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4章 1 発端
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季節は11月に入り、寒さが厳しくなってきた。
山脈の山頂付近は雪に覆われ、赤い葉をつけていた木々は全ての葉を落とし、殺風景な景色に成り代わっている。
いよいよ冬が近づいてきたのだ――
****
「う~ん……困ったわ……」
私は暖炉の前で腕組みしていると、2階から降りてきたビリーが声をかけてきた。
「お姉ちゃん、それじゃ行ってくるね」
「あ、もう時間なのね? 行ってらっしゃい。あら? ビリー。その恰好寒く無いの?」
防寒着姿のビリーは弓矢を背負っている。
「うん、寒くないけど?」
「駄目よ、森の中は寒いのよ。もっと温かい恰好をしなくちゃ」
部屋の片隅に置いたチェストから耳当てがついた青い毛糸の帽子を取り出すとビリーに被せた。
「はい、これでいいわ。帽子を被るだけでも温かいでしょう?」
「うん……温かいね。この帽子、どうしたの?」
「フフ。この帽子は私がビリーの為に編んだのよ」
「え!? 僕の為に!?」
ビリーは大きな目で私を見つめてくる。
「そうよ。毎日少しずつ編んでいたの。昨日やっと編み終わったのよ」
「そうだったんだ……ありがとう、お姉ちゃん。僕、この帽子大切にするよ!」
「気にいって貰えて良かったわ。ところでビリー。本当に今日、森へ行くの?」
今日は本格的な冬を迎える為に、男性達が森に入って狩をする日。
大人や男手の無い家庭では狩で仕留めた肉を分けて貰えることになっているのだが、ビリーは自分も狩に行くと言いだしたのだ。
「うん。行ってくるよ。最近、弓矢の腕が上達したって大人たちから褒められているし。お姉ちゃんの為に、大きな鹿を仕留めてくるからね」
「だけど心配だわ。いくら森には危険生物はいないと言われているけど、弓矢で狩をするなんて……大人の男の人達に任せればいいのに」
ビリーには危ない目に遭って欲しくはなかった。然も最近、森で奇妙な音が聞こえてくると言った話も耳にしている。
「それじゃ駄目なんだよ。僕は男だから、お姉ちゃんの力になりたいんだ!」
いつになく、強い口調で訴えるビリー。
「……分かったわ。そこまで言うなら、もう止めないわ。それじゃ、ビリーのお土産を家で待っているから」
例え獲物を1つも仕留められなくても、ビリーが元気に帰ってくればそれで十分だ。
「うん、任せてよ。ところでお姉ちゃん、暖炉の前で何していたの?」
「それが、暖炉に薪をくべようとしていたら、火が消えていたのよ。それで火をつけようと思っていたらマッチが無くて」
私としたことがうっかりしていた。今迄マッチを欠かしたことは無いのに。
「え? それじゃ火を点けられないの?」
ビリーが暖炉を覗き込む。
「つけられなくはないわ。一応、予備で火打石はあるから。少し時間はかかるけれどね」
「そうなんだ……」
「でも時間はかかっても火打石を使わなくちゃね。暖炉が無いと、寒くて凍えてしまうわ。私は大丈夫だから、早く出掛けなさい」
「うん……でも灰の中に火種が残っていればいいのに」
ビリーが灰の中に手を入れた時。
ボッ!
突然小さな爆発音と共に火がついた。
「ええっ!? 火だわ! もしかしてビリーがやったの?」
「え? ぼ、僕にも分からないよ! ただ、火がつけばいいなって思っただけなんだよ? 一体何が起きたんだろう?」
オロオロしながら答えるビリー。
ビリーは本当に心当たりが無いようだった。それではもしかすると、静電気が起こって発火したのかもしれない。
「ありがとう、ビリー。貴方のお陰で暖炉に火がついたわ。皆を待たせるといけないから、もう行った方がいいわ」
「うん、そうだね!」
****
ビリーを見送る為、私は外に出ていた。
「お姉ちゃん、それじゃ行ってくるね」
「ええ、行ってらっしゃい、ビリー。頑張ってね?」
「うん!」
ビリーは大きく頷くと、小走りで広場へ向かって駆けていく。
小さくなる背中を私はいつまでも見送っていた。
これが……ビリーを見る最後になるとは思いもせずに――
山脈の山頂付近は雪に覆われ、赤い葉をつけていた木々は全ての葉を落とし、殺風景な景色に成り代わっている。
いよいよ冬が近づいてきたのだ――
****
「う~ん……困ったわ……」
私は暖炉の前で腕組みしていると、2階から降りてきたビリーが声をかけてきた。
「お姉ちゃん、それじゃ行ってくるね」
「あ、もう時間なのね? 行ってらっしゃい。あら? ビリー。その恰好寒く無いの?」
防寒着姿のビリーは弓矢を背負っている。
「うん、寒くないけど?」
「駄目よ、森の中は寒いのよ。もっと温かい恰好をしなくちゃ」
部屋の片隅に置いたチェストから耳当てがついた青い毛糸の帽子を取り出すとビリーに被せた。
「はい、これでいいわ。帽子を被るだけでも温かいでしょう?」
「うん……温かいね。この帽子、どうしたの?」
「フフ。この帽子は私がビリーの為に編んだのよ」
「え!? 僕の為に!?」
ビリーは大きな目で私を見つめてくる。
「そうよ。毎日少しずつ編んでいたの。昨日やっと編み終わったのよ」
「そうだったんだ……ありがとう、お姉ちゃん。僕、この帽子大切にするよ!」
「気にいって貰えて良かったわ。ところでビリー。本当に今日、森へ行くの?」
今日は本格的な冬を迎える為に、男性達が森に入って狩をする日。
大人や男手の無い家庭では狩で仕留めた肉を分けて貰えることになっているのだが、ビリーは自分も狩に行くと言いだしたのだ。
「うん。行ってくるよ。最近、弓矢の腕が上達したって大人たちから褒められているし。お姉ちゃんの為に、大きな鹿を仕留めてくるからね」
「だけど心配だわ。いくら森には危険生物はいないと言われているけど、弓矢で狩をするなんて……大人の男の人達に任せればいいのに」
ビリーには危ない目に遭って欲しくはなかった。然も最近、森で奇妙な音が聞こえてくると言った話も耳にしている。
「それじゃ駄目なんだよ。僕は男だから、お姉ちゃんの力になりたいんだ!」
いつになく、強い口調で訴えるビリー。
「……分かったわ。そこまで言うなら、もう止めないわ。それじゃ、ビリーのお土産を家で待っているから」
例え獲物を1つも仕留められなくても、ビリーが元気に帰ってくればそれで十分だ。
「うん、任せてよ。ところでお姉ちゃん、暖炉の前で何していたの?」
「それが、暖炉に薪をくべようとしていたら、火が消えていたのよ。それで火をつけようと思っていたらマッチが無くて」
私としたことがうっかりしていた。今迄マッチを欠かしたことは無いのに。
「え? それじゃ火を点けられないの?」
ビリーが暖炉を覗き込む。
「つけられなくはないわ。一応、予備で火打石はあるから。少し時間はかかるけれどね」
「そうなんだ……」
「でも時間はかかっても火打石を使わなくちゃね。暖炉が無いと、寒くて凍えてしまうわ。私は大丈夫だから、早く出掛けなさい」
「うん……でも灰の中に火種が残っていればいいのに」
ビリーが灰の中に手を入れた時。
ボッ!
突然小さな爆発音と共に火がついた。
「ええっ!? 火だわ! もしかしてビリーがやったの?」
「え? ぼ、僕にも分からないよ! ただ、火がつけばいいなって思っただけなんだよ? 一体何が起きたんだろう?」
オロオロしながら答えるビリー。
ビリーは本当に心当たりが無いようだった。それではもしかすると、静電気が起こって発火したのかもしれない。
「ありがとう、ビリー。貴方のお陰で暖炉に火がついたわ。皆を待たせるといけないから、もう行った方がいいわ」
「うん、そうだね!」
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ビリーを見送る為、私は外に出ていた。
「お姉ちゃん、それじゃ行ってくるね」
「ええ、行ってらっしゃい、ビリー。頑張ってね?」
「うん!」
ビリーは大きく頷くと、小走りで広場へ向かって駆けていく。
小さくなる背中を私はいつまでも見送っていた。
これが……ビリーを見る最後になるとは思いもせずに――
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