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第8章 6 聖女ソフィーの救出

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 テオ・・・テオの嘘つき・・・。

『俺は・・・俺なら絶対に何があろうとも・・・お前の側から離れない。お前に寂しい思いをさせないし、絶対に・・・その手を離したりしない・・。お前が何処か他の土地へ行くと言うなら・・・その時は一緒だっ!俺の居場所は・・・ジェシカ・・。お前の隣だ・・・。』

頭の中でテオが私に言った言葉が繰り返される。
テオ・・・貴方迄・・・私に嘘をつくの?
私は今迄散々皆から嘘をつかれて来た。アラン王子・・偽ソフィーに操られ・・何度も何度も私に嘘をついて来た。
ダニエル先輩も・・・ノア先輩も・・・一度は私の元から離れて去って行った。
公爵も・・・そして唯一愛し、一番信じていたマシューさえも私の目の前で去って行ってしまった。

 今度こそ・・・貴方だけは絶対に約束を守ってくれると思っていたのに・・。
こんな形でいなくなってしまうなんて・・・。
私の両目から涙があふれ、頬を伝って落ちてゆく。
こんな風に泣くなんて・・ひょっとして私はテオを愛していたの・・・?
彼とは一度も深い関係を結んだことも無かったのに・・・?


「ハルカ様・・・・。」

誰かが近くで私を呼んでいる。

「ハルカ様・・・・。」

いや、お願い。もう私を起こさないで・・・。何もかも忘れて眠りたい・・・。

「お願いです、ハルカ様・・・・・。貴女の力が必要なのです。だからどうか目を開けてください・・・。」

誰かが私のすぐ側ですすり鳴いている。
ああ・・・お願い。
そんな悲し気に泣かないで・・・。


「あ・・・。」
意識が戻り、私はゆっくり目を開けた。するとそこには私を覗き込みながら涙しているエルヴィラの顔があった。

「エルヴィラ・・・。」
私は自分の頬が濡れている事に気が付いた。また・・・泣きながら眠っていたんだ。

「ハルカ様・・・。申し訳ございませんでした。」

エルヴィラは頭を下げてきた。

「ハルカ様の体内で暴走する魔力を押さえる為には・・・どうしようもない措置だったのです・・・。私が中に入ろうとしたのですが、テオ様に止められました。私の力はこの先も絶対に必要だから、代わりに自分がやると申し出て・・・決して後を引かなかったのでございます。」

「テオは・・・どうなってしまったの・・?」
私はベッドに横たわったまま尋ねた。

「テオ様の肉体だけは・・・残されていますが、その魂はハルカ様の中に入っております。」

エルヴィラは頭を下げた。

「え?身体は・・・・残されているの・・?」
身体を起こし、私はエルヴィを見つめた。

「はい・・・。私がハルカ様の中へ送り込んだのは・・魂のみですから・・。けれども・・死んだも同然です。入れ物だけ残されても・・・肝心の中身が無ければ・・もうやがてその肉体も・・朽果てていくだけです・・。一応テオ様の肉体には時を止める魔法をかけて保護しておりますが・・・もう二度目を覚ます事は無い出しょう。」

「エルヴィラ・・・・。」
エルヴィラの声は悲しみに満ちていた。

「お願い、エルヴィラ。テオの・・身体がある場所へ案内してくれる?」

「承知いたしました、ハルカ様。」

エルヴィラは私の手を取ると転移した。


そこは私がアカシックレコードを手に入れた場所だった。
青白く光る巨大な木の下に・・・何かがある。

「!」
それは十字架の立ったお墓だった。

「エルヴィラ・・・。これは・・・お墓・・・?」

「はい、そうです・・・。これは・・アラン王子様とデヴィット様が作られました。ですが、テオ様は死んだことにはなっておりません。」

「どういう事?」
私はエルヴィラを見た。

「アカシックレコードの意思が働いたのでしょうか・・・。何故か分かりませんが、テオ様の存在を認識しているのが私と、アラン王子様。そして・・・デヴィット様にハルカ様・・・我々だけだったのです。彼は・・・最初から存在しない人物にされておりました。」
「そう・・・だったの・・・。」

私は十字架に近付くと・・そっと触れると言った。

「エルヴィラ・・・。テオに会わせてくれる・・・?」

「はい、ハルカ様。」

エルヴィラが右手を上に上げると、地面が突如として割れ、そこからガラスの棺に納められたテオの姿が現れた。
テオ・・・ッ!!

エルヴィラは静かに棺を地面に降ろすと言った。

「私は・・・向こうで待っておりますので・・・。必要な時に声を掛けてください。」

気を遣ってれたのだろうか・・。エルヴィラは席を外した。
後に残されたのは魂の抜けたテオと私の2人のみ。

「テオ・・・。」
ガラスの棺にそっと触れると、驚いたことに蓋が一瞬で消滅した。
テオは両手を胸の所で組み、まるでその姿は眠っているようにも見えた。
そっとテオの頬に触れてみるが・・・全く体温を感じない。
冷え切った肉体だった。そう・・・まるで血の通わない、死者のように・・・。
私の目から再び涙が溢れて来る。
思えばマシューが一度死んでから、悲しい出来事が多すぎる。最近自分は泣いてばかりのような気がする。
こんなに弱い人間では無かったはずなのに・・・・誰かを大切に思うと・・・人はこんなにも涙もろくなってしまうのだろうか・・・?

テオ。
私には・・・もう貴方を救う事は出来ないの?アカシックレコードを手に入れたのに、魔力が暴走して、大きな犠牲を払わせてしまった。エルヴィラ・・・・私・・本当はこの世界に来るべきじゃなかったんじゃないの・・・?
私はそっと身をかがめ・・・冷たくなったテオの唇に自分の唇を重ねた。

その時・・・。

<ジェシカ・・・・。>

私の中から・・・誰かが私の名前を呼んでる気配を感じた。まさか・・っ!

「テオ・・・テオなのっ?!」

しかし、その声は・・・もう聞こえなくなってしまった。ひょっとすると・・・テオを助ける事が出来るのかもしれない・・!方法は全く分からないけれども、私がこの世で生き続ける限り、私の中にあるテオの魂が消えない限り、まだ望みはあるのかもしれない・・・!
私は顔を上げた。
決めた・・・・全ての件が片付いたら・・何としても私はテオをこの世に蘇らせる方法を見つけるのだ。世界中を旅してでも―。



「エルヴィラ・・・。お待たせ。」

私は石の上に座っていたエルヴィラに声をかけた。

「ハルカ様・・・・?どうされたのですか?先程とは違い、目の輝きが強まったように感じられますが・・・・?」

エルヴィラは私の心境の変化に気付いたようだった。

「うん。エルヴィラ・・・。私は決めたの。全てが片付いたら・・・必ずテオを元に戻す方法を探し出そうって・・・。彼の声が私の中から聞こえるの。私の名前を呼びかけてくれた・・・。まだ魂は消えていないのよ。」

私は自分の胸に手を当てながら言った。

「ハルカ様・・・・。分かりました。私も・・お手伝いさせて頂きます。」

エルヴィラはそう言って私の前に跪くのだった—。



「エルヴィラ・・・。あのソフィーは今・・どうなっているの?」

エルヴィラがテオの棺を地面の中に戻した後、私は彼女に尋ねた。


「はい、実は・・・未だに目が覚めず・・・セント・レイズシティの病院のベッドの上で眠っております。・・・その上・・・何かがあの物の体内を蝕んでいるのでしょうか・・・?あの偽ソフィーの身体に・・不思議な痣が出来始めたのです。」

「痣・・・?」

私は首を傾げた。

「はい、痣です。ハルカ様・・あの偽ソフィーを・・見て頂けますか?」

「う、うん・・・。」

そしてエルヴィラは私の手を取ると、偽ソフィーが眠る病室へと飛んだ。



「ジェシカ・・・ッ!」

そこにいたのはマシューだった。
偽ソフーのベッドの側に椅子を持ってきて、ずっと彼女の手を両手で握り締めていたようだった。


「マシュー・・・・。ずっと・・・ここにいたの・・?」

すると黙って頷くマシュー。

「ジェシカ様・・・。」

エルヴィラが心配そうに声を掛けてきたが・・・・。でも私はもう大丈夫。

「マシュー。貴方は聖剣士なのに・・・『ワールズ・エンド』を守らないで・・・・・ずっと彼女の側に・・?」

「・・・。」

無言で頷くマシュー。
その顔は・・・苦しみに歪んでいる。

「自分でも・・・分からないんだ・・・。何故、彼女の側から離れる事が出来ないのか・・・。こんな事をしていてはいけない、俺も皆と一緒に『ワールズ・エンド』を守らなければいけないのは分かっているのに・・・。」

「マシュー・・・。席を外してくれる?エルヴィラも・・・。」

私は後ろに控えて居るエルヴィラに声を掛けた。

「ジェシカ様・・・?」

「彼女の様子を見たいの・・・。お願い、2人きりにさせて。」

マシューは少しためらいながらも・・・席を立って病室を出て行き、エルヴィラも後に続いた。

静かに扉が閉じられると、私はそっと偽ソフィーが眠り続けるベッドに近付いた―。



2

私はゆっくりと偽ソフィーが眠っているベッドへと近づき・・横たわっている彼女を見て息を飲んだ。
な・・・なんて事なの・・・!

偽ソフィーの顔には恐ろしい黒く細長い模様が幾筋にもわたり、浮かび上がっている。いや、それは顔だけに留まらなかった。
袖の下から見える手にも黒い模様が浮かび上がり・・・胸元や首筋にも浮かび上がっている。
恐らく洋服の下も模様が浮き出て・・・全身に恐ろしい模様が刻まれているのかもしれない。しかも良く見ると、黒い模様はまるで意思をもってるかのように蠢き・・・その度に身体に黒い模様が刻み込まれてゆく。

「う・・・っ!」

余りの恐ろしい光景に私は口元を押さえた。
一体これは何なの・・・・?何がこの偽ソフィーの身に起こっているというの・・?
まるで恐ろしい呪いのようにも見えたその時・・・。

「うう・・・・。」

ソフィーがゆっくり目を開けたのである。そして私を見ると言った。

「ジェ・・・・ジェシカ・・・・。よ・・よくも・・こ、この私に・・・こんな真似を・・・!」

え・・?何を言ってるの・・・?まさか・・・私が貴女をこんな目に遭わせたのだと言いたいの?
その時、私はもう1つ別の声が偽ソフィーの中から聞こえてくる事に気が付いた。

<ジェシカ・・・お願い・・助けて・・・・・。>

この声は・・・間違いないっ!この声こそ・・・本物の・・ソフィーの声だっ!

「ソフィー・・・。貴女・・・そんな所にいたのね・・?道理で今迄分からなかったはず・・・!」
待っていて、今すぐ貴女を助けてあげる!私の両手が突如、強く輝き始める。
私は光り輝く自分の両腕を高く掲げると、ソフィーの両手を指を絡ませるように繋いだ。そして念じる。
ソフィー・・・・!出て来て・・・っ!
そしてグイッと腕を引っ張り上げると・・・そこからまるで身体が分離するかのように、もう一人のソフィーが現れたのである。
そのソフィーは瞳を閉じてまるで眠っているかのように見えた。
ああ・・・ついに・・・ついに・・本物のソフィーが現れた。やっと会えた—!
そのまま私は偽ソフィーの中から聖女ソフィーを抱きかかえるように引きずり出し、勢い余って彼女を抱きかかえたまま床の上に倒れてしまった。

「い・・いたたた・・・。」
思わず顔をしかめると、私に抱きかかえられたソフィーがゆっくりと目を開けた。
ソフィーの瞳は・・・深い海のような神秘的な色を湛え、その瞳には私の顔がはっきりと映し出されている。

「ソフィー・・・。」

私は彼女の名を呼んだ。
するとソフィーは目に涙を浮かべて私に言った。

「ジェシカ・・・。やっと・・・やっと貴女に会えた・・ね・・・?」

そう言って私を強く抱きしめ、泣きだした。私も彼女につられ・・・2人で抱き合いながら・・・少しの間、涙した—。

その後、私とソフィーはベッドの上にいるソフィーを見て、息を飲んだ。
そこに横たわっていたのは先ほどまでの姿とは全くの別人の女性が眠っていたのである。そして・・彼女の顔や体には・・黒い縄の様な醜い模様が浮かび上がっている。

「ア・・・アメリア・・?」
そう、その姿は・・・今まで何度も見かけたあの女性の姿だったのだ。
しかし、ソフィーは言った。

「うううん・・・。彼女は私の幼馴染のジャニス・オルソン・・・。私はずっと・・ジャニスに身体を奪われていたの・・・。」

「ソフィー。色々話したいことは沢山あるけれど、今、実は大変な事が起こっていて・・・。」

「うん、知ってるわ。だって・・・私ずっとジャニスに囚われていたけれども・・・全て見ていたから・・。ジャニスが私の身体を使って・・酷い事を沢山して来た事も・・・そ、それに・・・色々な男の人達とも・・・。」

そこまで言うと、ソフィーは泣き崩れてしまった。
私は彼女をしっかり抱きしめると言った。

「大丈夫、貴女の身体は汚れていない。汚れたのは・・・ジャニスの方よ。ジャニスは貴女の身体を乗っ取ったわけじゃ無く、貴女の身体を吸収して・・・自分の身体を貴女と同じように作り替えたのよ。そして、色々な蛮行を重ねてきて・・ついにそのツケが回ってしまったのよ。」

「ジェシカ・・・・。」

ソフィーは目に涙を貯めて私を見た。

「私はアカシックレコードを持ってるの。だから・・・何でも分かるんだから。・・ね?」

「うん・・・!有難う、ジェシカ・・・ッ!」


その後―
私は部屋の外で待たせていたエルヴィラとマシューを部屋の中へと招き入れた。
エルヴィラは一目ソフィーを見ると、やはり聖女に間違いないと、ソフィーと握手を交わし、マシューは初めて真の聖女であるソフィーと対面したのだが・・・不思議な事にそこにはもう聖女に恋する目をしてはいなかった。

ひょっとすると、私がずっとソフィーの身体を奪っていたジャニスから取り返した時に、ジャニスの呪縛と言う呪いも解けたのかもしれない。


「ソフィー。祭壇に立って・・・貴女が真の聖女だと皆の前で宣言して。そうすればきっと皆の気持ちが一致団結して、門が直るまでの間・・魔物達と立ち向かえる原動力になるはずだから・・・っ!皆の先頭に立って指揮をして・・・!」

私はソフィーの肩に手を置くと言った。

「・・・分かったわ。ジェシカ・・・。」


その後―。
ソフィーが神殿に立つと、不思議な事にそれまで分厚い雲に覆われた空が晴れ渡り・・・一筋の光がソフィーに向かって降りそそいだ。
学生達は何事かと駆けつけ・・そこに光に包まれたソフィーを見て、彼女こそ本物の聖女だと誰もが認めた。
駆けつけた学生達の中にはアラン王子、デヴィット、ノア先輩、ダニエル先輩も含まれていて・・・誰もが聖女ソフィーの姿に釘付けになっている姿を私は壇上の陰から見守っていた。

ソフィーは聖女らしく堂々と、門を修復するまでの間、力を合わせて魔物達と立ち向かおうと協力を呼びかけ・・・誰もがそれに賛同した。


 ソフィー・・・。もう・・・大丈夫だよね・・・?
私は皆の声援に応えるソフィーに心の中で呼びかけると、振り向いた。
そこには・・私に使える偉大なる魔法使いエルヴィラがいる。

「・・・魔界へ・・・行くのですか?ハルカ様。」

そう、いつだって・・・エルヴィラは私と2人きりの時はハルカと呼んでくれた。
私の一番の理解者であり、仲間であり、一番の従者・・・。

「うん、行く。エルヴィラ・・・。私と一緒に魔界へ行ってくれる?」

「はい、ハルカ様。前回は・・・お1人で魔界へ行かせてしまいましたが・・・今回は別です。ハルカ様が向かう所はどんな場所でも御一緒致します。そして・・・必ずハルカ様の目的が達成出来るように・・・尽力を尽くします・・・。」

「ありがとう・・・エルヴィラ・・・。」

私はエルヴィラの手をしっかりと握り締めた—。



今、私とエルヴィラは『ワールズ・エンド』へ再びやって来ていた。
そして、そこには魔物を見張っているヴォルフの姿もある。

エルヴィラは私がヴォルフと話をしている姿を遠目から見守ってる。


「ジェシカ・・・魔界へ行くのか?」

ヴォルフが心配そうに私に尋ねる。

「うん、行って来る。ヴォルフ・・お願い。私が戻って来るまで・・・人間界にとどまって・・・ここを守ってくれる?」

「ああ。当たり前だ。お前の願いならどんな事だって聞いてやるぜ?」

ヴォルフはニヤリと笑った。

「有難う、ヴォルフ。それじゃ・・・行って来るね。」

するとヴォルフの腕が伸びてきて、次の瞬間私はヴォルフの腕の中にいた。

「ごめん・・ジェシカ。一緒に行けなくて・・・。」

ヴォルフは私を抱き締めながら言った。

「大丈夫・・・。私には心強い人が一緒について来てくれるから・・・・心配しないで。」

その時—。


「ジェシカ・・・。」

背後で私を呼ぶ声が聞こえた。

振り向くと、そこに立っていたのはマシューだった。


「マシュー・・・。」

私はヴォルフから離れると名前を呼んだ。するとヴォルフが言った。

「お前・・・完全に呪いが解けたみたいだな?仮面を被っていた男だろう?」

「え?ヴォルフ・・・知ってたの?」

「ああ。俺は魔族だ。同属の匂い位・・・嗅ぎ分けられるさ。最も半分は・・人間の様だけどな。」

「ああ・・・。俺は確かに半分・・・人間だよ。」

「マシュー。ひょっとして・・・ヴォルフと交代する為にここに来たの?」

「うん・・・。そうだよ。今までの俺は・・・聖剣士であるのに・・その役目を放棄してしまっていたからね。」

「そうかい、そう言う事なら遠慮なく変わって貰おうかな?俺も仮眠取りたてね。それじゃジェシカ・・・・。気をつけてな?」

「うん。今まで有難う、ヴォルフ。」

するとヴォルフはニヤリと笑みを浮かべると、転移魔法で一瞬で姿を消した。
ヴォルフが去った後、私はマシューを振り返ると言った。

「それじゃ、マシュー。魔物からしっかりこの世界を・・・守ってね。」

「あ、ああ・・・。分かったよ。」

そして背を向けて歩き出そうとした時・・・

「ジェシカッ!」

名前を呼ばれて振り向いた瞬間・・・マシューが私を抱きしめてきた。

「ジェシカ・・・。俺・・・さっきの男の言う通り・・・完全に呪いがとけたんだ・・。」

マシューは私の髪に顔を埋めながら囁くように語り掛けてきた。

「・・・。」
私は返事をしなかったが・・・そんな事は本物のソフィーを助け出したと時に分かっていた。

「ジェシカ・・・。君に酷い事をしてしまった事は・・・覚えているよ。・・本当にごめん。でも・・もしまだ許されるなら・・・。」

マシューの私を抱きしめる腕が強まって来る。彼の身体からは・・・かつて私が大好きだった匂いがする・・・。以前の私だったなら・・・喜んでマシューを受け入れていただろう。
だけど、もう・・・。

私は強くマシューの身体を押して、彼の腕から逃れた。

「ジェ・・・ジェシカ・・・?」

「確かに・・・かつての私は・・貴方の事を愛してた。魔界へ行って・・・必死の思いで帰って来たのも・・・ひょっとすると貴方が生きているかもしれないと思ったから・・。この世界に戻ってからも・・貴方の手掛かりをずっと探していて・・やっと会えた時には貴方は仮面を被せられ、何もかも失っていた事を知った時は・・・悲しくて・・泣いた事も沢山あったわ。」

マシューは黙って話を聞いている。

「仮面が外れるほんのわずかな時間・・貴方と初めて両思いになれて・・・私は本当に幸せだった。でも・・・もう・・・。」
私は俯くと言った。
「さよなら・・・、マシュー。私には貴方よりも大切な人が・・・出来たの。今度は彼を救わないと・・。エルヴィラッ!私を・・・魔界へ連れて行って!」

するとエルヴィラが一瞬で私の前に現れ・・・次の瞬間、私は見覚えのある場所に立っていた—。
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