32 / 58
3-6 ジュリアン侯爵と父
しおりを挟む
ジュリアン侯爵の馬車に乗せてもらい、邸宅に到着すると既に父が帰宅していたのか、真っ青な顔で駆けつけてきた。その時私はジュリアン侯爵にエスコートして貰って馬車を降りている最中だったのだが・・・・。
「ラ、ライザッ!嫁入り前の娘が男の馬車に乗って帰って来るとは・・・っ!!」
父はジュリアン侯爵に挨拶をする前に私を見て怒鳴りつけてきた。全く・・・侯爵を前にこのような非常式な態度を取れるのは父意外に恐らくいないだろう。
「これは大変失礼致しました。申し遅れましたが、私はお嬢様と懇意にさせて頂いておりますジュリアン・バーナードと申します。どうぞよろしくお願い致します。」
ジュリアン侯爵は父に深々と頭を下げた。
「フンッ!全くこの若造が・・・・ん・・・?」
父は言いかけ、ジュリアン侯爵をじっと見つめ、次に馬車に刻まれた紋章を見ると、見る見るうちに顔色を青ざめさせた。
「ま、まさか・・・貴方様はバーナード侯爵様・・・ですか・・?」
「ええ、そうです。良かった・・・・私の事を御存じだったのですね。始めまして。モンタナ伯爵。」
「わ・・私の事を御存じの様ですね・・・。」
父はひきつった笑みを浮かべながら言う。
「ええ・・・モンタナ伯爵のお噂は兼ねてより色々耳にしておりますので。」
凄い・・・あの父をジュリアン侯爵はやり込めている・・・。私は父が追い詰められている様を気分よく見ていた。
いい気味だわ・・・。もっと焦る顔を見せて頂戴よ・・。つい口元に笑みが浮かんだが、運悪くその顔を父に見られてしまった。
「ラ、ライザッ!お・・・お前・・今私を馬鹿にしたなっ?!口元に笑みなど浮かべおって・・・この生意気なっ!」
父が手を振り上げようとした瞬間―。
ガッ!!
ジュリアン侯爵が父の腕をねじり上げていたのだ。父は背の高いジュリアン侯爵にいとも簡単に腕をねじり上げられ、苦しそうに呻いた。
「いけませんねえ・・・女性に手を挙げるなど・・やはり貴方は噂通りのお方だ。」
「う、噂・・?い、一体どんな・・・噂があると・・言うんで・・す・・?」
父は苦し気にジュリアン侯爵を見つめた。
「ええ。貴方がたった一人しかいない自分の娘を日々虐待を続けてきたと言う噂ですよ。」
「!」
父はビクリとなった。しかし、私はその話を聞いて驚いた。まさか私に対する虐待の噂話が出ているなんて・・・。
「とにかく、これ以上この方に手を挙げようものなら・・容赦はしませんよ?」
「わ、分かりました・・・っ!だから・・う、腕を・・腕を離して下さいっ!」
余程ねじり上げられた腕が痛いのだろう。父の言葉の最後の方は殆ど悲鳴交じりになっていた。
「分ればよろしいのです。」
ジュリアン侯爵はニッコリ微笑むと父の腕を離した。
「う・・・。」
父は恨みを込めた目でチラリと私を見た。
「ところでモンタナ伯爵・・・私はライザ嬢と親しくしておりますので、又こちらに伺う事をお許し頂けますよね?」
「し、しかし・・娘はまだ嫁入り前ですし・・・妙な噂が二人の間で立てられては・・・。」
そしてさらに強い視線で私を見ると続けた。
「大体、ライザッ!お前のような娘がうかつに近づいてよい相手ではないのだぞっ?!この恥知らずめっ!」
父はジュリアン侯爵にたしなめられた直後にも関わらず私を叱責し、再び手を振り上げた。
「どうやら・・・貴方は中々言葉を理解する事が苦手なようですね?貴方は信頼に置けないお方だ。この屋敷に彼女を置いて行くのは心配でなりません。私の屋敷で丁重にお預かり致します。」
すると父の態度が豹変した。先程までは私に対して傲慢な態度を取っていたのに、今は必死でジュリアン侯爵に頭を下げている。
「申し訳ございませんっ!本当に、金輪際二度と娘に手を挙げませんっ!ですからどうか娘を連れて行く事だけは勘弁してくださいっ!」
半分悲鳴交じりで言う。
父は・・・余程私を傷物が無い状態でエンブロイ侯爵に引き渡したいのだろう・・。
「分りました。では貴方を信じてライザ嬢をこちらに残しましょう。」
そしてジュリアン侯爵は私を見ると言った。
「それではライザ、またお会いしましょう。」
「は、はい・・。」
ジュリアン侯爵はフッと笑みを浮かべると馬車に似りこみ、走り去って行った―。
「ラ、ライザッ!嫁入り前の娘が男の馬車に乗って帰って来るとは・・・っ!!」
父はジュリアン侯爵に挨拶をする前に私を見て怒鳴りつけてきた。全く・・・侯爵を前にこのような非常式な態度を取れるのは父意外に恐らくいないだろう。
「これは大変失礼致しました。申し遅れましたが、私はお嬢様と懇意にさせて頂いておりますジュリアン・バーナードと申します。どうぞよろしくお願い致します。」
ジュリアン侯爵は父に深々と頭を下げた。
「フンッ!全くこの若造が・・・・ん・・・?」
父は言いかけ、ジュリアン侯爵をじっと見つめ、次に馬車に刻まれた紋章を見ると、見る見るうちに顔色を青ざめさせた。
「ま、まさか・・・貴方様はバーナード侯爵様・・・ですか・・?」
「ええ、そうです。良かった・・・・私の事を御存じだったのですね。始めまして。モンタナ伯爵。」
「わ・・私の事を御存じの様ですね・・・。」
父はひきつった笑みを浮かべながら言う。
「ええ・・・モンタナ伯爵のお噂は兼ねてより色々耳にしておりますので。」
凄い・・・あの父をジュリアン侯爵はやり込めている・・・。私は父が追い詰められている様を気分よく見ていた。
いい気味だわ・・・。もっと焦る顔を見せて頂戴よ・・。つい口元に笑みが浮かんだが、運悪くその顔を父に見られてしまった。
「ラ、ライザッ!お・・・お前・・今私を馬鹿にしたなっ?!口元に笑みなど浮かべおって・・・この生意気なっ!」
父が手を振り上げようとした瞬間―。
ガッ!!
ジュリアン侯爵が父の腕をねじり上げていたのだ。父は背の高いジュリアン侯爵にいとも簡単に腕をねじり上げられ、苦しそうに呻いた。
「いけませんねえ・・・女性に手を挙げるなど・・やはり貴方は噂通りのお方だ。」
「う、噂・・?い、一体どんな・・・噂があると・・言うんで・・す・・?」
父は苦し気にジュリアン侯爵を見つめた。
「ええ。貴方がたった一人しかいない自分の娘を日々虐待を続けてきたと言う噂ですよ。」
「!」
父はビクリとなった。しかし、私はその話を聞いて驚いた。まさか私に対する虐待の噂話が出ているなんて・・・。
「とにかく、これ以上この方に手を挙げようものなら・・容赦はしませんよ?」
「わ、分かりました・・・っ!だから・・う、腕を・・腕を離して下さいっ!」
余程ねじり上げられた腕が痛いのだろう。父の言葉の最後の方は殆ど悲鳴交じりになっていた。
「分ればよろしいのです。」
ジュリアン侯爵はニッコリ微笑むと父の腕を離した。
「う・・・。」
父は恨みを込めた目でチラリと私を見た。
「ところでモンタナ伯爵・・・私はライザ嬢と親しくしておりますので、又こちらに伺う事をお許し頂けますよね?」
「し、しかし・・娘はまだ嫁入り前ですし・・・妙な噂が二人の間で立てられては・・・。」
そしてさらに強い視線で私を見ると続けた。
「大体、ライザッ!お前のような娘がうかつに近づいてよい相手ではないのだぞっ?!この恥知らずめっ!」
父はジュリアン侯爵にたしなめられた直後にも関わらず私を叱責し、再び手を振り上げた。
「どうやら・・・貴方は中々言葉を理解する事が苦手なようですね?貴方は信頼に置けないお方だ。この屋敷に彼女を置いて行くのは心配でなりません。私の屋敷で丁重にお預かり致します。」
すると父の態度が豹変した。先程までは私に対して傲慢な態度を取っていたのに、今は必死でジュリアン侯爵に頭を下げている。
「申し訳ございませんっ!本当に、金輪際二度と娘に手を挙げませんっ!ですからどうか娘を連れて行く事だけは勘弁してくださいっ!」
半分悲鳴交じりで言う。
父は・・・余程私を傷物が無い状態でエンブロイ侯爵に引き渡したいのだろう・・。
「分りました。では貴方を信じてライザ嬢をこちらに残しましょう。」
そしてジュリアン侯爵は私を見ると言った。
「それではライザ、またお会いしましょう。」
「は、はい・・。」
ジュリアン侯爵はフッと笑みを浮かべると馬車に似りこみ、走り去って行った―。
92
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります 番外編<悪女の娘>
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
私の母は実母を陥れた悪女でした
<モンタナ事件から18年後の世界の物語>
私の名前はアンジェリカ・レスタ― 18歳。判事の父と秘書を務める母ライザは何故か悪女と呼ばれている。その謎を探るために、時折どこかへ出かける母の秘密を探る為に、たどり着いた私は衝撃の事実を目の当たりにする事に―!
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。
そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。
女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。
誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。
ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。
けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。
けれど、女神は告げた。
女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。
ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。
リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。
そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね
との
恋愛
レトビア公爵家に養子に出されることになった貧乏伯爵家のセアラ。
「セアラを人身御供にするって事? おじ様、とうとう頭がおかしくなったの?」
「超現実主義者のお父様には関係ないのよ」
悲壮感いっぱいで辿り着いた公爵家の酷さに手も足も出なくて悩んでいたセアラに声をかけてきた人はもっと壮大な悩みを抱えていました。
(それって、一個人の問題どころか⋯⋯)
「これからは淑女らしく」ってお兄様と約束してたセアラは無事役割を全うできるの!?
「お兄様、わたくし計画変更しますわ。兎に角長生きできるよう経験を活かして闘いあるのみです!」
呪いなんて言いつつ全然怖くない貧乏セアラの健闘?成り上がり?
頑張ります。
「問題は⋯⋯お兄様は意外なところでポンコツになるからそこが一番の心配ですの」
ーーーーーー
タイトルちょっぴり変更しました(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
さらに⋯⋯長編に変更しました。ストックが溜まりすぎたので、少しスピードアップして公開する予定です。
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
体調不良で公開ストップしておりましたが、完結まで予約致しました。ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
ご一読いただければ嬉しいです。
R15は念の為・・
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる