目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第4章 4 敵、襲来?

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私がこの島に連れてこられてから、早1週間が経過しようとしている。
ウィルは一向に脅迫状とやらを出す気配は無く、最近は毎日彼に勉強を教えるのが日課となっていた。

「なあなあ、ジェシカ。ここの計算はどうやって解けばいいんだ?」

机の上に私が出した問題に取り組んでいたウィルが顔を上げて質問してくる。
「ああ、これね。ほら、この問題はこの公式をあてはめればいいのよ。」
私はスラスラと公式をノートの隅に書くと、ウィルは納得したかのように頷く。

「あ、そうか!こうやって考えれば良かったのか!」

嬉しそうに私を見るとウィルは再びノートに向かう。フフ、可愛いな。
私は一人っ子だったけれども、きっと弟がいたらこんな感じだったのかもしれない。
それにしてもウィルはやっぱり学校へ行きたいのではないだろうか?こんなに勉強が好きなのに学校へ行けないという状況に置かれている彼が気の毒でならない。

「・・・どうしたんだ?ジェシカ。考え事してるのか?」

見ると、ウィルが心配そうに私を見上げていた。
「うううん、何でもない。大丈夫よ。それよりも・・・ねえ、ウィル。脅迫状の件はどうなったの?リッジウェイ家とゴールドリック家に脅迫状を出すのでは無かったの?」
すると私の質問に何故か顔を伏せるウィル。

「ジェシカ・・・。家に・・帰りたい・・のか・・?」

ウィルが俯きながら言う。

「え?」
突然何を言い出すのだろう。
「だって、お金を要求する為に私を誘拐したのでしょう?きっと・・・脅迫状を出せば少なくとも、リッジウェイ家はお金を払うと思うわ。私がウェル達に危害を加えないように何とか説得するから・・・。」
そう、マリウスさえ納得させればきっと何とかなるはず・・。

「なあ、ジェシカ。もう・・脅迫状なんて・・・いいよ。だから、せめて学院の冬の休暇が終わるまでは・・・この島にいてくれよ?それで・・・俺にもっと勉強を教えて欲しいんだ。」

ウィルは縋るように私の両腕を掴むと言った。

「ウ、ウィル・・・?」
いきなりのウィルの台詞に衝撃を受けた。まさかウィルがそんな事を考えていたなんて夢にも思わなかった。

「ウィル・・・。」
ウィルの私の腕を握る手は震えていた。まだあどけなさを残すウィルの顔は真剣身を帯び、どこか私に乞うようにも見える。

「ウィル、勉強がしたいならやはり学校へ行くべきよ。そうだ、私が何とか手配して学校へ通えるようにしてあげるから。」
すると、何故か酷く傷ついた顔を見せるウィル。

「ジェシカ・・・本気でそんな事言ってるのか?俺が勉強の為だけにこの島へ残ってくれって頼んでると思ってるのか?それで脅迫状を出さないとでも?」

「え?違うの?」
首を傾げると。ウィルは思い詰めた顔をして、乱暴に私の身体から腕を放して立ち上がった。

「・・・もう今日の勉強は終わりにする。」

言うと、ウィルは部屋を出て行ってしまった。後には私1人が取り残される。
「ウィル・・・一体どうしちゃったの・・・?」


 夜になり、続々と船員たちがセント・レイズシティの仕事から船に乗って島へと帰って来た。
私はジェイソンの手前、出迎えをせずに部屋の窓から彼等がぞろぞろと屋敷の中へと入って行く姿を見つめていた。
その姿を見て思う。彼等はいつまでも人質?としてこの島に滞在している私をどう思っているのだろう。少なくとも、貴族だからという理由で私はジェイソンからは嫌われている。でも他に彼同様私に良い感情を持たない人達も大勢いるに違いない。
 その為にもウィルにはさっさと脅迫状を書いてもらい、マリウスにお金を持って来てもらい、故郷へ帰るべきなのに・・何故かウィルはそれを良しとは思っていない様だ。
でも、今のままの状態が続けば・・・いずれマリウスがこの場所を探し当て、私を連れ戻す為に手段を択ばない行動に出るだろう。そうなったらもうお終いだ。
一刻も早くウィルを説得しなければ・・・。

 何度目かのため息をついた時、ドアをノックする音が聞こえた。

「俺だ、ジェシカ。夕飯を持って来たぞ。」

レオの声だ。
あの日以来、私達は彼等と一緒の食事をやめて部屋で食事を取るようにしていた。
そんな私に何故かレオは朝と夕食は私に付き合い、こうして2人で食事を取っている。
急いでドアに向かい、開けるとレオがカートに2人分の食事を乗せて現れた。
「お帰りなさい、レオ。いつも食事を持って来てくれてありがとう。」

「なーに、気にするなって。」

レオは笑いながらカートを押して部屋の中へと入って来た。


「「いただきまーす。」」

 2人で手を合わせ、食事を始める。うん、今日の夕食もすごく美味しい。やはり島と言うだけあって、海の幸が豊富だ。シーフード料理の美味しい事。
今夜のレオも饒舌に話す。
セント・レイズシティで起こった出来事を面白おかしく話してくれるので、いつの間にか彼との2人の食事時間を楽しみにしているようになっていた。けれど・・・。

「うん?どうしたんだ?ジェシカ。何だか元気が無いな?」

急に黙ってしまった私をレオは気づかわし気に声をかけてきた。

「レオ・・・。実は・・・。」
私は今日ウィルとの間で交わした会話の内容を話した。じっと最後まで私の話を聞いていたレオはやがて言った。

「それで・・・ジェシカは・・やっぱりこの島を早く出たいのか?」

「え?」
私は顔を上げた。レオまで何を言い出すのだろう。

「だ、だって・・・おかしいじゃ無い。本来は人質として連れてこられたのに、脅迫状はもう出さない、冬休みが終わるまでこの島で暮らすなんて・・・。
それに私がここにいるのを面白く感じない人達がいるのだって確かだし・・。レオにもこれ以上迷惑かけたくないし・・・。」

「誰が迷惑だって?」

レオがどこか苛立ちを込めた声で言った。

「え?俺がいつジェシカの事を迷惑だって言った?それに・・ジェシカがここにいるのを良く思わない人間はな、正直に言うとジェイソン以外はいないぞ?みんなボスに勉強を教えてくれるジェシカに感謝してるんだからな?」

確かに私はジェイソン以外から迷惑がられる態度を取られた事は無い。でも・・・。

「レオ。明日からは私、1人で食事を取るので貴方は皆と一緒に食事をするようにして。」

「え?急に何を言い出すんだ?」

レオは持っていたスプーンをカチャンと皿の上に置いた。

「私と毎回食事していたら、ジェイソンさんにますます反感を買ってしまうでしょう?だから・・。食事も自分で取りに行くので大丈夫だし。ウィルの事は説得して、脅迫状はせめてリッジウェイ家だけにして、速やかに出すように言うから。」
だって、そうしないと・・・今に痺れを切らしたマリウスがどんな手を使ってでも、この場所を探し出して、乗り込んでくるに違いない。

「俺も・・・反対だ・・・。ボスの言う通り、もっとこの島にいればいいじゃないか。学校が始まったって・・・週末はこの島で過ごせば・・ボスの勉強だってみてやれるだろう?」

レオが言葉を切りながら言う。
「レオ?貴方まで一体何を言い出すの?」
まさか、本気で言ってるのだろうか?とても正気とは思えない。

レオは何処か悲しそうに顔を上に上げると言った。
「ジェシカ・・俺は・・・。お前の事が・・・。」

その時だ。

ドオオオオオオンッ!!
島全体が大きく揺れた。

「キャアッ!!」
あまりの大きな揺れに思わず私は転びそうになり、すんでの所でレオに抱き留められた。

「大丈夫か?!ジェシカッ!」
レオが心配そうに私を見る。

「う、うん。何とか・・・。」

「くそっ!一体何があったんだ?地震か?!」

その時、誰かが屋敷の中で慌てて叫ぶ声が聞こえた。

「た、大変だっ!敵が襲って来たっ!!」

え?敵・・・・?


「お嬢様ーッ!!ジェシカお嬢様ッ!!どちらにいらっしゃるのですかーッ?!」

「ジェシカッ!どこだ?!いたら返事をしてくれっ!!」

外で聞き覚えのある声が響き渡った。

あの2人の声は―!
私は全身の血が引いて行く気がした・・・・。
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