目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第6章 4 断崖絶壁の監獄塔 (イラスト有り)※大人向け表現有り

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1

私は今、公爵と3人の兵士に連れられて監獄塔へとやって来ていた。

「お前達は先に城へ戻っていろ。俺がジェシカ・リッジウェイを連れて塔へ上る。」

「「「はい。」」」

3人の兵士が返事をすると、公爵は私の手首を掴み、転移魔法を使い一瞬で牢屋へ移動した。

その場所は床から壁、天井に至るまで全て石造りの牢屋だった。
壁は鉄格子にはめられた小さな窓があり、そこからは冷たい潮風が吹き込んでいる。
牢屋の中には小さな木のベッドに1人用の小さなテーブルと椅子があるのみだった。
此処が・・・私が今日から閉じ込められる牢屋・・。あの時の夢で見た時と同じ光景・・・・。

 その時・・・。

「ジェシカッ・・・!」

背後にいた公爵が後ろから抱きしめて来て、私の顔を自分の方へ向けるといきなり唇を重ねて来た。

「す・・・すまなかった・・・。ジェシカ。怖い目に遭わせてしまって・・・。」

そして私を胸に押し付けるように抱きしめると公爵は私の髪に顔を埋めてすすり鳴いた。心なしか・・・その身体も震えている。

「ド、ドミニク様っ?!な・・泣いているのですか?」

「あ・・ああ・・・。ソフィーの前へ連れて行った時も・・・裁判にかけられた時も・・・俺はすぐ側にいたのに、何もしてやれなかった・・!そして今だって・・・大切なお前を・・・1人、こんな場所に閉じ込めようとしている・・・っ!」

公爵が・・こんなに泣くなんて・・・。
私はそっと公爵の背中に手を回すと言った。
「いいえ、いいんです。ドミニク様は・・・私にとても良くしてくれました。だってあの映像・・・全部ドミニク様が事前に準備されていたんですよね?私の友人達に頼んで・・・。」

「ああ・・。そうだ。だが、彼女達は快く引き受けてくれた。誰もが皆お前を慕っていた・・・。ジェシカ、全てはお前に人望があったからだ。」

「・・・暴動があったと言うのは?」

「・・・それも俺が頼んだ事なんだ・・・。アラン王子達に・・・な。」

「え?!ア・・・アラン王子達に・・ですか・・?い、いつの間に・・・?」
信じられない。公爵はいつの間にそんな事を彼等に頼んだのだろう?

「お前が・・・眠っている時に彼等の元を訪ねたんだ。実はあの城には封印をかけていて、外部の人間には決して見えないようにして置いた。だから・・・ジェシカを探しに来ていた彼等は森の中で立ち往生していた。・・・それにしても・・あの白髪の男はアラン王子以上に気性が激しいな・・・。俺が彼等の前に現れた途端、いきなり殴られたよ。それで、今日ジェシカが裁判にかけられるから、学院で騒ぎを起こして欲しいと頼んだんだ。最も頼みごとをするならもっと殴らせろと言われたけどな・・・・。勿論言う通りにはしたが・・。後は・・・お前が見たとおりだ。」

デヴィットだ・・・!そんな事をするのは・・・。
「す、すみませんでした、ドミニク様。彼は・・・少々気が短い所もありますが、決して悪い人物では・・・。んっ・・。」

そこまで言いかけて公爵に口付けされた。

「いいんだ・・・別に・・その事は・・ただ・・ジェシカの口からは・・出来るだけ他の・・男の話は・・・聞きたくない・・。」

公爵は唇を重ねたまま私に語りかけ・・・やがてそれは深い口付けへと変わっていった―。


「ジェシカ・・・。すまないが2日だけ・・・この牢屋で過ごしてくれ。ソフィーの目を胡麻化すには、最低でも2日は入って貰わないと・・・・。」

公爵は申し訳なさそうに言う。

「いえ。大丈夫ですよ。2日くらい・・・。だって私は魔界にいた時・・・何日も牢屋に閉じ込められていましたから。」

「何?その話は本当かっ?!」

公爵は私の両肩をつかむと、覗き込んできた。

「そ、それで・・どういう状況でそんな事になったんだ?!」

しかし、そこまで言いかけて公爵は我に返ったように言った。

「あ・・・駄目だ。そんなにゆっくりも・・・していられない。あまり長く居座っているとソフィーに怪しまれてしまう・・・。すまない、ジェシカ。そろそろ俺は行かなくては・・・。」

そして言い終わると再び公爵は私を強く抱きしめ、深い口付けをしてきた。

「これは・・俺がソフィーの呪縛から身を守る措置だ・・。すまない。ジェシカ。
もう少しだけ・・・。」

私は公爵の背中に手を回し・・深くて甘い口付けを交わした—。



 公爵も出て行き、私はこの狭い牢獄に1人、取り残された。
粗末なベッドに座り、何気なく窓を見上げる。
あの窓からは・・・どんな景色が見えるのだろう?私は窓に近付くと鉄格子から外の景色を見た。

 そこは断崖絶壁に建てられた円柱状の石造りの高い塔だった。一体どの位の高さがあるのだろう・・・?試しに視線を下に移すと、とんでもない高さがある事が分かった。
・・どうやら私は最上階に閉じ込められたらしい。下を見下ろすと余りの高さに目がクラクラしてくる。
 それにしても・・・公爵には本当に感謝だ。本来ならこんな場所・・寒くてたまらないはずなのに、公爵が帰り際にかけてくれた魔法で冷たい海風も入って来ないし、牢獄の中も少しも寒く無かった。

 だけど時計が無いことには時間がさっぱり分からない・・・。
そこまで考えていた時・・カツンカツン・・・誰かが階段を上ってくる気配を感じた。
え・・・?だ、誰・・・・っ?!
恐怖で身体が震えてくる。い・・・一体誰が・・近付いてきているの・・?

私は出来るだけ壁に背中をピタリと付け、鍵のかけられた木のドアを見据えた—。


ジャラ・・・。
扉の外で音が聞こえた。ひょっとすると・・あれは鍵の束の音なのだろうか?
そして鍵穴に鍵を差し込んで、鍵がカチャリと開けられる音が聞こえた。
次の瞬間、ドアがギイイイイ・・と音をたてながらゆっくりと開かれる。

「!」
中へ入ってきたのは1人のマント姿の人物だった。しかも・・・何故か不思議な事にこの人物は鉄仮面を被り、手にはバスケットを持っている。かなりの高身長と、その体格から男性であるのは間違い無いだろう。

「あ・・・あの・・・?」

どうしてだろう・・?何故かこの仮面男の事を私は少しも怖いと思わなかった。
初めて会う人物なのに・・・。
男は一言も話すことなく、テーブルの上にバスケットを置いた。

「え・・・?そ、それは・・・?」

すると彼はバスケットの蓋を開けた。・・・中には粗末ではあったが、飲み物とパンが入っている。

「私の・・・食事ですか?・・・わざわざありがとうございます。」

頭を下げて、お礼を述べる。

「・・・・。」

しかし、仮面男は一言も話をしない。

「あの・・・?どうかしましたか?」

首を傾げるも、相変わらず無反応である。そしてクルリと背を向けると一瞬で姿を消してしまった。


「う~ん・・・?一体今のは何だったんだろう?」

まあいいか。兎に角今はお腹が空いて仕方が無い。こんな・・・粗末な食事でも無いよりはましだ。
私は水と一緒に固いパンを口に運んだ。

・・・大丈夫、きっと2日後には出られるはずだもの・・。
私は心の中で自分に言い聞かせた。


 そしてその日の夜—。


ガラガラガラ・・・・ッ!
外では激しい雷が鳴っている。日が暮れ始めた頃から、急に天候が荒れ始め、外では大粒の雨が降っていた。
当然私のいる牢屋にも雨と風が吹き込んでくる。なので私は一番窓の奥から外れた場所に与えられた毛布の上で丸くなって縮こまっていた。

この監獄塔は海沿いの断崖絶壁に建てられているので、その風と雨の凄まじさは半端では無い。それに激しい音で鳴り響く雷は・・・この監獄塔に落ちて来るのでは無いかと思うと怖くて堪らなかった。
きっと・・・公爵は・・・デヴィット達は私の事を心配しているだろう。
怖い・・・ここから出たい・・・。毛布をより一層身体に巻き付けて震えていると、突然あの仮面男がこの牢獄に現れた。

「キャアッ!」

あまりにも突然の事だったので私は思わず悲鳴をあげると、仮面男が私の目の前に来て、しゃがみこんだ。

え・・?

仮面男の仮面から・・マントからは水が滴っていた。そして・・・その仮面の奥に見える目は・・・何故か私には・・・心配そうに見つめている目に見えた。

「あ・・あの・・・な、何故ここに・・・?」

しかし、やはり返事は返ってこなかった。・・・ひょっとすると・・口がきけないのだろうか・・?

仮面男は黙って私の近くに座るとマントを脱いで床に置いた。そして何をするでもなく壁に寄りかかる。

え・・?一体何だと言うのだろう・・・?でも・・もしかすると公爵に言われて私の様子を見に来たのかもしれない・・・。
でも、不思議だ・・・。何故かこの仮面男が近くにいるだけで、恐怖が薄れていく。

そして私は・・いつの間にか眠りに就いた—。




2

夢を見た。
とてもとても幸せな夢を・・・・。
青空の下。
私は大好きなあの人と手を繋いで美しい花畑を歩いている。
そして彼は私をじっと見つめると、笑顔で言う。
—大好きだよ、ジェシカ—

私も・・。
私も誰よりも・・この世界で一番貴方が好き・・・。愛してる—。


チュンチュン・・・。

鳥の鳴き声が聞こえてくる。
う・・・。
私は身じろぎした。・・・静かな寝息・・・近くに誰かいるの・・?何故か抱き寄せられているようにも感じる・・・。

やがて何度か睫毛を震わせて、私はゆっくり目を開けて・・・。

「!!」

一瞬で目が覚めてしまった。
何と私は仮面男に抱き締められたまま眠っていたのだ。
い、一体何故・・?ひょっとして、無意識のうちに眠っている間にこの仮面男に擦り寄っていたのだろうか・・?
でも、幾ら何でもこのままではまずい。抱き締められている腕を動かそうとしてもびくともしない。

う~ん・・・困った・・・。

「あの~すみません・・・。」

私は仮面男に顔を近付け、声をかけた。

「・・・」

しかし仮面男はよく眠っているのか目を覚まさない。だけど・・・どうして私は初対面の男の人に抱きしめられたまま平気で眠れたのだろうか・・・。何の警戒心も持たずに・・・。

その時・・ふと、あの魔族特有の香りが辺りに漂っている事に気が付いた。
え?この香りは・・・っ?!

すると・・・

「ジェシカッ!!」

突然公爵が転移魔法でこの牢獄に現れ・・・私が床の上で仮面男に抱き締められている姿を見て顔色を変えた。

「お・・おいっ!そこのお前・・・ジェシカに何をしているんだっ!」

その声にようやく仮面男は目が覚めたのか、腕を解いた。

「ジェシカッ!!」

公爵は私を抱き起すと、腕に囲い込んで仮面男を怒鳴りつけた。

「おい!お前・・・一体彼女に何をしたんだっ?!」

しかし仮面男は返事をしない。黙ったまま立ち上がるとこちらを見た。

「聞こえないのか?返事をしろっ!」

「待って下さいっ!ドミニク様っ!ま・・まずいですよ・・。これでは私の事を庇っていると言ってるようなものでは無いですか・・・っ!」

「あ・・・・。」

そこでようやく公爵は我に返った。

「・・すまなかった。いきなり怒鳴りつけて・・・今更こんな事を言うのもなんだが・・この話は・・黙っていてくれないか・・・?頼むっ・・・!」

公爵は仮面男に頭を下げた。

「・・・・。」

しかし、相変わらず仮面男は無言だ。

「あの、ドミニク様・・・。この方は昨夜嵐の晩に突然私の元へやって来たんです。・・・恐らく私のことを心配して。・・ドミニク様の使いで来た方だと思ったのですが・・・?」

「いや・・。俺は知らない。」

公爵は首を振った。

「だが・・・・。」

言うと突然公爵は私を強く抱きしめると言った。

「すまなかった・・・っ!あんな嵐になるなんて・・・。怖かっただろう?心細かっただろう・・・?どうしても・・・昨夜はソフィーの相手をしなくてはならなかったんだ・・・ッ!」

するとそれまで黙って私と公爵を見守っていた仮面男が動いた。

「う・・・。」

唸りだした思った矢先・・・突然私達に近寄り、公爵の腕を振りほどき、私の腕を掴むと自分の腕に囲い込んできたのだ。

「お・・・お前・・・っ!一体何を・・・っ!」

公爵は一瞬何が起こったのか分からない様子だったが、すぐに我に返ると叫んだ。

「ジェシカを放せっ!!」

しかし仮面男は首を振るとますます強く私を抱きしめてくる。
え・・・?一体、今何が起こっているのだろう?いや・・・。でもそれ以前に・・私はこの腕の中を知っている。一体この人物は・・・?

「一体・・・どういうつもりだ?早くジェシカを俺に渡せ・・・。」

突然公爵の雰囲気が変わった。禍々しいオーラが身体から徐々に滲み出てくる。
顔つきも変わり、目が怪しく光り始めた。
・・・どうしてしまったのだろう。まさか・・・ソフィーの呪縛が・・・っ?!
公爵を止めないと・・・っ!!

「お・・・おねがいっ!離してくださいっ!」

私は仮面男の顔をじっと見つめた。すると彼は何かに打たれたかのように一瞬ビクリとなるが・・素直に手放した。

「ドミニク様っ!!」

私は公爵に駆け寄った。

「ジェ・・・ジェシカ・・・。た、頼む・・・。俺を助けてくれ・・・っ!」

公爵は頭を両手で押さえて苦しんでいた。

「ドミニク様っ!お願い、しっかりして下さいっ!」

駆け寄ると公爵は私を強く抱きしめて来た。

「う・・・。ジェシカ・・・ジェシカ・・・。」

公爵は目を閉じ、顔を歪ませながら私の名を呼び続けている。

「・・・っ!」

背後で仮面男の息を飲む気配を感じた。この公爵の状態・・・普通じゃない・・。


「・・・お願いします・・。」
私はドミニク公爵を抱きしめたまま仮面男を振り返った。

「どうか・・・私と公爵だけの・・2人きりにさせて頂けますか・・・・?」

「・・・・。」

仮面男は黙って私をみつめている。・・・何故だろう。仮面に隠されてその素顔は分からないのに・・・・。何故か仮面の下のその顔は・・・とても悲しんでいるように私には思えた・・・。
次の瞬間、仮面男は視線を逸らすと一瞬でその場から消え失せた。

「ドミニク様・・・。お願いです。どうか・・・正気に戻って下さい・・。」

私は公爵に自ら口付けた。すると・・公爵は私の頭を押さえつけ、乱暴な位い深い口付けをしてくる。そしてその体勢のまま床に組み伏せられた。
次に公爵は私の服に手をかける。・・・いいですよ、公爵・・・。それで貴方の呪縛が解けるなら・・・。

私は目を閉じ・・・公爵に応じた・・・。




「すまなかった・・・。ジェシカ・・・。こんな・・・こんな・・・乱暴な抱き方をして・・・。」

冷たい床の上・・・公爵が私を抱き締めながら泣いている。

「いいんですよ。ドミニク様・・・。それでソフィーの呪縛が解けるなら・・・。」

私は泣いている公爵の頬に触れると言った。

「昨日の・・・夜の事だ・・・。ソフィーはお前の件で・・すごく荒れていたんだ。
ソフィーはその日、自分の機嫌が悪い時は・・・いつも俺を求めて来るんだ・・。
昨夜も・・・それで・・・。嵐なのは分かっていた・・。いいや・・違うな。今にして思えば・・・あんな天気の荒れた夜だったから・・・敢えて俺に相手をさせて・・・お前の元に行かせようとしなかったんだ・・・っ!」

公爵は私を強く抱きしめると激しく嗚咽した。
どうして、こんな事に・・・。公爵の辛い胸の内が痛いほど伝わって来る。どうすれば彼をソフィーの呪縛から・・・解き放つ事が出来るのだろう・・・。
私も・・・公爵の事を思い・・・2人で抱き合い、涙した—。



狭いベッドの上で抱き合った後・・・公爵が言った。

「ジェシカ・・・今夜、この牢獄から逃げるんだ。」

「え・・・?で、でも・・明日までここにいるのでは・・・?」

公爵は首を振った。

「いや・・・。多分、もう間違いなくソフィーには俺がここに来ているのはバレている。そして・・・徐々に俺が再びソフィーの呪縛にかかりかけている事も・・。どうすればこの呪縛から逃げられるか今迄考えていたけれども・・もう無理そうだ。」

公爵はベッドから起き上がり、服を着ると言った。

「さっき・・・お前があの仮面の男に抱き締められているのを見た時、一瞬で目の前が真っ赤に染まってしまったんだ・・・。激しい怒りの様な感覚が・・・俺の中に芽生えて・・乱暴な感情が沸き上がってくるのを・・・。このまま、お前の側にいたら・・・今にお前にもっと酷い事をしてしまいそうになる・・・。だから・・・俺の事はもう忘れてくれ・・・。元々ここから逃がして・・・俺の目の届かない遠い場所で・・・幸せになって貰いたいと思っていたんだ・・・。」

「ドミニク様・・・・っ!」
一体何を言ってるの?ソフィーに支配されて・・・自分を失ってもいいと言うの?

「彼等に・・・連絡を入れて来る。ジェシカ・・・今までありがとう。愛していたよ・・・。そして・・どうか幸せに・・・。」

公爵は悲し気に笑うと転移魔法で姿を消した。

「ドミニク様っ!!」

咄嗟に手を伸ばすも・・・その手を掴むことは出来なかった。


そして、この直後・・・大変な事件が起こるとは私は予想もしていなかった—。
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