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第11章 1 予知夢を回避する為に、応じる私

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1

翌朝―
朝食を取りにホールへ行くと懐かしい友人達の姿があった。

「ジェシカさん!」

エマが私を見つけて嬉しそうに駆け寄って来た。

「良かった、昨日お部屋を訪ねたのですがジェシカさん、留守だったので心配してたんですよ。ほら、皆待ってますよ。向こうの席へ行きましょう。」

エマが指さしたテーブルの先にはクロエ、リリス、シャーロットが手を振っている。

私がエマに連れられて彼女達のテーブルへ行くと、皆が嬉しそうに抱き付いて来た。
彼女達と1カ月ぶりの再会を喜び、私達は朝食の席でお喋りに花を咲かせた。

「そう言えば、ジェシカさん。昨日マリウスさんを見かけたのですが見知らぬ女性と一緒に校内を歩いていましたよ。あの方はどなたでしょう?」

クロエが早速尋ねて来た。あ・・・やっぱりそこ、気になるよね。

「はい、実はマリウスと一緒に帰省したんですけど、それから少ししてマリウスは自分の父親と一緒に領地へ行ってしまったんですよ。」

「え?それでどうなったんですか?」

シャーロットが興味深げに先を促す。

「それで父に尋ねた所、領地の滞在期間が思った以上に長くなると言う事で、私はマリウスとは一緒に学院に戻って来なかったんです。」

「あ、そう言えばジェシカさん。噂で聞いたんですけど、昨日見知らぬ男性と一緒に学院にいたそうですね?その話はどうなんですか?」

リリスが話の横道からそれた話をし出したので、エマがそれを咎めた。

「まあまあ、落ち着いて下さい。リリスさん。そこは後回しにして今は順番にお話をジェシカさんから伺いましょう?」

あ・・・その話もしなければならないのね・・・。私は思わず苦笑してしまったが、気を取り直して話を続ける。

「それで、昨日学院に到着した時にマリウスがあの女性を連れて現れたんです。そうしたら驚きですよ、何と彼女はマリウスの婚約者だったんですから。」

「「「「ええ~っ!!」」」」

彼女達は一斉に綺麗にはもった。

「ほ、本当ですか?その話は!」

シャーロットが鼻息を荒くして言う。

「え、ええ。本当です。」
思わず勢いに押されてたじろいながら返事をした。

「よくマリウスさん、納得しましたね!ジェシカさん一筋って感じだったのに・・。」

クロエが言う。

「そう・・実はそこなんですけど・・。マリウスは婚約者・・・ドリスさんとおっしゃるんですけど、絶対自分は認めていないって彼女の前ではっきり言うんですよ。お陰で彼女は半分泣いてしまって・・・。」

「な・・・何ですって?!マリウスさん・・・最低のクズ男ですね!」

声を震わせてリリスが言った。クズ男・・・うん、私も絶対にそう思う!
その場に居た全員が頷く。

「本当にマリウスさんは顔だけは良いけれども人間的にはどうかなと思います。時々人の血が流れてるのか感じる時があるんですよ。」

サラリと真顔でエマは恐ろしい事を言ってのけた。おおっ!こ、これは中々手厳しい・・・。

「でも、そのドリスさん・・・でしたっけ?彼女がマリウスさんを気に入っていられるのでしたら、どんなに虐げられても嬉しいのかもしれませんね。」

何故か嬉しそうに言うシャーロット。ハハハ・・それを聞いて私は鳥肌が立ってしまった。

「それで、今度はジェシカさんの話ですよ?!」

リリスがグイッと距離を詰めて来た。

「あの一緒にいた男性はどなたなんですか?」

「あ、あの・・・。彼はドミニク・テレステオ公爵というお方で・・実は帰省した時の私のお見合い相手の男性だったんです・・。」


「「「「「・・!!」」」」

今度は全員が言葉も無くして驚いた―。

 その後は食事も後回し状態で質問の嵐だった。ようやく皆へ一通りの説明が済んだ時にはホールの中は私達を除いてもぬけの殻で、始業式ギリギリセーフの状態であった。

 
「・・・おはようございます、お嬢様・・・。」

エマと教室へ向かうと、何故か恨みがましそうな目で入り口でマリウスに迎えられた。

「キャアアッ!な、何よ!マリウス!お、驚かせないで!」

私は慌ててエマの後ろに隠れると、エマが厳しい目つきでマリウスに言った。

「ちょっと、マリウスさん。もういい加減ジェシカさんに付きまとうのはおやめになったらどうですか?見てください、こんなに怯えているではありませんか。それにマリウスさんには婚約者が出来たんですよね?どうぞこれからはその方と一緒に行動してあげて下さい。それが婚約者としてのマリウスさんの務めだと思いますよ?!」

おおっ!エマ!よくぞ言ってくれた!
思わず拍手をおくりたくなってしまう。

「し、しかし私はジェシカお嬢様の・・・。」

そこまで言いかけた時、アラン王子が突然割り込んできた。

「おはよう、ジェシカ。昨日は殆どお前と話をする事が出来なかったな。なので昼休みは俺と2人で食事に行こう。」

「いいえ!何を勝手な事を言っているのですか?ジェシカお嬢様は私と一緒にお昼を頂くのです!」

「ちょっと、マリウスさんにアラン王子!2人ともいい加減にして下さい!」

3人は私を置き去りに、言い合いが始まってしまった。
う~ん・・どうしよう。そこへグレイとルークがやってきて私に声をかけてきた。

「「おはよう、ジェシカ。」」

うん、今朝も綺麗にハモる2人。
「おはよう、グレイ、ルーク。2人ともアラン王子を止めに来たの?」

「ああ、全く・・・最近は益々アラン王子の品位が下がってきていると国中に言われて大変なんだよ。」

グレイは溜息をつきながら言った。

「その通りだ。何しろこの冬期休暇の間はずっとジェシカ・・お前に付きまとっていたのだろう?アラン王子から何か変な事を言われなかったか?」

ルークはまだ言い争いをしているアラン王子を見ながら言った。

「う、うん・・・。そ、それが実は・・結婚を・・・申し込まれて・・。」

口籠りながら言うと2人は目を見開いた。

「はあああっ?!そ、それは本当の話なのか?ジェシカ!」

グレイは私に詰め寄って来た。

「そ、それで・・・その話、お前は受けたのか?」

必死の形相で尋ねて来るルーク。

「まさか!そんな話受けるわけないでしょう?!第一私は・・・。」

そこまで言いかけた時、本鈴が教室に鳴り響き・・・一旦騒ぎは収まった。

 
 そ、それにしても・・何故またマリウスが私の隣の席に座っている訳?!おまけに恨めしそうな視線でずーっとこちらを見ているから、もう視線が怖くて怖くて堪らない。ああ・・・逃げたい・・・。

 その時、ガラリと教室のドアが開けられてホームルームを担当する男性教師が公爵を連れて現れたのだ。
途端にざわつく教室。そうだった、確か公爵はこのクラスに編入する事が決まっていただっけ・・・。

「皆、静かに。今学期から新しい学生が編入する事になったので、今彼から自己紹介をしてもらう。」

教師に促されると公爵は頷き、一歩前に進み出ると良く通る声で言った。

「ドミニク・テレステオと申します。どうぞよろしくお願いします。」

そして深々と頭を下げた。それを見届けた教師は言った。

「あ~席は・・・そうだな。ジェシカ・リッジウェイ。その隣に座って貰おう。マリウス・グラントは一番前のアラン・ゴールドリックの隣が空いているのでそこへ移動するように。」

「ええっ!」

マリウスは情けない声を上げるも、ここは教師の命令。
仕方なく荷物を片付けて、一番前のアラン王子の隣に移動すると途端に火花を散らす2人。あ~あ・・今からあんな状態でこの先あの2人は大丈夫なのだろうか?

 一方、公爵は黙って私のいる席へ歩いてくると、そこへ座った。

「これからよろしく。ジェシカ。」

そして私に笑顔を向けた・・・。




2

 昼休みに入ってすぐ、アラン王子とマリウスが私の元へ駆け足でやってきた。

「ジェシカ、一緒に食事に行こうっ!」

「いえ、お嬢様は私と食事に行くのです。」

火花を散らす2人。
あ~あ・・・勘弁して欲しい。私はチラリと隣に座る公爵を見ると言った。
「アラン王子、申し訳ございませんが私本日はドミニク様と約束しているのです。」

「え?」

公爵が小声で意外そうな声を出した。次に私はマリウスに言った。

「マリウスは私に構わないで婚約者のドリスさんの所へ行ってあげて。いくら主と言っても、婚約者が他の女性の傍にいられるのは相手の女性からしてみれば嫌だと思うに決まっているでしょう?」

「!お嬢様、ですから彼女は婚約者では・・・!」

必死になって私に訴えるマリウス。

「そうだ!何故ジェシカは俺より公爵を優先するんだ?!」

するとそこへエマが現れた。

「いい加減にして下さい!アラン王子、マリウスさん!ジェシカさんはドミニク様と食事に行くと言われたのですよ?未練がましい真似はみっともないと思いませんか?」

「「・・・・。」」

途端に黙り込むアラン王子とマリウス。そこへ追い打ちをかけるようにエマは言った。

「それに第一、ドミニク様とジェシカさんは婚約を交わした仲なのですよ?!」

「エ、エマさんっ?!」
ああっ!肝心な事を言い忘れていた!エマ達には婚約したフリをした後、白紙に戻した話をしていなかったのだ!

「「な、何だって?!」」

エマの台詞に驚いたのはグレイにルーク。いつの間に近くにいたのだろうか・・・。

「ジェシカ!また婚約を結び直したのか!」

「嘘ですよね?!お嬢様!」

アラン王子は鬼気迫る様子で私に迫るし、マリウスに至っては今にも泣きそうな顔になている。

 一方の公爵は頬を赤らめて私を見つめている。

「さあ、ジェシカさん。誰にも遠慮せずにドミニク様と食事に行ってきて下さい。」

笑顔で言うエマ。
言えない・・・とてもこの場でエマには本当の事を・・・。
仕方なく、私は言った。

「それでは行ってきます・・・。行きましょうか?ドミニク様。」

「あ、ああ・・・。」

 こうして私達は皆に見送られ?教室を後にした・・・。
校舎の外に出て、学生食堂に向って歩きながら私は言った。

「すみません、ドミニク様・・・。」

「何がだ?」

不思議そうに私を見る公爵。
「あの、昨日の事も含めて諸々です・・・。」

「昨日の事?あ、ああ。ジェシカが先に帰った事についてか?」

「はい、私・・・ドミニク様とソフィーさんの仲を邪魔してはいけないと思い・・・。」

そこまで言いかけると、急に前を歩いていた公爵が足を止めた。
「ドミニク様・・・?」
すると公爵は突然私の腕を掴むと、無言で歩き始めた。
「ド、ドミニク様。どちらへ・・・・?」

それでも公爵は、足を止めずに歩き続ける。声をかけづらい雰囲気だったので私はただ黙って手を引かれて付いて行くしか無かった

 暫く公爵は無言で歩いていたが、やがて足を止めた。着いた先は今は使われていない校舎の中庭だった。
あれ・・・?この場所は何処かで見覚えがあるような・・?
そんな事を考えていると突然公爵は振り返って私を見た。その顔は何故か悲しみをたたえている。

「ど、どうしたのですか?ドミニク様?」
慌てて声をかけた。一体急にどうしたのだろう?私は何か彼を傷つけるような事を言ってしまったのだろうか?

「何故だ・・・?」

苦し気に語りだす公爵。

「え?」

「何故だ?何故ジェシカは俺と・・・昨日出会ったばかりの女生徒の仲を邪魔してはいけないと感じたのだ?」

「あ、あの・・・それは・・・。」
駄目だ。公爵には夢で見た世界の話をしては・・・。私の中で警鐘が鳴っている。
いずれ貴方はソフィーの僕のように言いなりになり、最終的に私を裁いて重い罪を着せる人だからです・・等と、口が裂けても言えるはずが無い。

「答えてくれ・・・・。ジェシカ。」

公爵は今にも泣きだしそうな顔で私をじっと見つめている。

「そ、それは・・・。ソフィーさんとドミニク様が・・・と、とてもお似合いのように見えたので・・・。お2人で見つめ合っていたし・・・。」
何とか必死で言い訳を考える。


「何故だ?!ジェシカ・・・・。お前の目から見た俺は自分に話しかけて来る女性なら誰にでも好意を寄せるような人間に見えるのか?!」

まるで血を吐くかのように激しく訴えて来る公爵。

「い、いえ!決してそのようなつもりは・・・・!」
私は激しく首を振り、そこでハッとなった。
ま、まさかこれは・・・以前夢で見たのと同じ光景・・・?
そう思った矢先、私は公爵の腕の中に囚われていた。

「ジェシカ・・・まだ気が付かないのか?口にしなければ俺の本当の気持ちが伝わらないのか?なら、はっきり言わせてもらう。ジェシカ・・・俺はお前を愛してるんだ・・!俺が初めて恋をしたあのメイドとはそれこそ比較にならない位に・・!」

そこではっきり気が付いた。
間違いない、これは私が夢で見たあの情景とそっくり同じだ。
あの時見た夢の中では、私は公爵を拒絶して突き飛ばし、尚且つ何かを叫ぶのだ。
それはかなり公爵の心を傷つける事になり・・・・・・驚いた私はそのまま逃げてしまう。
そこへ近づいてくるのがソフィー・・・。そこで夢は終わっていた。

「どうした?ジェシカ・・・。何故黙っているのだ?俺は今自分の気持ちを告げた。お前の返事を聞かせてくれ!」

 今の私は公爵の気持ちに応える事が出来ない。だけど・・・今ここで、私の返事次第で、ひょっとすると自分の運命を変える事が出来るかもしれないのなら・・?

「ド、ドミニク様・・・。」
どうしよう、何と返答すれば良いのだろうか?慎重に言葉を選ばなければ・・・。
公爵は私を抱きしめたまま離さない。そこで私はそっと公爵の背中に手を回した。

「!」

公爵が一瞬、身体をビクリとさせた。

「ドミニク様・・わ、私はあの時・・・ソフィーさんとドミニク様が見つめ合っていた時・・悲しい気持ちになりました・・・。」
そう、この気持ちは嘘では無い。

「ジェシカ・・・?」

公爵が戸惑うように私の名を呼んだ。

「お2人が・・見つめ合っている姿を見て・・ドミニク様とソフィーさんの間に運命的な物を感じて、私の出る幕では無いかと思い・・邪魔をしてはならないと思って先に帰ってしまったんです。」
公爵が息をひそめるように私の言葉に耳を傾けているのを感じた。

「私は・・・まだ自分の気持ちが誰に向いているのかすら・・良く分からないんです・・。だ、だから・・・ドミニク様。時間を・・貰えませんか?もう少しだけ・・待って頂けないでしょうか?」

 私は公爵をしっかりと抱きしめ、胸に顔を埋めると言った。
どうか、お願い!私の気持ちが公爵に伝わり、運命を変えて―!
強く心に祈った。

 すると・・・。

「分かった・・・。」

 公爵のくぐもった声が聞こえた。え?今何て言ったの?
私は上を向いて公爵を見上げると、彼は少し悲し気にほほ笑んで私を見つめていた。

「すまなかった・・・。ジェシカ。つい・・焦って自分の気持ちをお前にぶつけてしまった。」

「ドミニク様・・・。」

「・・・キスを・・・。」

不意に公爵が頬を赤らめながら言った。

「え?」

「ジェシカ・・・少なくとも、俺はお前に嫌われている訳では無いのだろう?」

「は、はい。」

「そうか。なら・・・お、お前にキスを・・しても良いだろうか・・?」

 公爵は真っ赤な顔で私を見つめながら言った。恐らく公爵にとっては、相当勇気を振り絞って出てきた言葉であることは、その様子からうかがい知る事が出来た。
突然の提案に私は驚き、躊躇したが・・・公爵を見ていると、とても拒絶する事など出来なかった。
だから、私は言った。

「はい・・・いいですよ・・。」
そして上を向くとそっと瞳を閉じた。

 瞳を閉じるとすぐに公爵の息遣いを感じ、唇が触れる気配を感じた。
重ねられた公爵の唇は微かに震えていたが、いつしか深い口付けに変わり・・私はそれに応じた・・。

どうか私と公爵の運命が変わりますように・・と願いを込めながら―。


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