳でこちらを睨み付けているカサンドラと視線が合ってしまった。しかし、それは一瞬の事ですぐにカサンドラはジュリアン侯爵に視線を移すと話しかけてきた。
「ジュリアン侯爵様、本日はようこそ我が屋敷にお越しくださいました。どうぞごゆっくりしていかれて下さい。只今、お茶の準備をさせておりますので少々お待ちいただけますか?」
カサンドラはまるで自分がこの屋敷の主のような振舞で公爵を見る。
「え、ええ・・。有難うございます・・・。」
ジュリアン侯爵はカサンドラに礼を述べると私の方を向き直った。
「ライザ・・・お願いがあります。
「お願い・・・ですか?」
「はい、どうか貴女のお部屋を見せて頂けないでしょうか?」
笑みを浮かべながら私に言う。
「え・・・?わ、私の部屋ですかっ?!」
あまりの発言に私は驚いてしまった。しかし、それ以上に驚いたのは母とカサンドラであった。
「あ、あの・・・!ジュリアン侯爵様?ラ、ライザは・・・まだ嫁入り前なのです。婚約を決めた男性もいない若い娘の部屋へ入るのは如何なものかと・・・。」
「そ、そうですよ、ジュリアン侯爵様っ!もうすぐお茶も入りますし、是非このお部屋で私達とお話をしませんか?」
母もカサンドラも必死でジュリアン侯爵が私の部屋へ行こうとするのを食い止めている。・・・まあ、無理も無いだろう。私の本当の部屋は使用人達とほぼ同じ作りの部屋なのだ。殺風景な木の床に、地肌がむき出しになったセメントの壁。部屋の窓は一つしかなく、日当たりもあまり良くない。木のベッドはギシギシときしみ、寝心地も非常に悪い。ただ、一つ使用人達と待遇が違うのは、私の部屋の広さは倍くらい広く、屋敷で仕事をさせられてはいないというだけの違いだ。しかし、彼らは給金としてお金を貰っているが、私は自由にお金を貰える立場にはないのだ。
「まあ、そう仰らず・・・気になるのであれば部屋のドアを開放すれば良いだけの事です。さあ、ライザ。貴女のお部屋へ案内して下さい。」
ジュリアン侯爵は立ち上がった。
「ですが・・・。」
私はチラリと母とカサンドラを交互に見ると、2人は顔を青ざめさせ、全身をブルブルと震えさせている。
全く・・・私は2人の様子を見ながら溜息をついた。そしてジュリアン侯爵を見ると言った。
「はい、ではご案内致します。どうぞこちらへいらして下さい。」
私が立ち上ると、母とカサンドラは鋭い視線で睨み付けてきた。そしてその2人の様子をジュリアン侯爵は黙って見つめている。
母もカサンドラも私を睨み付けるのに集中しているので、まさか自分達がジュリアン侯爵に見られている事に気付いてもいない様子だった。
だけど・・・ご安心下さい。お母様、カサンドラ。私はジュリアン侯爵を本来の自室へは連れては行きません。
「今からジュリアン様を私の勉強部屋へご案内させて頂きますね。」
わざと勉強部屋を強調して言うと、初めて母とカサンドラの表情に安堵の笑みが浮かぶのを私は見た—。
ジュリアン侯爵は突然応接室に入って来たカサンドラを瞬きしながらじっと見つめた。カサンドラの着ているドレスは新品なのだろうか?今迄見た事も無い鮮やかな緑色のドレスの端々には蝶の刺繍が施されている。
間違いない、あれは・・・『レディ・アート』のドレスだ・・・!
「お初にお目にかかります。私、カサンドラ・シュナイダーと申します。ライザの従妹にあたり、今年18歳になります。」
ニコリと笑みを浮かべ、ドレスの両端を摘まんで頭を下げると、当然の如くライザはジュリアン侯爵の向かい側の席にストンと腰を下ろした。
・・・昔からずっとそうだった。カサンドラが我が家に引き取られてからずっと・・彼女は我儘に振舞って来た。普通、その屋敷の中で一番目上の者が命じない限り、我が家では勝手に座る事は許されない。なのにカサンドラだけは別だった。彼女は座りたい時に座るし、退席したい時は自由に去る。それが唯一許された存在だったのだ。一方の私が仮にカサンドラのような真似をすれば、罵倒され、折檻され、仕置き部屋へと閉じ込められる。
一体私とカサンドラは何故こうも待遇が違うのだろう?私はこのシュナイダー家の実の娘のはずなのに・・・。
私は母の座るソファの背後に立ち、歯を食いしばりながら屈辱に耐えた。
ジュリアン侯爵の前で辱められるのは非常に辛いものだった。
侯爵は突然現れ、挨拶をしてきたカサンドラの態度に戸惑いながらも微笑みながら返事を返した。
「え、ええ・・初めまして・・。」
そして立ちっぱなしの私に見向きもせずに席に着いたカサンドラを不思議に思ったのか、首を傾げながら私を見ると声を掛けてきた。
「ライザ・・・何故、貴女は席に着かないのですか?」
「!そ、そうよっ!ライザッ!な・何をしているの?早く席に着きなさいっ!」
母は顔を真っ赤にし、私を叱責した。
「す、すみません。」
私は頭を下げると慌てて席に座り・・冷たい瞳でこちらを睨み付けているカサンドラと視線が合ってしまった。しかし、それは一瞬の事ですぐにカサンドラはジュリアン侯爵に視線を移すと話しかけてきた。
「ジュリアン侯爵様、本日はようこそ我が屋敷にお越しくださいました。どうぞごゆっくりしていかれて下さい。只今、お茶の準備をさせておりますので少々お待ちいただけますか?」
カサンドラはまるで自分がこの屋敷の主のような振舞で公爵を見る。
「え、ええ・・。有難うございます・・・。」
ジュリアン侯爵はカサンドラに礼を述べると私の方を向き直った。
「ライザ・・・お願いがあります。
「お願い・・・ですか?」
「はい、どうか貴女のお部屋を見せて頂けないでしょうか?」
笑みを浮かべながら私に言う。
「え・・・?わ、私の部屋ですかっ?!」
あまりの発言に私は驚いてしまった。しかし、それ以上に驚いたのは母とカサンドラであった。
「あ、あの・・・!ジュリアン侯爵様?ラ、ライザは・・・まだ嫁入り前なのです。婚約を決めた男性もいない若い娘の部屋へ入るのは如何なものかと・・・。」
「そ、そうですよ、ジュリアン侯爵様っ!もうすぐお茶も入りますし、是非このお部屋で私達とお話をしませんか?」
母もカサンドラも必死でジュリアン侯爵が私の部屋へ行こうとするのを食い止めている。・・・まあ、無理も無いだろう。私の本当の部屋は使用人達とほぼ同じ作りの部屋なのだ。殺風景な木の床に、地肌がむき出しになったセメントの壁。部屋の窓は一つしかなく、日当たりもあまり良くない。木のベッドはギシギシときしみ、寝心地も非常に悪い。ただ、一つ使用人達と待遇が違うのは、私の部屋の広さは倍くらい広く、屋敷で仕事をさせられてはいないというだけの違いだ。しかし、彼らは給金としてお金を貰っているが、私は自由にお金を貰える立場にはないのだ。
「まあ、そう仰らず・・・気になるのであれば部屋のドアを開放すれば良いだけの事です。さあ、ライザ。貴女のお部屋へ案内して下さい。」
ジュリアン侯爵は立ち上がった。
「ですが・・・。」
私はチラリと母とカサンドラを交互に見ると、2人は顔を青ざめさせ、全身をブルブルと震えさせている。
全く・・・私は2人の様子を見ながら溜息をついた。そしてジュリアン侯爵を見ると言った。
「はい、ではご案内致します。どうぞこちらへいらして下さい。」
私が立ち上ると、母とカサンドラは鋭い視線で睨み付けてきた。そしてその2人の様子をジュリアン侯爵は黙って見つめている。
母もカサンドラも私を睨み付けるのに集中しているので、まさか自分達がジュリアン侯爵に見られている事に気付いてもいない様子だった。
だけど・・・ご安心下さい。お母様、カサンドラ。私はジュリアン侯爵を本来の自室へは連れては行きません。
「今からジュリアン様を私の勉強部屋へご案内させて頂きますね。」
わざと勉強部屋を強調して言うと、初めて母とカサンドラの表情に安堵の笑みが浮かぶのを私は見た—。
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