11 / 14
第11話 お前なんか、認めない
しおりを挟む
その日の夕食の席――
「ハァ~……疲れた……」
ヘンリーはため息をつきながら、フォークに刺した肉を口に運ぶ。彼の眼前にはすまし顔のジャンヌがフォークとナイフで肉を切り分けていた。
「全く、シケた女だ。笑顔もないし、可愛げもない。おまけにメガネで黒髪ひっつめ女なんて最悪だ」
「旦那様、全て聞こえておりますよ?」
ジャンヌは無表情のままナイフを皿の上に置いた。
「ああ、そうかい。聞こえるように言ってるんだから当然だ。大体俺は昨夜は一睡も寝てないんだよ。だから家に帰ったら昼寝をしようかと思っていたのに、仕事をさせやがって」
ヘンリーはワインの入ったグラスを煽るように飲み干した。
「そうですか。昨夜はそれほどお楽しみの夜だったようですね? ブロンド美女との一夜は楽しめましたか?」
「ゴフッ!」
ジャンヌの言葉に、危うくヘンリーはワインを吹き出しそうになった。
「お、お、お前……な、何故そのことを知っているんだ!?」
「知られていないと考えるほうがどうかと思いますが? 『イナカ』は全住民322人の小さな領地。経営されている酒場は2軒のみ。領民全員が顔見知りの状態で、知られるはず無いと考えている方がおかしいです」
「だ、だから何だって言うんだ!? 俺はお前なんか妻だと認めていない! 何処の女と遊ぼうが自由だろう!?」
「……これは驚きました。開き直りましたね……婚姻届にサインしたのは旦那様です。私を妻だと認めているよなうなものではありませんか?」
大げさに肩を竦めるジャンヌにヘンリーの苛立ちは増す。
「違う! あれは罠だ、策略だ! 親父の陰謀に巻き込まれたんだよ!」
そしてガタンと乱暴に席を立った。
「旦那様? どちらへ行かれるのですか? まだ食事は終わっておりませんが?」
「お前の顔なんか見てたら食欲だって失せるわ! 俺はもう休ませて貰う!」
大股でダイニングルームを出ていこうとする。
「そうですか、ではお休みになられたら私の寝室へお越し下さい。お待ちしておりますので」
「はぁ!? 何を待つって!?」
グルリと振り向くヘンリー。
「決まっているではありませんか? 私達は新婚夫婦なのですよ? 夜、寝室ですることと言えば一つです」
「何だって!? お前と夜の営みなんかするはずないだろう!? 冗談は鏡を見て言え!」
吐き捨てるように言うと、今度こそヘンリーは出ていってしまった。
「……」
1人になると、ジャンヌはスカートのポケットから小さな手帳を書くとメモし始めた。
「これで、また一つ報告する内容が増えたわね」
ジャンヌは妖艶な笑みを浮かべ、メガネをはずした――
その夜、言葉通りヘンリーがジャンヌの寝室を訪れることは無かった。
****
翌日から、ヤケを起こしたヘンリーは一切の仕事を拒否した。いや、それどころかジャンヌを徹底的に無視することにした。
そこでジャンヌは一切の仕事を引き受け、食事は全て1人でとるようになった。
「ジャンヌ様……本当にヘンリー様に仕事を手伝っていただかなくて大丈夫なのですか?」
書斎で仕事をしているヘンリーは心配そうにジャンヌに尋ねた。
「ええ、いいのです。本人のやる気が出なければ、領地経営の仕事など無理ですから。でも、どうか旦那様のお世話のボイコットはしないでくださいね? あの方は仮にもここ『イナカ』の領主なのですから。今は私のことも仕事も拒否されていますが、きっといつかは目が覚めてくれると信じています」
「うっ……な、なんて健気な奥様なのでしょう。分かりました! ヘンリー様のお世話は我々がきちんと行っておりますので心配なさらないで下さい」
「ええ。ありがとう」
ジャンヌは笑顔を見せると、再び仕事に没頭した。
やがて彼女の頑張りのおかげか、『イナカ』の暮らしは改善されていった。
その噂は近隣の村にも知れ渡り、『イナカ』に移り住む人々も増えていったのだった。
けれど、全ての仕事をボイコットしたヘンリーはそのような事実は知らない。
毎日毎日フラフラと出歩き、遊んで暮らす怠惰な生活をする彼には領地のことなど関係ない話だったからだ。
そんなある日。
ヘンリーとジャンヌの関係を揺るがす案件が勃発した――
「ハァ~……疲れた……」
ヘンリーはため息をつきながら、フォークに刺した肉を口に運ぶ。彼の眼前にはすまし顔のジャンヌがフォークとナイフで肉を切り分けていた。
「全く、シケた女だ。笑顔もないし、可愛げもない。おまけにメガネで黒髪ひっつめ女なんて最悪だ」
「旦那様、全て聞こえておりますよ?」
ジャンヌは無表情のままナイフを皿の上に置いた。
「ああ、そうかい。聞こえるように言ってるんだから当然だ。大体俺は昨夜は一睡も寝てないんだよ。だから家に帰ったら昼寝をしようかと思っていたのに、仕事をさせやがって」
ヘンリーはワインの入ったグラスを煽るように飲み干した。
「そうですか。昨夜はそれほどお楽しみの夜だったようですね? ブロンド美女との一夜は楽しめましたか?」
「ゴフッ!」
ジャンヌの言葉に、危うくヘンリーはワインを吹き出しそうになった。
「お、お、お前……な、何故そのことを知っているんだ!?」
「知られていないと考えるほうがどうかと思いますが? 『イナカ』は全住民322人の小さな領地。経営されている酒場は2軒のみ。領民全員が顔見知りの状態で、知られるはず無いと考えている方がおかしいです」
「だ、だから何だって言うんだ!? 俺はお前なんか妻だと認めていない! 何処の女と遊ぼうが自由だろう!?」
「……これは驚きました。開き直りましたね……婚姻届にサインしたのは旦那様です。私を妻だと認めているよなうなものではありませんか?」
大げさに肩を竦めるジャンヌにヘンリーの苛立ちは増す。
「違う! あれは罠だ、策略だ! 親父の陰謀に巻き込まれたんだよ!」
そしてガタンと乱暴に席を立った。
「旦那様? どちらへ行かれるのですか? まだ食事は終わっておりませんが?」
「お前の顔なんか見てたら食欲だって失せるわ! 俺はもう休ませて貰う!」
大股でダイニングルームを出ていこうとする。
「そうですか、ではお休みになられたら私の寝室へお越し下さい。お待ちしておりますので」
「はぁ!? 何を待つって!?」
グルリと振り向くヘンリー。
「決まっているではありませんか? 私達は新婚夫婦なのですよ? 夜、寝室ですることと言えば一つです」
「何だって!? お前と夜の営みなんかするはずないだろう!? 冗談は鏡を見て言え!」
吐き捨てるように言うと、今度こそヘンリーは出ていってしまった。
「……」
1人になると、ジャンヌはスカートのポケットから小さな手帳を書くとメモし始めた。
「これで、また一つ報告する内容が増えたわね」
ジャンヌは妖艶な笑みを浮かべ、メガネをはずした――
その夜、言葉通りヘンリーがジャンヌの寝室を訪れることは無かった。
****
翌日から、ヤケを起こしたヘンリーは一切の仕事を拒否した。いや、それどころかジャンヌを徹底的に無視することにした。
そこでジャンヌは一切の仕事を引き受け、食事は全て1人でとるようになった。
「ジャンヌ様……本当にヘンリー様に仕事を手伝っていただかなくて大丈夫なのですか?」
書斎で仕事をしているヘンリーは心配そうにジャンヌに尋ねた。
「ええ、いいのです。本人のやる気が出なければ、領地経営の仕事など無理ですから。でも、どうか旦那様のお世話のボイコットはしないでくださいね? あの方は仮にもここ『イナカ』の領主なのですから。今は私のことも仕事も拒否されていますが、きっといつかは目が覚めてくれると信じています」
「うっ……な、なんて健気な奥様なのでしょう。分かりました! ヘンリー様のお世話は我々がきちんと行っておりますので心配なさらないで下さい」
「ええ。ありがとう」
ジャンヌは笑顔を見せると、再び仕事に没頭した。
やがて彼女の頑張りのおかげか、『イナカ』の暮らしは改善されていった。
その噂は近隣の村にも知れ渡り、『イナカ』に移り住む人々も増えていったのだった。
けれど、全ての仕事をボイコットしたヘンリーはそのような事実は知らない。
毎日毎日フラフラと出歩き、遊んで暮らす怠惰な生活をする彼には領地のことなど関係ない話だったからだ。
そんなある日。
ヘンリーとジャンヌの関係を揺るがす案件が勃発した――
66
あなたにおすすめの小説
【完結】なんで、あなたが王様になろうとしているのです?そんな方とはこっちから婚約破棄です。
西東友一
恋愛
現国王である私のお父様が病に伏せられました。
「はっはっはっ。いよいよ俺の出番だな。みなさま、心配なさるなっ!! ヴィクトリアと婚約関係にある、俺に任せろっ!!」
わたくしと婚約関係にあった貴族のネロ。
「婚約破棄ですわ」
「なっ!?」
「はぁ・・・っ」
わたくしの言いたいことが全くわからないようですね。
では、順を追ってご説明致しましょうか。
★★★
1万字をわずかに切るぐらいの量です。
R3.10.9に完結予定です。
ヴィクトリア女王やエリザベス女王とか好きです。
そして、主夫が大好きです!!
婚約破棄ざまぁの発展系かもしれませんし、後退系かもしれません。
婚約破棄の王道が好きな方は「箸休め」にお読みください。
望まない相手と一緒にいたくありませんので
毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。
一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。
私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
オネェ系公爵子息はたからものを見つけた
有川カナデ
恋愛
レオンツィオ・アルバーニは可愛いものと美しいものを愛する公爵子息である。ある日仲の良い令嬢たちから、第三王子とその婚約者の話を聞く。瓶底眼鏡にぎちぎちに固く結ばれた三編み、めいっぱい地味な公爵令嬢ニナ・ミネルヴィーノ。分厚い眼鏡の奥を見たレオンツィオは、全力のお節介を開始する。
いつも通りのご都合主義。ゆるゆる楽しんでいただければと思います。
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
今さら泣きついても遅いので、どうかお静かに。
有賀冬馬
恋愛
「平民のくせに」「トロくて邪魔だ」──そう言われ続けてきた王宮の雑用係。地味で目立たない私のことなんて、誰も気にかけなかった。
特に伯爵令嬢のルナは、私の幸せを邪魔することばかり考えていた。
けれど、ある夜、怪我をした青年を助けたことで、私の運命は大きく動き出す。
彼の正体は、なんとこの国の若き国王陛下!
「君は私の光だ」と、陛下は私を誰よりも大切にしてくれる。
私を虐げ、利用した貴族たちは、今、悔し涙を流している。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる