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4章 8 混乱
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ぼんやりと暖炉の炎を見つめていると、ブリキのバケツを持ったビルが戻ってきた。
「リア、温泉を汲んできた。ここに足を入れるといい」
バケツの中には温泉の湯が満たされている。無言で素足をバケツの中に足を入れると冷え切ってジンジンした足が温まってゆく。
「……温かいわ……」
「そうか、良かった……とにかく、裸足で歩き回るのはもうやめてくれ。もう11月なんだ。『ルーズ』がどれ程寒い場所か、分かっているだろう? もう少し足を温めていた方がいい」
「ええ……」
「それより、リア。お腹が空いただろう?」
「……いらないわ……」
「台所を借りてスープを作ったんだ。今持ってくるから何処にも行くなよ?」
ビルは台所へ消えて行った。
昨日の昼から何も食べてはいないけれど、食欲なんか無かった。それなのにスープだなんて……ビルは私の話を聞いていないのだろうか?
「……」
パチパチと燃える暖炉の炎を見つめていると、スープ皿を手にしたビルが戻ってきた。
「お待たせ、リア。良かった、何処にも行かず待っていたんだな?」
ビルはテーブルの上にスープ皿を置くと近付いてきた。
「だって……ビルが行くなって言ったから……」
「そうか、いい子だ」
ビルは笑みを浮かべると、私の頭を撫でてくる。何故、彼は私を子ども扱いするのだろう。
「リア、ジャガイモのスープを作ったんだ。好きだろう?」
「……いらないわ、欲しくないの」
確かに私はジャガイモのスープが好きだが、食欲なんか無かった。ビリーがいなくなったと言うのに、どうして食欲が……。
そこまで考えた時、私は重要なことを思い出した。……いや、無意識のうちに忘れようとしていたのかもしれない。
「そうだわ! ビリーが……! 迎えに行かなくちゃ!」
バケツから足を出そうとした時。
「リアッ!」
突然、ビルに両肩を掴まれて立てなくなった。
「離してよ……」
ビルを見上げる。
「いいや、駄目だ。行かせられない」
「どうしてよ。私はあの子の姉なのよ? きっとビリーは森で迷子になって震えているに違いないわ。昨夜は夜だったから真っ暗で捜しに行けなかったけれど、今なら大丈夫。こんなに外は明るいんだもの。だから……」
「リアッ!!」
ビルが先程よりも大きな声を上げる。
「ビル……?」
「リア、良く聞いてくれ。昨夜はリアが気を失ったことで、ビリーの捜索を打ち切って折れた弓矢と弓を持って帰って来たんだ。勿論何処に落ちていたか分かるように周囲に目印を付けてな。そして夜明けとともに、村人たちが森へ入ってビリーを捜した……けれど……ビリーは何処にもいなかったんだ……」
「そ、そんな……! だ、だったら間違えて村とは反対の山へ向かったかもしれないわ。きっとそうに決まっている! 捜しに行かなくちゃ!」
いやだ、ビリーがいなくなるはずない! 今に「ただいま、お姉ちゃん」と言って帰って来るに決まっている!
「リアッ! 落ち着くんだ!」
ビルは私の両手首を掴んで離さない。
「離してよっ! ビリーッ!」
「駄目だ! 聞くんだ! リアッ! リアは何も知らないだろうが昔から数十年に一度、あの森に入って神隠しに遭った人々がいるんだよ! 村長さんがそう話してくれたんだ!」
「神……隠し……?」
嘘だ、そんな話私は知らない。
60年間、この村に住んでそんな話は……?
そこで、ふと思い出したことがある。
そうだ……時が巻き戻る前。私がまだ若かった頃。今目の前にいるビルによく似た男性が突然行方不明になってしまったことがあった。
え……? でも待って……? その人は本当にいなくなったのだろうか?
ずっと村に住んでいて、老衰で亡くなったのではなかっただろうか……?
「う……」
突然激しい頭痛に襲われ、頭を抱えるとビルが抱きしめてきた。
「ごめん。俺が近くにいる影響で、リアの記憶に混乱が生じているんだ。だが、聞いてくれ。お願いだ、リア。ビリーのことは……もう……諦めてくれ……」
頭痛と、混乱する頭のせいで意識が保っていられない。
でも……。
「ビリーを……諦めるなんて……イヤ……よ……」
そこで再び私の意識は途切れた――
「リア、温泉を汲んできた。ここに足を入れるといい」
バケツの中には温泉の湯が満たされている。無言で素足をバケツの中に足を入れると冷え切ってジンジンした足が温まってゆく。
「……温かいわ……」
「そうか、良かった……とにかく、裸足で歩き回るのはもうやめてくれ。もう11月なんだ。『ルーズ』がどれ程寒い場所か、分かっているだろう? もう少し足を温めていた方がいい」
「ええ……」
「それより、リア。お腹が空いただろう?」
「……いらないわ……」
「台所を借りてスープを作ったんだ。今持ってくるから何処にも行くなよ?」
ビルは台所へ消えて行った。
昨日の昼から何も食べてはいないけれど、食欲なんか無かった。それなのにスープだなんて……ビルは私の話を聞いていないのだろうか?
「……」
パチパチと燃える暖炉の炎を見つめていると、スープ皿を手にしたビルが戻ってきた。
「お待たせ、リア。良かった、何処にも行かず待っていたんだな?」
ビルはテーブルの上にスープ皿を置くと近付いてきた。
「だって……ビルが行くなって言ったから……」
「そうか、いい子だ」
ビルは笑みを浮かべると、私の頭を撫でてくる。何故、彼は私を子ども扱いするのだろう。
「リア、ジャガイモのスープを作ったんだ。好きだろう?」
「……いらないわ、欲しくないの」
確かに私はジャガイモのスープが好きだが、食欲なんか無かった。ビリーがいなくなったと言うのに、どうして食欲が……。
そこまで考えた時、私は重要なことを思い出した。……いや、無意識のうちに忘れようとしていたのかもしれない。
「そうだわ! ビリーが……! 迎えに行かなくちゃ!」
バケツから足を出そうとした時。
「リアッ!」
突然、ビルに両肩を掴まれて立てなくなった。
「離してよ……」
ビルを見上げる。
「いいや、駄目だ。行かせられない」
「どうしてよ。私はあの子の姉なのよ? きっとビリーは森で迷子になって震えているに違いないわ。昨夜は夜だったから真っ暗で捜しに行けなかったけれど、今なら大丈夫。こんなに外は明るいんだもの。だから……」
「リアッ!!」
ビルが先程よりも大きな声を上げる。
「ビル……?」
「リア、良く聞いてくれ。昨夜はリアが気を失ったことで、ビリーの捜索を打ち切って折れた弓矢と弓を持って帰って来たんだ。勿論何処に落ちていたか分かるように周囲に目印を付けてな。そして夜明けとともに、村人たちが森へ入ってビリーを捜した……けれど……ビリーは何処にもいなかったんだ……」
「そ、そんな……! だ、だったら間違えて村とは反対の山へ向かったかもしれないわ。きっとそうに決まっている! 捜しに行かなくちゃ!」
いやだ、ビリーがいなくなるはずない! 今に「ただいま、お姉ちゃん」と言って帰って来るに決まっている!
「リアッ! 落ち着くんだ!」
ビルは私の両手首を掴んで離さない。
「離してよっ! ビリーッ!」
「駄目だ! 聞くんだ! リアッ! リアは何も知らないだろうが昔から数十年に一度、あの森に入って神隠しに遭った人々がいるんだよ! 村長さんがそう話してくれたんだ!」
「神……隠し……?」
嘘だ、そんな話私は知らない。
60年間、この村に住んでそんな話は……?
そこで、ふと思い出したことがある。
そうだ……時が巻き戻る前。私がまだ若かった頃。今目の前にいるビルによく似た男性が突然行方不明になってしまったことがあった。
え……? でも待って……? その人は本当にいなくなったのだろうか?
ずっと村に住んでいて、老衰で亡くなったのではなかっただろうか……?
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突然激しい頭痛に襲われ、頭を抱えるとビルが抱きしめてきた。
「ごめん。俺が近くにいる影響で、リアの記憶に混乱が生じているんだ。だが、聞いてくれ。お願いだ、リア。ビリーのことは……もう……諦めてくれ……」
頭痛と、混乱する頭のせいで意識が保っていられない。
でも……。
「ビリーを……諦めるなんて……イヤ……よ……」
そこで再び私の意識は途切れた――
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