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第45話 厨房での会話
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「みんな、ただいま!」
バンッ
思い切り厨房のドアを開けると、ガラガラとワゴンを押しながら私は厨房の中へ入ってきた。
「奥様、どうされたのですか?何だかご機嫌斜めのように見えますが…うまくいかなかったのですか?」
シェフが心配そうに私の元へやってくると尋ねてきた。
「いいえ、そんな事は無いわ。すごくうまくいったわ。デニムのやつ、クッキーとお茶を悶絶しながら口に入れていたわ。大成功よ」
「なら何故その様にご機嫌斜めなのですか?」
パーシーがやってきた。
「それが聞いて頂戴よ」
私は近くに置いてあった椅子に座ると、厨房で働いていた料理人たちが全員集まってきた。
「一体何があったのですか?」
シェフが再度尋ねてきたので私は言った。
「あの阿呆デニム、お茶のセットを片付けて部屋を出ようとした私を呼び止めてきたのよ。それで何て声を掛けてきたと思う?」
「何と声を掛けられたのですか?」
隣りに座っていた男性料理人が尋ねてきた。
「おまえいくつだ?って聞いてきたのよ?仮にも自分の妻に!あのクズ男…未だに私の正体に気付いていないのよ?!何処まで鈍い男なのかしら?!」
途端に周囲でざわめきが起こった。
「信じられん…」
「やはり頭の中は脳内お花畑だ…」
「いやいや、カードゲームしか考えていないんだよ」
「全く、何処までも鈍いお方だ…」
私は彼らのざわめきが収まるのを待った。うん、彼らの中のデニムの評価はやはり底辺だということが今のざわめきでよく分かった。
「奥様、それで正直に答えられたのですか?」
シェフが手を上げて尋ねてきた。
「ええ、勿論よ。別に嘘つく必要は無いからね。正直に24歳ですけど?って答えたわ。そしたらあいつったら『はあ?!年増じゃないかっ!』って言ったのよ?仮にもこの私に!」
私は近くにあったテーブルをバンバン叩きながら言った。
『…』
私の言葉に彼らは絶句した。全く本当に失礼極まりない男だ。冗談じゃない、私はまだ24歳。デニムよりも若いのだ。年増などと言われる筋合いはこれっぽちも無い。
「だから私は言ってやったわ。『そうでしょうか…?あまり自分の事を年増だと感じたことはありませんけど?』ってね!」
するとその時、いつの間にかパーシーがグラスに注いだ水を用意してくれていたのか、私の前に差し出してきた。
「奥様、まずは落ち着いてお水でも飲んでみましょうか?」
「あら、ありがとう。気が利くわね」
コップを受け取り、水を一気にぐいっと飲むと少し気分が落ち着いてきた。
「それで部屋を出ていこうとしたら、また人のこと『おい、待て』って呼び止めたんだから!」
「今度はどんな要件で呼び止めたんです?」
シェフの問に私はポンと膝を叩くと言った。
「『お前、恋人はいるのか?』って尋ねてきたんだから!」
「えええっ!!そ、そんな事を聞いてきたんですか?!」
シェフが身体をのけぞらせた。
「そうよ!全くわけがわからない…」
私は腕組みしながら唸っていると、何やら周囲では皆がコソコソ話している。
「まさか…?」
「いやいや、いくら何でも…」
「だけど、普通そんな事を尋ねてくるか?」
「それじゃ、やはり…?」
「ねえ?なあに?皆何をコソコソ話しているの?私にも教えて?」
彼らに尋ねると、全員何故かビクリと肩を浮かせた。そしてチラチラ目配せしあっている。やがて、覚悟を決めたのかシェフがコホンと咳払いした。
「あの…奥様。大変申し上げにくいのですが…」
「何かしら?」
「ひょっとしてデニム様はメイド姿の奥様に恋をしたのでは…?」
は?
「いやね~そんなはず無いでしょう?あのデニムが!今まで私に一切見向きもしなかったんだからそんなはずないでしょう?!」
私はシェフの言葉を笑い飛ばすのだった―。
バンッ
思い切り厨房のドアを開けると、ガラガラとワゴンを押しながら私は厨房の中へ入ってきた。
「奥様、どうされたのですか?何だかご機嫌斜めのように見えますが…うまくいかなかったのですか?」
シェフが心配そうに私の元へやってくると尋ねてきた。
「いいえ、そんな事は無いわ。すごくうまくいったわ。デニムのやつ、クッキーとお茶を悶絶しながら口に入れていたわ。大成功よ」
「なら何故その様にご機嫌斜めなのですか?」
パーシーがやってきた。
「それが聞いて頂戴よ」
私は近くに置いてあった椅子に座ると、厨房で働いていた料理人たちが全員集まってきた。
「一体何があったのですか?」
シェフが再度尋ねてきたので私は言った。
「あの阿呆デニム、お茶のセットを片付けて部屋を出ようとした私を呼び止めてきたのよ。それで何て声を掛けてきたと思う?」
「何と声を掛けられたのですか?」
隣りに座っていた男性料理人が尋ねてきた。
「おまえいくつだ?って聞いてきたのよ?仮にも自分の妻に!あのクズ男…未だに私の正体に気付いていないのよ?!何処まで鈍い男なのかしら?!」
途端に周囲でざわめきが起こった。
「信じられん…」
「やはり頭の中は脳内お花畑だ…」
「いやいや、カードゲームしか考えていないんだよ」
「全く、何処までも鈍いお方だ…」
私は彼らのざわめきが収まるのを待った。うん、彼らの中のデニムの評価はやはり底辺だということが今のざわめきでよく分かった。
「奥様、それで正直に答えられたのですか?」
シェフが手を上げて尋ねてきた。
「ええ、勿論よ。別に嘘つく必要は無いからね。正直に24歳ですけど?って答えたわ。そしたらあいつったら『はあ?!年増じゃないかっ!』って言ったのよ?仮にもこの私に!」
私は近くにあったテーブルをバンバン叩きながら言った。
『…』
私の言葉に彼らは絶句した。全く本当に失礼極まりない男だ。冗談じゃない、私はまだ24歳。デニムよりも若いのだ。年増などと言われる筋合いはこれっぽちも無い。
「だから私は言ってやったわ。『そうでしょうか…?あまり自分の事を年増だと感じたことはありませんけど?』ってね!」
するとその時、いつの間にかパーシーがグラスに注いだ水を用意してくれていたのか、私の前に差し出してきた。
「奥様、まずは落ち着いてお水でも飲んでみましょうか?」
「あら、ありがとう。気が利くわね」
コップを受け取り、水を一気にぐいっと飲むと少し気分が落ち着いてきた。
「それで部屋を出ていこうとしたら、また人のこと『おい、待て』って呼び止めたんだから!」
「今度はどんな要件で呼び止めたんです?」
シェフの問に私はポンと膝を叩くと言った。
「『お前、恋人はいるのか?』って尋ねてきたんだから!」
「えええっ!!そ、そんな事を聞いてきたんですか?!」
シェフが身体をのけぞらせた。
「そうよ!全くわけがわからない…」
私は腕組みしながら唸っていると、何やら周囲では皆がコソコソ話している。
「まさか…?」
「いやいや、いくら何でも…」
「だけど、普通そんな事を尋ねてくるか?」
「それじゃ、やはり…?」
「ねえ?なあに?皆何をコソコソ話しているの?私にも教えて?」
彼らに尋ねると、全員何故かビクリと肩を浮かせた。そしてチラチラ目配せしあっている。やがて、覚悟を決めたのかシェフがコホンと咳払いした。
「あの…奥様。大変申し上げにくいのですが…」
「何かしら?」
「ひょっとしてデニム様はメイド姿の奥様に恋をしたのでは…?」
は?
「いやね~そんなはず無いでしょう?あのデニムが!今まで私に一切見向きもしなかったんだからそんなはずないでしょう?!」
私はシェフの言葉を笑い飛ばすのだった―。
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