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第37話 デニムへのオーダーメニュー
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バアンッ!!
厨房のドアを大きく開け放つと私は言った。
「聞いて頂戴!厨房の皆っ!」
「おお!これは奥様、ようこそお越しいただきました。今日もお待ちしておりましたよ」
もはや私の腹心と化した厨房のシェフは笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
「いい?これからあの馬鹿はコネリー家用にカスタマイズされた乗り心地の良い馬車がメンテナンスの為に全て修理屋に預けてあるのを知らずに私の実家である『プライス家』に行こうとしてるのよ?何の為に行くと思う?」
すると1人の男性料理人が言った。
「まさか…奥様からの離婚届を直に取りに行く為…とかですか?」
「素晴らしい!正解よ!」
指をパチンと鳴らしながら私は言った。
「何と、しかもそれだけじゃないのよ?あの非常識男は勝手に離婚届を送りつけるという暴挙を犯しているのに、我が実家で夕食を食べて帰るつもりなのだから常識を疑ってしまうわ。いえ、そもそも元々我が家は貴族で無いから端から馬鹿にしている証拠かもしれないわ!」
すると私の言葉に腹心シェフがうなずく。
「なるほど…その可能性はありますね。何しろこのコネリー家は貧乏貴族で奥様がお嫁に来るまでは我々使用人に給金すら支払えず、ストライキまで起こさせた事があるほどなのです。そこへ奥様がお嫁に来ていただいたお陰で、我らの給金も滞る事無く支払って頂けるようになったと言うのに…。身の程知らずの恩知らず共ですね」
おお!最近のシェフは私に感化されてか、平気で毒舌を吐くようになってきた。実に頼もしい。
「それでまだ続きがあるのよ。あの阿呆、給仕をしていた私になんて言ったと思う?」
「何と言ってきたのですか?」
見習い料理人のパーシーが尋ねてきた。
「よくぞ、聞いてくれたわ。あの阿呆は私に『おい、メイド、これから出掛ける準備をするから馬車の中で食べられるスイーツと飲み物を用意しておけ』って言ったのよ!」
デニムのものまねをしながらいう。
「まあ!何て高飛車な態度なのでしょうね?!」
いつの間に現れたのか、メイドのクララが憤慨したように言う。
「ええ、だから私デニムの為にとっておきのスペシャルドリンク&スペシャルフードを考えついたのよ。シェフ!協力してくれるわよね?」
「ええ、まずデニムのオヤツには『ジンジャークッキー』をお願い、勿論生姜は通常の量より増々でお願いね?」
「はい、勿論でございます。ではお飲み物はどうしましょうか?」
「そうね、飲み物は苦味が強いドクダミティーにしてもらおうかしら。勿論これもドクダミを増量でお願い!」
「かしこまりました!すぐにご用意致しますね!」
途端に厨房は慌ただしくなる。
「みんな、それじゃ私はちょっとデニムの様子を見てくるからお願いね」
『はい!』
厨房の全員が一斉に返事をする。私は皆に見送られながら厨房を後にした。
****
鼻歌まじりに廊下を歩いていると、義父の執務室の前を通った。するとそこにいたのは義父の甥っ子であるロバートさんが忙しそうに机の前に座って仕事をしている。
コンコン
ノックをしながら部屋に入ると、ロバートさんが顔を上げた。
「こんにちは、ロバートさん」
「ああ、こんにちは。フェリシアさん」
「随分お忙しそうですね」
「ええ、そうなんですよ。本来僕は弁護士と言っても法務弁護士なので会計がメインなので義父の領地経営の仕事を手伝っているんです」
「そうなのですか?私、夜ならお仕事手伝えますよ?」
「本当ですか?助かります!是非お願いしますよ」
ロバートさんがニコニコしながら握手を求めてきた。
「ええ!お任せ下さい!」
私達は握手をしっかり交わすと、ロバートさんに言った。
「それでは私はデニムの様子を覗いてくるので、失礼しますね」
そして踵を返して出ていこうとした。
「フェリシアさん」
「はい、何でしょう?」
振り向くとそこには笑顔のロバートさんが立っていた。
「デニムに貴女みたいな素敵な女性はもったいないと思いますよ?あの時、初めて貴女を見たときからそう思っていましたから」
「は、はあ…?ありがとうございます」
改めて一礼すると、私は部屋を出て行った。
そして長い廊下を歩きながら考えた。
あの時…?前にも何処かで彼に会ったことがあるのだろうか―?
厨房のドアを大きく開け放つと私は言った。
「聞いて頂戴!厨房の皆っ!」
「おお!これは奥様、ようこそお越しいただきました。今日もお待ちしておりましたよ」
もはや私の腹心と化した厨房のシェフは笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
「いい?これからあの馬鹿はコネリー家用にカスタマイズされた乗り心地の良い馬車がメンテナンスの為に全て修理屋に預けてあるのを知らずに私の実家である『プライス家』に行こうとしてるのよ?何の為に行くと思う?」
すると1人の男性料理人が言った。
「まさか…奥様からの離婚届を直に取りに行く為…とかですか?」
「素晴らしい!正解よ!」
指をパチンと鳴らしながら私は言った。
「何と、しかもそれだけじゃないのよ?あの非常識男は勝手に離婚届を送りつけるという暴挙を犯しているのに、我が実家で夕食を食べて帰るつもりなのだから常識を疑ってしまうわ。いえ、そもそも元々我が家は貴族で無いから端から馬鹿にしている証拠かもしれないわ!」
すると私の言葉に腹心シェフがうなずく。
「なるほど…その可能性はありますね。何しろこのコネリー家は貧乏貴族で奥様がお嫁に来るまでは我々使用人に給金すら支払えず、ストライキまで起こさせた事があるほどなのです。そこへ奥様がお嫁に来ていただいたお陰で、我らの給金も滞る事無く支払って頂けるようになったと言うのに…。身の程知らずの恩知らず共ですね」
おお!最近のシェフは私に感化されてか、平気で毒舌を吐くようになってきた。実に頼もしい。
「それでまだ続きがあるのよ。あの阿呆、給仕をしていた私になんて言ったと思う?」
「何と言ってきたのですか?」
見習い料理人のパーシーが尋ねてきた。
「よくぞ、聞いてくれたわ。あの阿呆は私に『おい、メイド、これから出掛ける準備をするから馬車の中で食べられるスイーツと飲み物を用意しておけ』って言ったのよ!」
デニムのものまねをしながらいう。
「まあ!何て高飛車な態度なのでしょうね?!」
いつの間に現れたのか、メイドのクララが憤慨したように言う。
「ええ、だから私デニムの為にとっておきのスペシャルドリンク&スペシャルフードを考えついたのよ。シェフ!協力してくれるわよね?」
「ええ、まずデニムのオヤツには『ジンジャークッキー』をお願い、勿論生姜は通常の量より増々でお願いね?」
「はい、勿論でございます。ではお飲み物はどうしましょうか?」
「そうね、飲み物は苦味が強いドクダミティーにしてもらおうかしら。勿論これもドクダミを増量でお願い!」
「かしこまりました!すぐにご用意致しますね!」
途端に厨房は慌ただしくなる。
「みんな、それじゃ私はちょっとデニムの様子を見てくるからお願いね」
『はい!』
厨房の全員が一斉に返事をする。私は皆に見送られながら厨房を後にした。
****
鼻歌まじりに廊下を歩いていると、義父の執務室の前を通った。するとそこにいたのは義父の甥っ子であるロバートさんが忙しそうに机の前に座って仕事をしている。
コンコン
ノックをしながら部屋に入ると、ロバートさんが顔を上げた。
「こんにちは、ロバートさん」
「ああ、こんにちは。フェリシアさん」
「随分お忙しそうですね」
「ええ、そうなんですよ。本来僕は弁護士と言っても法務弁護士なので会計がメインなので義父の領地経営の仕事を手伝っているんです」
「そうなのですか?私、夜ならお仕事手伝えますよ?」
「本当ですか?助かります!是非お願いしますよ」
ロバートさんがニコニコしながら握手を求めてきた。
「ええ!お任せ下さい!」
私達は握手をしっかり交わすと、ロバートさんに言った。
「それでは私はデニムの様子を覗いてくるので、失礼しますね」
そして踵を返して出ていこうとした。
「フェリシアさん」
「はい、何でしょう?」
振り向くとそこには笑顔のロバートさんが立っていた。
「デニムに貴女みたいな素敵な女性はもったいないと思いますよ?あの時、初めて貴女を見たときからそう思っていましたから」
「は、はあ…?ありがとうございます」
改めて一礼すると、私は部屋を出て行った。
そして長い廊下を歩きながら考えた。
あの時…?前にも何処かで彼に会ったことがあるのだろうか―?
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