里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
32 / 72

第32話 夜の叫び

しおりを挟む
「妻と息子はね、君との強引な離婚だけではなく、犯罪にも手を染めているんだよ」

義父はため息を付きながら言う。

「ええっ?!は、犯罪ですってっ?!ただでさえ私と離婚が成立していないうちからのお見合い…これだけでも十分犯罪ですよね?あ…でも実は今日、また一つデニムは犯罪を犯しましたよ」

すると私の言葉にロバートさんが何故か目をキラキラさせた。

「デニムの奴、どんな犯罪を犯したんですか?!」

「え……ひょっとしてロバートさんとデニムは知り合いですか?」

「ええ、もちろんですよ。何しろ僕はデニムとは同い年で、子供の頃から交流はありましたからね。だけどあいつは僕が平民で自分は貴族だからと言っていつもえばり散らしていました。本当に嫌な男ですよ」

ロバートさんはデニムの父親の前で平気で悪口を言っているが、義父は少しも気にしない様子で聞いている。

「それでフェリシア。デニムはどんな犯罪を犯したのだね?」

自分の息子がどのような犯罪を犯したのか、顔色一つ変えず尋ねてくる義父はかなりの大物かもしれない。

「はい、実は本日1回目のお見合いの席でデニムは見合い相手のマリア・クラウス令嬢とカードゲームで金銭を掛けていました。しかもマリア嬢は16歳です。保護者同伴でなければカジノにもいけないのに、デニムと2人きりでこの屋敷の『太陽の部屋』で賭博をしていたのです」

「ほう…そうだったのか。しかしクラウス伯爵からはそのような話は一度もでてこなかったな」

「それは当然の事ですよ。クラウス伯爵は口止めされたのですから。自分達さえ黙っていれば、バレることはないと思ったんでしょうね」

「クラウス伯爵ですか…。彼についてはあまりいい噂を聞かないですね。何でも非合法なカジノ経営に資金提供をしていると言われていますからね」

ロバートさんはすでにクラウス伯爵について調べ上げていたのか、ペラペラと書類をめくりながら言う。

「なるほど…フェリシアと離婚が成立していないうちから見合いをするデニムと、それを推し進める妻もどうかしているが、クラウス伯爵もなかなかの者だな。彼は我々に言ったのだよ。デニムが複数の女性たちと見合いをしていることをバラされたくなければ慰謝料を払ってくれと」

義父の言葉に耳を疑った。

「はぁ?!何ですかそれはっ?!」

「勿論妻とデニムは慌ててクラウス伯爵の脅しに屈して慰謝料をその場で支払ったよ。そしてもう二度と顔も見たくないからさっさと出ていってくれと彼らを部屋から追い出してしまったのだからね」

「全く…どっちもどっちですね。大人げない。クラウス伯爵も恐喝の罪を犯してるのですから」

ロバートさんは書類に新たになにか書き加えながら言う。しかし、クラウス伯爵もなかなか食えない男だ。娘が賭け事をしていたことには口を封じ、デニムの重複見合いについては恐喝をしてくるのだから。

「ところでフェリシアさん、クラウス伯爵が賭け事なんかしていないと証言してしまえばそれまでです。何か決定的な証拠でもあれば別ですが」

ロバートさんの質問に私は笑みを浮かべた。

「それならご心配なく。このお屋敷に務める使用人たちはみんな私の味方です。賭博をしていた証拠の写真も抑えていますし、彼らの交わした言葉もメモってますよ」

「素晴らしい!フェリシアさんは探偵になれそうですね!」

ロバートさんは手を叩いた。

「確かにこの屋敷の使用人たちは全員フェリシアを慕っているからね。何しろ彼らに給料を支払えるのは君の実家の援助のお陰なのだから」

「ええ。私と使用人たちの結束は硬いのです。」

「なるほどね…。しかし、本当にデニムと妻にはまいるよ。また3日後に見合いを入れているのだから」

「え?今日こんな目にあったのに、またしても見合いをするって言うんですかっ?!あの阿呆デニムはっ!!」

義父の前なのにデニムを阿呆呼ばわりしてしまった。しかし義父は少しも気にする素振りもなく言う。

「ああ、それでフェリシア…。君は一旦実家に戻ったほうが良いかもしれない」

「え…?何故ですか?」

「ああ、君から離婚届の書類が届かないことに業を煮やしたデニムが明日、君の実家に行くと言っているのだよ」

「な…何ですって~っ!!」

私は思わず叫んでいた―。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

「予備」として連れてこられた私が、本命を連れてきたと勘違いした王国の滅亡フラグを華麗に回収して隣国の聖女になりました

平山和人
恋愛
王国の辺境伯令嬢セレスティアは、生まれつき高い治癒魔法を持つ聖女の器でした。しかし、十年間の婚約期間の末、王太子ルシウスから「真の聖女は別にいる。お前は不要になった」と一方的に婚約を破棄されます。ルシウスが連れてきたのは、派手な加護を持つ自称「聖女」の少女、リリア。セレスティアは失意の中、国境を越えた隣国シエルヴァード帝国へ。 一方、ルシウスはセレスティアの地味な治癒魔法こそが、王国の呪いの進行を十年間食い止めていた「代替の聖女」の役割だったことに気づきません。彼の連れてきたリリアは、見かけの派手さとは裏腹に呪いを加速させる力を持っていました。 隣国でその真の力を認められたセレスティアは、帝国の聖女として迎えられます。王国が衰退し、隣国が隆盛を極める中、ルシウスはようやくセレスティアの真価に気づき復縁を迫りますが、後の祭り。これは、価値を誤認した愚かな男と、自分の力で世界を変えた本物の聖女の、代わりではなく主役になる物語です。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。

椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」 ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。 ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。 今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって? これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。 さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら? ――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

処理中です...