虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
19 / 58

2-5 クローゼットの中で

しおりを挟む
 息を切らせながら私は屋敷迄走り・・勉強部屋の見える中庭へと足を踏み入れた。この中庭から見える左から2番目の部屋・・・そこが私の勉強部屋だ。この部屋はあまり太陽も差し込まず、少しかび臭い部屋だ。そんな部屋をあてがわれている私は何て哀れなんだろうと我ながら思ってしまった。そしてそれを当たり前と思い、受け入れて来た自分は今迄どれ程愚かだったのだろうと思う。
さて・・・歴史の家庭教師はもう私の部屋に来ているのだろうか・・・?私はゆっくりと部屋へ近付き、窓から中を覗きこんだ。
すると・・・やはり思った通り、母と家庭教師が背を向けて部屋の中にいる。窓がぴっちり占められているので2人の会話は何を話しているのか聞き取れないが、母は今迄見た事の無い位の笑顔で家庭教師を見上げている。目は潤み、頬を赤らめたその顔は・・・まるで男を誘惑する完全な1人の女の顔の様に私の目には移った。
それを見た途端、私の胸に一気に嫌悪感が走る。
家庭教師はこちらに背を向けているのでどのような表情を浮かべているのか伺い知る事は出来ないが、あの家庭教師は優男である。恐らく甘い笑みを浮かべて母にお金をねだっているに違いない。
しかし・・・母がただ家庭教師にしなだれかかっているだけでは浮気現場とは言えない。もっと決定的な証拠を掴まなければ・・・。
私は2人の動向を窓の外から注意深く伺っていた。
すると、母の口が何やら動いた。私には読唇術の心得は無いが、母が何を言っているのかは容易に想像がついた。

『私の部屋へ行きましょう。』

恐らく母はそう言ったに違いない。すると案の定、母は勉強部屋を出て行った。
その後を家庭教師が続く。
母の部屋は1階の中庭に面した右から2番目の日当たりの良い部屋である。私は急いで中庭をつっ切ると母の部屋の窓を目指した。中庭からの方が部屋の廊下を使うよりもずっと私の勉強部屋から母の部屋まで近いのだ。
一気に中庭を走りぬけ、祈るよう気持ちで母の部屋の窓を押すと、キイイと音を立てて窓が開いた。
よし!私は・・運がいいわっ!母の部屋への侵入が成功した私は急いでクローゼットのドレスの奥に隠れた。ここなら突然クローゼットを開けられてもハンガーにぶら下がっている大量の母のドレスに隠れて私の姿がみつかる事は無いだろう。
後は・・・どうか私の思惑通りに母と家庭教師が現れますように・・・!
祈る気持ちで隠れいてると、カチャリとドアが開かれる音が聞こえた。

「あら・・・窓が開いているわ。どうしてかしら?」

母の声だっ!

そしてキイイと窓の閉まる音が聞こえた。

「どうしましたか?マルグリット。」

あの声は・・・家庭教師だ!しかも母の名前を呼んでいる。やはり間違いない・・・この男は母の愛人だ!

「いえ、窓が開いていたのよ・・・大丈夫。今窓を閉めたから。ついでにカーテンも閉めましょう。」

再び母の声が聞こえ、シャッ!シャッ!とカーテンを閉める音が聞こえ・・・やがて艶っぽい母の声が聞こえてきた。

「トーマス・・・貴方と会えない1週間は・・・長すぎるわ・・。」

その声を聞いた私は背筋がゾッとした。未だかつて母のあのような声を聞いた事が無かったからだ。


「ああ・・・マルグリット、私もです・・・。」

母の名を呼ぶ家庭教師の声が聞こえてきた。
やがて・・・衣擦れの音と、ベッドが軋む音に男女の艶っぽい声が聞こえてきた。
私はそっとクローゼットを覗きこむと、母のベッドの上に掛けられた布団が盛り上がり、何やらもぞもぞと蠢いている。

「間違い無いわね・・・。」

私は息を吸い込むと、わざと勢いよくクローゼットを開け放った―。
 
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります 番外編<悪女の娘>

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
私の母は実母を陥れた悪女でした <モンタナ事件から18年後の世界の物語> 私の名前はアンジェリカ・レスタ― 18歳。判事の父と秘書を務める母ライザは何故か悪女と呼ばれている。その謎を探るために、時折どこかへ出かける母の秘密を探る為に、たどり着いた私は衝撃の事実を目の当たりにする事に―! ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

ヒロインに騙されて婚約者を手放しました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
地味で冴えない脇役はヒーローに恋しちゃだめですか? どこにでもいるような地味で冴えない私の唯一の長所は明るい性格。一方許嫁は学園一人気のある、ちょっぴり無口な彼でした。そんなある日、彼が学園一人気のあるヒロインに告白している姿を偶然目にしてしまい、捨てられるのが惨めだった私は先に彼に婚約破棄を申し出て、彼の前から去ることを決意しました。だけど、それはヒロインによる策略で・・・?明るさだけが取り柄の私と無口で不器用な彼との恋の行方はどうなるの?

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

処理中です...