虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
30 / 58

3-4 父の陰謀

しおりを挟む
 私は青ざめた顔で正面に座るジュリアン侯爵を見つめた。するとジュリアン侯爵は閉じた唇の前で人差し指を立て、静かにするようにジェスチャーをおくる。そこで私は黙って頷くと、観葉植物の隙間から父達の様子を伺った。

「おい!本当に・・お前達はいつまでこの私に付きまとうつもりなのだ?あれから12年になるんだぞ?もういい加減・・・解放してくれっ!頼むっ!」

私は信じられない思いで父の姿を見ていた。
あの傲慢知己の父が、いかにもチンピラ風なやさぐれた中年男性に頭を下げて懇願しているのだ。こんな父の姿を目にするのは初めてだ。

「おいおい・・・今更そんな事を言うのかい?もうすぐ自分の望みを叶えられるって言う時に・・・俺達を切るつもりなのかい?」

頬に傷のある男が言った。

「ああ・・・。そうだ。この事をお前の家族が知ったら・・・どう思う?貴族社会に知られたら・・・?お前はもう身の破滅だ。今迄の長年立ててきた計画も全て水の泡・・・だろう?」

長い髪を後ろで一つにまとめた男が言う。

「だ、だが・・・お前達は散々私に張り付き、今迄甘い汁を吸って来ただろう?こっちはそのせいで・・・どれだけお前達に搾り取られて来たと思う?もう・・我が家は破産寸前なのだ・・・っ!」

父は頭を両手で押さえた。
するとそこへ数名のウェイターが現れ、大量の料理が運びこまれてきた。
その為、話しは中断される。
そして再びウェイターが去ると頬に傷のある男が再び話始めた。

「嘘をつくんじゃない。俺達が何も知らないとでも思っているのかい?」

「な・・・何の事だ・・?」

父の声が怯えたように震えている。

「お前・・・もうすぐ自分の娘を売りつける気だろう?金貨3000枚でな。確か・・・相手はエンブロイ侯爵・・・だったか?」

「!な、何故・・・その事を・・・っ?!」

其の名前を聞いて私は戦慄を覚えた。

エンブロイ侯爵・・・。この地方では有名な侯爵だ。
莫大な資産を保有し、本妻を含め、7人の妾がいると言われている。年齢は60歳で、奴隷商人とも通じ、資産を増やし続けているらしい・・・。
ま、まさか・・・娘を売りつけようとしているとは・・でも、どちらの娘を父は売るつもりなのだ?
すると髪の長い男が言った。

「で?どちらの娘を売りつけるんだ?」

「馬鹿か、お前は。そんなのは聞くまでも無いだろう?なあ、伯爵様よ・・・。」

「ああ・・・当然だ・・。何の為にお前達に頼んだと思う・・?エンブロイ侯爵に渡す娘は実の娘に決まっている。全て手はずは整っている。来月にはエンブロイ侯爵が支度金を持って・・我が屋敷を訪れる事になっている。娘は・・・器量よしでは無いが、頭は良いからな・・・・きっとエンブロイ侯爵は気に入って下さると思う。その為に今迄あの娘を屋敷に置いてやったのだからな。」

「!!」

私は父のあまりの非道な言葉に戦慄を覚えた。何故、父が12年前から彼等に脅迫され続けてきたのかは知らないが・・・最初から私はエンブロイ侯爵の妾として
生かされつづけてきたのだろうか?私に満足な教育も、食事も、衣類も与えなかったのは・・・所詮妾に差しだす娘だから一切不要だと思っていたからなのだろうか・・?

あまりの衝撃な事実に私は眩暈がしてきた。するとその時、突然右手をギュッと握りしめられた。驚いて顔を上げるといつの間にかジュリアン侯爵が私の側に椅子を寄せていたのである。そして私に小声で囁いた。

「大丈夫です。私が貴女を助ましょう。」

と―。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります 番外編<悪女の娘>

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
私の母は実母を陥れた悪女でした <モンタナ事件から18年後の世界の物語> 私の名前はアンジェリカ・レスタ― 18歳。判事の父と秘書を務める母ライザは何故か悪女と呼ばれている。その謎を探るために、時折どこかへ出かける母の秘密を探る為に、たどり着いた私は衝撃の事実を目の当たりにする事に―! ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること

夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。 そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。  女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。  誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。  ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。  けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。  けれど、女神は告げた。  女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。  ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。  リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。  そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね

との
恋愛
レトビア公爵家に養子に出されることになった貧乏伯爵家のセアラ。 「セアラを人身御供にするって事? おじ様、とうとう頭がおかしくなったの?」 「超現実主義者のお父様には関係ないのよ」 悲壮感いっぱいで辿り着いた公爵家の酷さに手も足も出なくて悩んでいたセアラに声をかけてきた人はもっと壮大な悩みを抱えていました。 (それって、一個人の問題どころか⋯⋯) 「これからは淑女らしく」ってお兄様と約束してたセアラは無事役割を全うできるの!? 「お兄様、わたくし計画変更しますわ。兎に角長生きできるよう経験を活かして闘いあるのみです!」 呪いなんて言いつつ全然怖くない貧乏セアラの健闘?成り上がり? 頑張ります。 「問題は⋯⋯お兄様は意外なところでポンコツになるからそこが一番の心配ですの」 ーーーーーー タイトルちょっぴり変更しました(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ さらに⋯⋯長編に変更しました。ストックが溜まりすぎたので、少しスピードアップして公開する予定です。 ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 体調不良で公開ストップしておりましたが、完結まで予約致しました。ᕦ(ò_óˇ)ᕤ ご一読いただければ嬉しいです。 R15は念の為・・

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

処理中です...