婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい〜another story

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
21 / 27

3 ブラッドリー・モーガン 8

しおりを挟む
「た、大変です!! ア、アドルフが……階段から落ちて意識がありません‼」

 駆けつけた俺の言葉に、ヴァレンシュタイン伯爵やロワイエ伯爵が驚いたのは言うまでもない。ましてやエディットは顔面蒼白になっている。

 すぐに案内を頼まれ、俺は三人を連れてアドルフが倒れている外階段へ向かった。

 まさか……あいつ、死んだりしていないよな? でも、もし……打ちどころが悪くて死んでしまったらどうしよう?  
 
 本当はその場を逃げ出したかったくらいだが、俺がここで逃げればアドルフを階段から突き落とした犯人だと思われてしまうかもしれない。
 
 俺はアドルフの無事を祈りながら、現場へ向かった――



****


 その後は大騒ぎになった。

 大人たちは真っ青な顔で意識のないアドルフの名を呼び続けているし、エディットはぼろぼろ泣いている。
 結局アドルフは担架に乗せられて学院の医務室へ連れて行かれた。診察の結果、階段から落ちたものの、幸い頭に大きな怪我はしていなかったらしい。

 全く、何て奴だ。無駄に人を心配させやがって。意識の無いアドルフはそのまま自宅へ連れて帰ることになった。
 そこで俺はアドルフが心配なので、ついていきたいとヴァレンシュタイン伯爵に訴え、一緒に屋敷へとやってきた。



 皆がアドルフのベッドを囲み、心配そうに様子を見ている。そしてエディットはずっと泣き通しだった。

 後ろめたいところがあった俺は部屋の中には入れず、扉の前で様子を伺っていることしか出来なかった。

 部屋の中にはエディットの悲しげなすすり泣く声が聞こえている。

 エディット……万一、俺がアドルフと同じような目にあったとしても、そんな風に泣いて悲しんでくれることは無いだろうな……。

 そんなことを考えていると、不意にアドルフが目を開けた。周りにいたアドルフの家族やエディットが心配そうに声を掛けた時、あいつは驚くべき態度を取ったのだ。

「何だよ、揃いも揃ってうるさい奴等だな……。俺は頭が痛いんだよ! さっさと出てけ! 1人にさせろよ!」

 なんと、あのアドルフが乱暴な口調で暴言を吐いたのだ。当然、皆驚きの目で見つめる。
 その時、偶然アドルフと俺の目が合った。その目はまるで何かを訴えているように感じた。

 まさか……アドルフ。お前……?

 そしてヴァレンシュタイン伯爵は俺がアドルフが倒れているのを発見して報せにきたということを告げた。

 するとアドルフがニヤリと笑って俺を見た。

「へ~。ブラッドリー、お前が俺を助けてくれたのか?ありがとうよ」

「あ、い、いや。そんなの当然だろう?お前は俺の親友なんだからな」

 どうしてもアドルフと視線を合わせることが出来なくて、視線をそらせながら返事をした。

 だが、今のアドルフの言葉で、俺は思った。

 もしかして、アドルフは演技をしているのだろうか……と?なら、その演技は俺の為に決まっている。

 本当にあいつは馬鹿がつくほどお人好しだ。いいだろう、お前がその気なら俺はその演技に乗ってやるよ。

 だけど……いずれ後悔することになってもしらないからな――?
 

 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

処理中です...