婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
92 / 221

第92話 悪役令息、不思議に思う

しおりを挟む
 思わず、ショーウィンドウから見えるクリスマス・ツリーに釘付けになっているとエディットが声を掛けてきた。

心臓の鼓動が早まる。
そんな…何故、この世界にクリスマス・ツリーが……?

「アドルフ様、どうされたのですか?」

怪訝そうな顔で僕を見つめるエディット。

「う、うん。あの木が綺麗に飾り付けられていたから、ちょっと見ただけだよ」

「まぁ、確かにとても綺麗ですね。」

「もし、よければ……中に入ってみる?」

僕の中で、この店に対する好奇心が大きくなっていく。

「そうですね。色々な雑貨を扱っているみたいですし……でも宜しいのですか?」

「何が?」

「いえ。このお店……どう見ても女性好みの店に見えるので、男の人には入りにくいのでは無いかと思って……」

「エディット……」

最近、気付いたことがある。
どうもこの世界の女性たちは男性に気を使っている風潮が見られる。

「そんなに気を使うことはないよ?一緒に中に入ろう?実は僕も中に入ってみたいと思っていたんだ」

そして繋いでいた手に、少しだけ力を込める。

「本当…ですか?」

「うん、本当だよ。それじゃ、入ろう」

そしてエディットを連れて、店へ向かった……。



カランカラン

ドアに取り付けられたドアベルが店内に鳴り響く。


「うわぁ……」
「まぁ……」

店に入った僕達は、感嘆の声をあげた。

店内は壁も床も天井も全て木材で、温かな木の温もりを感じさせるものだった。
天井からは、それこそ前世で見たことのあるクリスマスの色とりどりのオーナメントが吊り下げられている。

店には僕達以外に客の姿は無かった。

「綺麗……」

エディットは目をキラキラさせて、美しい装飾品に夢中になっている。

「アドルフ様。少し見て回ってもいいですか?」

僕を振り向き、声を掛けてきた。
ひょっとすると、1人でじっくり見て回りたいのかもしれない。

「うん。いいよ。僕も色々見ているから」

「ありがとうございます」

エディットは嬉しそうに店内の奥にあるアクセサリー売り場へと向かっていく。

「エディット、楽しそうだな……。よし、それじゃ僕も……」

そして僕も店内を見て回ることにした―。


**


 凄い。本当にまるでクリスマス用のアイテムみたいだ。

木製の棚には布製の雑貨小物や卓上ツリーが置かれ、極めつけは………。

「サ、サンタクロース……」

棚にはソリに乗った木彫りのサンタの置物があった。
そんな馬鹿な……。
ひょっとすると、この世界では本当は皆口に出さないだけで転生者が大勢いるのだろうか……?


その時――。

「いらっしゃいませ」

僕のすぐ背後で女性の声が聞こえた。

「うわあああっ?!」

驚きのあまり、大きな声をあげる。

慌てて振り向くと、そこには20代~30代と思しき女性が立っていた。

「どうですか?お客様。随分熱心に商品を見ていましたが…この店、気に入って頂けましたか?」

意味深に女性は笑う。

「え?ええ。そ、そうですね……」


その時――。

「アドルフ様?!どうされたのですか?!」

僕の大きな声を聞きつけて、エディトが駆けつけてきた。

「エディット……」

「急に大きな声が聞こえたので驚きました。何かあったのですか?」

「お客様、大変申し訳ございません。私がいきなり背後で声を掛けてしまったものですから、驚かせてしまったようですね」

すると女性店員が申し訳無さげに頭を下げてきた。

「まぁ、そうだったのですか?」

エディットが僕を見る。

「い、いえ…大丈夫ですから、気になさらないで下さい」

ハハハと笑うと、女性店員が更に僕達に声を掛けてきた。

「お詫びと言っては何ですが、何かお気に召した商品があれば格安で販売致しますので、お声掛け下さい。それでは失礼致します」

女性店員は頭を下げると、店の奥のカウンターに戻って行った。

何だ…営業だったのか……。
だけど……。

「エディット、何か気に入った品はない?」

エディットを振り向くと尋ねてみた。

「え?気に入った品…ですか?」

僕の言葉に少しだけ、躊躇うエディット。

「その様子だと、あったんだね?どれかな?」

「はい、でも……」

「行ってみよう?案内してよ」

手を繋ぐと、途端に真っ赤になってエディットが僕を見上げてくる。

「はい…。アドルフ様」

エディットはコクリと小さく頷いた――。



**


「ありがとうございました~」


女性店員さんの声を聞きながら、僕達は店を後にした。
空はいつの間にか少しずつオレンジ色に染まっている。


「エディット、そのネックレス……すごく良く似合っているよ?」

エディットの首から下げたネックレスを見ながら声を掛けた。
星の形をしたネックレスは時折、夕日を反射してキラリと光っている。

「本当ですか?ありがとうございます」

嬉しそうに返事をするエディット。

良かった、喜んでくれて。
原作のアドルフはエディットから色々プレゼントを貰っていたくせに、どれも喜ぶどころか文句ばかり言っていた。
挙げ句にプレゼントの1つも上げたことが無い、最低な男だった。

過去の過ちは消せないけども、今の僕は以前のアドルフとは違うのだから。


「素敵なお店でしたね」

エディットが楽しげに話している。

「うん、そうだね……」

そして僕は女性店員から貰ったポケットの中のメモ紙を握りしめた。

そのメモ紙にはこう、書かれていた。


『私に聞きたいことがあるなら、いつでもお店にいらして下さい』


と――。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜

四葉美名
恋愛
「危険です! 突然現れたそんな女など処刑して下さい!」 ある日突然、そんな怒号が飛び交う異世界に迷い込んでしまった橘莉子(たちばなりこ)。 竜王が統べるその世界では「迷い人」という、国に恩恵を与える異世界人がいたというが、莉子には全くそんな能力はなく平凡そのもの。 そのうえ莉子が現れたのは、竜王が初めて開いた「婚約者候補」を集めた夜会。しかも口に怪我をした治療として竜王にキスをされてしまい、一気に莉子は竜人女性の目の敵にされてしまう。 それでもひっそりと真面目に生きていこうと気を取り直すが、今度は竜王の子供を産む「運命の花嫁」に選ばれていた。 その「運命の花嫁」とはお腹に「竜王の子供の魂が宿る」というもので、なんと朝起きたらお腹から勝手に子供が話しかけてきた! 『ママ! 早く僕を産んでよ!』 「私に竜王様のお妃様は無理だよ!」 お腹に入ってしまった子供の魂は私をせっつくけど、「運命の花嫁」だとバレないように必死に隠さなきゃ命がない! それでも少しずつ「お腹にいる未来の息子」にほだされ、竜王とも心を通わせていくのだが、次々と嫌がらせや命の危険が襲ってきて――! これはちょっと不遇な育ちの平凡ヒロインが、知らなかった能力を開花させ竜王様に溺愛されるお話。 設定はゆるゆるです。他サイトでも重複投稿しています。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

処理中です...