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第13章 6 聖女誕生?

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1

私は今、生徒会室の前にいる。授業中なのでひょっとすると誰も居ないかもしれない・・・。でも、私には何となく分かる。きっとこの中には・・・・!

コンコン
私はドアをノックした。するとすぐにドアは開けられた。目の前に現れたその人物は・・・。

「あ・・あんた、ジェシカじゃないか!」

出てきたのはテオだった。

「何だって?!ジェシカが?!」

慌てて出てきたのは現在副会長を務めるライアン、それに・・。

「ケ・・・ケビン?な、何故貴方がここに・・・?」

ケビンは私を見ると言った。

「何故って・・それは先に俺が聞きたいところだけど・・。何故ジェシカは生徒会室にやってきたんだ?」

「そ、それは・・・。」

言い淀む私を見てケビンは言った。

「あ・・・悪い、別にジェシカを責めるつもりで言ったわけじゃ無いんだ。ごめん。」

私の頭をワシャワシャと乱暴に撫でるケビン。

「まさか・・・。ジェシカ、知ってたのか?まだ発表もしていないのに、あの事を・・それで・・確かめる為にここにやってきたのか?」

ライアンは私の両肩に手を置くと言った。

「ねえ・・・ライアンさん。やっぱりその話・・・本当だったの?嘘じゃないのよね?」
どうか嘘であって欲しい―!

「ジェシカ・・・それは・・・。」

ライアンは辛そうに私から視線を逸らせた。

「残念ながら嘘じゃないぜ、ジェシカ。そうだ・・・あの女、ソフィーが今日聖女として認められた・・・。」

テオが私にそう告げた。その言葉を聞いた私は・・足元から崩れ落ちてしまった。


 そう、私が部屋で見た手鏡のマジックアイテム・・・。アラン王子と公爵が何処にいるのかを探す為に鏡を覗いた私は驚いてしまった。
鏡に映っていたのは聖剣士の姿をした騎士達に混じってアラン王子と公爵が映っていた。彼等は壇上を向いて整列している。そして、画面が切り替わり、壇上にソフィーの姿を見た。彼女はピンク色のドレスに身を包み、聖剣士達に笑顔で手を振っている。
同じだ・・・私が小説の中で書いたあのシーンにそっくりだった・・・!

 聖剣士のパートナーとして選ばれる乙女達・・・その中でも最も神々しく、神聖な力を持つ乙女が聖女となる。小説では爵位の低いソフィーが突然神聖力に目覚め、聖剣士達の前で聖女が着るドレスに身を包み、壇上に立って挨拶をする場面がある。
それが・・私が手鏡で見た光景と全く重なったのだ。

 鏡で覗く世界は、生憎音を聞く事が出来ない。でも、私は作者だ。あのシーンがどんな場面かくらいは分かっている。

「お、おい!大丈夫か、ジェシカ!」

ケビンが慌てて私を後ろから支えた。

「ケ、ケビンさん・・・。」

「ジェシカ。とにかく、座れ。顔色が真っ青だぞ・・・それじゃ今に倒れてしまう。」

ケビンは言うと、私を支えてソファに座らせてくれた。

「ありがとう・・・ケビンさん。それにライアンさんも・・。この間は失礼な態度を取ってしまってごめんなさい・・。」

「いや、ジェシカは少しも悪くない。あいつが・・・デヴィットが悪いんだ。あいつは・・口が悪くて、誤解されやすい所もあるけれど、根はすごくいい奴なんだよ。悪かったな。ジェシカに嫌な思いさせて・・・。」

 ライアンの言葉に私は頭を振った。いや、デヴィットは正しい事を言っている。傍から見たら私は自分に好意を寄せてくれている男性達を振り回している悪女に見られても仕方が無いのだ。

「それより、ジェシカ。何故お前はソフィーが今日、聖女に選ばれたのを知っていたんだ?この事はまだ聖剣士達と生徒会の人間達しか知らない話なんだが・・。あ・・そうか、マシューから聞いたんだな。」

テオは1人でウンウンと頷きながら勝手に納得している。

「あの・・・所で、何故皆さんはこの生徒会室に集まっているのですか?今は授業中ですよね?」
私は彼等に尋ねた。

「何でって・・・そんなの決まっているだろう?」

ケビンは頭を掻きながら言った。うん?そう言えば何故ケビンはここにいるのだろう?
「所で・・・何故ケビンさんは生徒会室にいるのですか?

「あ~・・・そう言えば・・まだ一度もジェシカに話した事無かったよな?俺、実は裏生徒会のメンバーなんだよ。」

「え・・ええっ?!そうだったんですか?!何故、今まで黙っていたんですか!」

私は驚いて思わず立ち上がった。

「お、おい。落ち着けって、別に・・・ジェシカを騙していた訳じゃないんだって。ただ話していなかっただけなんだよ。」

私を宥めるように言うケビンは言う。

「はあ・・そうですか・・・。ではあらためて質問させて下さい。皆さん、何故この生徒会室にお集まりなのでしょうか?他にも大勢生徒会役員の人達がいらっしゃいますよね?その方々はどうしているのですか?」

「そんな事はジェシカ・・・あんたがここにやって来たって事で既に自分で気付いているんじゃ無いのか?」

テオが私を指さしながら言う。
「・・・。」
そうだ、テオの言う通りだ。私が・・・ここにやって来たのは・・・。
「本当に・・・ソフィーは聖女になってしまったのですか・・?」
私は俯いて、誰に聞くでも無く声に出した。

「ああ・・・・。納得がいかないけどな・・・。」
ケビンは苦々し気に言う。

「全くだ・・・!何であんな女が聖女に選ばれるんだ?!今まで散々ジェシカに酷い嫌がらせをするだけじゃなく、色んな男を騙して・・金までむしり取っていた女だぞ?一体どれだけ被害届が出ていると思う?」

テオはイライラした様子で爪を噛んだ。

「あんな女を聖女として認める訳にはいかない。それで納得がいかなかった俺達はここに集まって何か打つ手は無いか話し合いをしてるところだったんだよ。」

ライアンが説明してくれた。
所で・・・私は一つ気になる事があった。
「あの・・・生徒会長は・・どうしているのでしょう?」
何故、あの暴君生徒会長はいないのだろうか?

「ああ。あいつか・・・。」

溜息をつきながらケビンが言う。え?ちょっと待って、今生徒会長の事をあいつ呼ばわりしたよ?

「生徒会長なら、元々他の幹部役員から目を付けられていたんだけど、今回お前の護衛にと聖剣士達に片っ端から声を掛けたもんだから、とうとう問題視されて、学院の謹慎室で処分を受けているんだ。」

ライアンがため息をつきながら言った。

「え!また謹慎処分にされているのですか?!」
本当に懲りない男だ。またまた謹慎室に入れられているとは・・・。まさかまた私にスイーツの差し入れをお願いしてくるつもりなのだろうか・・・?でも、残念。私は明日にはこの学院にいないのだから・・。

「しかし、未だに信じられない。あんな女が聖女に選ばれるなんて・・。」

テオは納得がいかないのか、唇をギリリと噛み締めた。

「そう言えば・・・何故、ソフィーが聖女になれたのですか?」
私が疑問点を口にするとケビンが教えてくれた。

「ああ、聞いた話によると・・数日前にソフィーが突然『癒しの魔法』を使えるようになったらしいな。」

「癒しの魔法?」

「ああ、今まで聖女として選ばれて来たのは高位貴族で最も魔力が高い女が選ばれて来たんだが、今回ばかりは特別だ。何せ、本当の聖女様の到来だと聖剣士たちは大騒ぎしているんだからなあ・・。全く・・・どうにも信じられないぜ。とっくに滅びた癒しの魔法を、よりにもよってあんな女が突然使えるようになったなんて・・。」

テオはドスッと乱暴に椅子に座ると言った。

「まあ、マシューはきっと納得していないだろうな。あんな女が聖女になれるはずが無い。きっと癒しの魔法にも何らかのからくりがあるはずだと言ってたからな。だから今、聖剣士達が神殿に集められて聖女からの言葉を貰っている最中だがマシューは絶対に参加しないと言ってたからなあ。」

「マシューが・・・?」
一体マシューはいつからソフィーが聖女に選ばれた事を知っていたのだろうか?
そう言えば、昨夜・・レオと3人で酒場で話をしていた時から、マシューの様子が何だかおかしかった気がする・・・。

「ん?そう言えば・・以前ソフィーが取り巻きの連中たちに妙に気になる事を言ってたなあ。もうすぐ魔界の門を開けようとする人物が現れる。その時に私はようやく聖女になれるんだとか訳の分からない事を口走っていたけど・・・その事と今回の件、何か関係があるのか・・・?」

「!」
テオの言葉に、私は全身の血が凍り付きそうになった―。



2

私は頭を抱えた。

「ジェシカ?どうしたんだ?!」
「しっかりしろ!」
「大丈夫か?!」

ライアン、ケビン、テオが私に声をかけてくるが、返事をする余裕も無い。もうすぐ魔界の門を開けようとする人物が現れる・・?それはまさに私の事だ。ソフィーは私が魔界に行こうとしている事を知っていたのだろうか?私の行動をずっと監視していた・・・?そしてソフィーが突然発動した癒やしの魔法に、聖女宣言。あまりにも全てがタイミングが良すぎる。それに、聖剣士を神殿に集めてのソフィーの演説・・。
いけないっ!!

「ジェシカ!しっかりしろ!俺の顔を見るんだ!!」

ライアンが私の両肩を掴んで自分の方を向かせた。
「あ・・・ライアンさん・・・。」

「落ち着け、ジェシカ。ここにいる俺達は皆お前の味方だ・・・。一体、何をそんなにお前は焦ってるんだ?」

「そうだ。お前が抱えている悩み・・・俺達に話しちまえ。」

ケビンが声をかけてくる。

「た、大変・・・。彼女・・ソフィーは催眠暗示が得意なんです!このままだと神殿にいる皆が彼女に暗示をかけられてしまう・・・!」

「催眠暗示だって?」

テオが眉をしかめた。

「そういえば・・・以前お前に夢中だったアラン王子達が妙な女に夢中になった事があったな・・・。」
 
ライアンが言った。

「俺が見た時は、ソフィーに熱を上げていたぞ?」

ケビンが言う。

「おい・・・それじゃソフィーの取り巻き連中は、ひょっとすると催眠暗示にかけられていたのか?!」

テオは驚きを隠せない様子である。

「今、ソフィーは神殿で聖女になる宣言をしている最中のはずです。恐らく神殿にいる聖剣士や神官の人達は・・・ソフィーの言葉に心酔して・・全員が彼女の操り人形にされてしまいかねない・・・!」

 そう、この小説のヒロインであるソフィーは最早私の知るソフィーでは無い。あの日、美しい桜吹雪の下でマシューは言っていた。ソフィーの身体から滲み出ている邪悪な黒い影が見えると・・・。それは恐らくマシューが半分魔族の血を引いているから感じられるのだと。さらにマシューはソフィーは何者かと契約を交わしているかもしれないとも話してくれた。
 ひょっとすると、ソフィーは偽物・・・?
考えてみれば私は小説の中でソフィーは攻撃魔法は使えない存在として書いていた。なのにソフィーは一度私に攻撃魔法を与えて来た事がある。だとしたら、本物のソフィーは一体何処にいるの・・・?

「どうした、ジェシカ!しっかりしろ!」

 ライアンに揺さぶられて、ハッとする私。見上げるとライアンが心配そうに私の事を見つめている。
駄目だ・・・もうこれ以上黙っていられない。最早私とマシューだけで秘密を共有していられる段階では無い。
私は覚悟を決めた。
「み・・皆さん・・・。聞いて下さい・・。わ、私・・実は本日マシューに魔界の門まで連れて行って貰う約束をしているんです。そして、門を開けて魔界へ向かう事になっていて・・。」

「え?!」
「何だって!」
「ほ・・・本気なのか?!」

ライアン、ケビン、テオがそれぞれ驚愕の声を上げた。でも、それは当然の事だろう。

「おい、ジェシカ!何故魔界の門を開けると言うんだ?!一体そんな事をしてどうするつもりなんだよ!」

テオは私の両肩を持って激しく揺さぶる。

「お前・・・やっぱり・・悪女だったのかよ・・・?」

「ち、違いますっ!」
テオの言葉を強く否定した。

「当たり前だ、ジェシカが悪女のはず無いだろう?俺は良く知っている。」

ライアンはテオの前に立ちふさがった。

「さあ、ジェシカ。何故魔界へ行くんだ?何か事情があるんだろう?」

ライアンは優しい声で語りかけて来た。

「ラ、ライアンさん・・・。私・・・。」
私は俯くと、今迄の経緯を全て話した。
かつて、この学院にはノア・シンプソンという名前の学生が居た事。生徒会の副会長を務めていた事・・・。そして昨年私がソフィーの策略により、海賊に誘拐されたのをノア先輩、ダニエル先輩、アラン王子、マリウス、グレイ、ルーク達が助けにやって来た事。
誘拐した海賊と心を通わせていた私がレオという青年を庇って毒の矢で射抜かれて死にかけ・・・万能薬を取りにノア先輩たちが魔界へ向かい、万能薬の元となる花と引き換えにノア先輩は魔界へ行ってしまった事・・・それら全てを私は3人に話した。

 彼等は私の話を黙って聞いていたが、話しの終わりの方では3人とも顔色を変えて話を聞いていた。
話し終えた私に、一番初めに声をかけてきたのはライアンであった。

「ジェシカ・・・それじゃ、本当にこの学院にノア・シンプソンという学生が居たのか・・?俺達が何一つ覚えていないのは彼が魔界へ行ったからだって言うのか?」

「はい・・・そうです。私もノア先輩の事はすっかり忘れていました。何故思い出す事が出来たのかは・・・私にも良く分からないんです。」

「それで、今夜マシューが門番の時に一緒に魔界の門へ向かう事になっていたのか・・・。」

テオが腕組みをしながら呟く。

「ジェシカ!俺はお前と一緒に行くぜ!」

突然ケビンが私の両手を握り締めると言った。

「え?ケビンさん?!」

「魔界の門を通り抜けた先はどんな事が待ち受けているのか全く分からないんだろう?それにマシューは門番の仕事があるからジェシカに付いて行ってやる事が出来ないのなら・・・俺はお前の護衛として何処までも付き合うぜっ!」

「なら俺も当然行く。」

ライアンが言う。

「仕方ねーな・・・。お前達が行くっていうなら、俺だって名乗り出なくちゃ決まり悪いだろうが。」

テオが頭を掻きながら言う。

「そ、そんな・・・!皆さん、本気で言ってるんですか?!門から先の世界がどんな世界かも分からないのに・・・!それに、今ソフィーは神殿で聖女として神官や聖剣士達を洗脳してるかもしれないんですよ?!捕まったらどんな目に遭うか・・・。」

そう、犠牲になるのは私1人でいい。これ以上・・・誰かを巻き込む事なんて私には出来ない。

「だから、尚更だ。」

ライアンは私の正面に立つと言った。

「お前と・・後レオだったか?たった2人で魔界の門まで辿り着けると思うか?恐らくソフィーはお前が今夜マシューと一緒に門へ向かう事を知っていたんだと思う。多分・・・あの女の事だ。追手を放つはずだ。その追手と言うのは勿論・・・。」

そこまで言いかけた時、背後で声が聞こえた。

「そう、追手は聖剣士になると思うよ。」

「「「「!」」」」

私達は全員後ろを振り向いた。
そこに立っていたのはマシューだった・・・。

「マシューッ!ど、どうしてここに?!」

私はマシューに駆け寄った。

「さっき、女子寮に行ったらジェシカがいなかった。・・・恐らく生徒会室に来ているんじゃなかいと思ってね。」

「おい、マシュー。お前・・・こうなる事・・気付いていたのか?ソフィーが聖女に選ばれる事を・・・。」

テオがマシューに詰め寄る。

「少し、予想外だったけど・・・最近一段とあの女から溢れ出す邪悪な黒い影が濃くなっていたから、注意を払っていたつもりだったんだけどね・・・。まさかこちらの動きを読まれていたとは思わなかった。・・・これは俺の誤算だ。」

マシューは俯いた。
それじゃ・・・やっぱりマシューはソフィーが聖女に選ばれる事になるのは分かっていたのだろうか・・・。

「ね、ねえ。マシュー。こうなったら、今夜決行するのは無理なんじゃ・・・。」
しかし、マシューは言った。

「ジェシカ、今夜予定通り『ワールズ・エンド』へ向かう。先輩達も・・・当然来てくれますよね?」

そしてマシューはライアン達を見渡した—。
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