81 / 99
4章 13 ビル 4
しおりを挟む
「う~ん……」
ふと、部屋に漂う甘い香りで目が覚めた。
気付けば、暖炉のあるリビングの長ソファの上に寝かされ、ブランケットが掛けられていた。
「私……また気を失ってしまったのね……」
天井を見つめながらポツリと呟く。眠っている間に何か夢を見ていたような気がするけれども、思い出せない。
「ビリー……」
ポツリと呟く。
ビリーは消えてしまった。あの子が消えて1日しか経過していないのに、私の中では何年も経ってしまったように感じる。
もうすぐ寒い冬が来る。その前に、やらなければならないことが山程あるのに……何の気力も湧いてこない。
まさかビリーがいなくなって、ここまで自分が打ちのめされるとは思わなかった。
時が巻き戻る前……私は既に80年の時を生きてきた。辛い別れなど数えきれないほど経験しきたはずなのに。
「そういえば……この香り、何かしら……?」
ゆっくり起き上がり室内履きを履いたところで、エプロンをつけたビルが部屋に入って来た。
「え……? ビル?」
するとビルの目が見開かれる。
「リアッ! 起き上がって大丈夫なのか?」
ビルが駆け寄り、私の両肩に手を置いた。
「え、ええ……。大丈夫」
「だけどまだ顔が青い。椅子に座っていた方がいいだろう? ここに座りなよ」
リビングテーブルの前に置いた椅子をビルが引いた。
「ありがとう……」
椅子に座ると、ビルが尋ねてきた。
「リア、もう丸1日以上、何も口にしていない。今何か食事を持ってくるから一緒に食べよう?」
お腹は確かにすいているけれども、何も食べる気になれなかった。
「ビル、悪いけど私……」
「いいや、食べなきゃだめだリア」
「……分かったわ」
いつになく強い口調のビルに頷く。
「良かった、すぐに用意するからここで待っていてくれ」
ビルはそれだけ言うと、リビングを出て行った。
「今、何時なのかしら……?」
壁の時計を見てみると、5時を少し過ぎていた。一体今はいつの5時なのだろう?
ビリーが消えてしまってから自分の時間の間隔もおかしくなっている。
その時。
「お待たせ、リア」
料理の乗ったトレーを持ってビルが再びリビングに現れた。
「俺もまだ食事が終わっていないんだ。一緒に食べよう」
トレーをテーブルに置くと、ビルは向かい側に座った。彼が用意した食事はスコーンにベリーのジャム。それにジャガイモのポタージュだった。
そうか……甘い香りはこのジャムだったのか……。
「勝手に台所を借りてごめん。だけど……何かリアに食べて貰いたくて」
申し訳なさそうにビルが言う。
「ううん……いいのよ。私の為を思って料理を作ってくれたのでしょう? ありがとう」
実際今の私は何一つする気力が無かった。
「そう言って貰えると嬉しいよ。それじゃ、早速食べるとするか」
「……ええ」
のろのろとスコーンに手を伸ばし、ベリージャムをスプーンで塗ると口に入れた。
「……どうかな? リア」
ビルが身を乗り出して尋ねてくる。
「とても美味しいわ。スコーンも、それにジャムも。ビルは料理が上手なのね?」
「そうだな、全部料理は大好きな姉に教えて貰ったんだ」
食事しながら答えるビル。
「そうだったの……」
「姉は本当の非の打ち所がない女性だったよ。優しくて思いやりがあって、家事は得意だし。何よりとても綺麗な人だった。そんな姉に恋する男たちも沢山いたよ。だけど俺が全部追い払っていた。大切な姉を誰にも取られたくなかったからね」
私の気を紛らわせる為か、ビルは饒舌に語る。
「そう……ビルはお姉さんのこと、大好きだったのね」
「ああ。それに今だって……大好きだよ」
ビルは私の目をじっと見つめて、笑みを浮かべた——
ふと、部屋に漂う甘い香りで目が覚めた。
気付けば、暖炉のあるリビングの長ソファの上に寝かされ、ブランケットが掛けられていた。
「私……また気を失ってしまったのね……」
天井を見つめながらポツリと呟く。眠っている間に何か夢を見ていたような気がするけれども、思い出せない。
「ビリー……」
ポツリと呟く。
ビリーは消えてしまった。あの子が消えて1日しか経過していないのに、私の中では何年も経ってしまったように感じる。
もうすぐ寒い冬が来る。その前に、やらなければならないことが山程あるのに……何の気力も湧いてこない。
まさかビリーがいなくなって、ここまで自分が打ちのめされるとは思わなかった。
時が巻き戻る前……私は既に80年の時を生きてきた。辛い別れなど数えきれないほど経験しきたはずなのに。
「そういえば……この香り、何かしら……?」
ゆっくり起き上がり室内履きを履いたところで、エプロンをつけたビルが部屋に入って来た。
「え……? ビル?」
するとビルの目が見開かれる。
「リアッ! 起き上がって大丈夫なのか?」
ビルが駆け寄り、私の両肩に手を置いた。
「え、ええ……。大丈夫」
「だけどまだ顔が青い。椅子に座っていた方がいいだろう? ここに座りなよ」
リビングテーブルの前に置いた椅子をビルが引いた。
「ありがとう……」
椅子に座ると、ビルが尋ねてきた。
「リア、もう丸1日以上、何も口にしていない。今何か食事を持ってくるから一緒に食べよう?」
お腹は確かにすいているけれども、何も食べる気になれなかった。
「ビル、悪いけど私……」
「いいや、食べなきゃだめだリア」
「……分かったわ」
いつになく強い口調のビルに頷く。
「良かった、すぐに用意するからここで待っていてくれ」
ビルはそれだけ言うと、リビングを出て行った。
「今、何時なのかしら……?」
壁の時計を見てみると、5時を少し過ぎていた。一体今はいつの5時なのだろう?
ビリーが消えてしまってから自分の時間の間隔もおかしくなっている。
その時。
「お待たせ、リア」
料理の乗ったトレーを持ってビルが再びリビングに現れた。
「俺もまだ食事が終わっていないんだ。一緒に食べよう」
トレーをテーブルに置くと、ビルは向かい側に座った。彼が用意した食事はスコーンにベリーのジャム。それにジャガイモのポタージュだった。
そうか……甘い香りはこのジャムだったのか……。
「勝手に台所を借りてごめん。だけど……何かリアに食べて貰いたくて」
申し訳なさそうにビルが言う。
「ううん……いいのよ。私の為を思って料理を作ってくれたのでしょう? ありがとう」
実際今の私は何一つする気力が無かった。
「そう言って貰えると嬉しいよ。それじゃ、早速食べるとするか」
「……ええ」
のろのろとスコーンに手を伸ばし、ベリージャムをスプーンで塗ると口に入れた。
「……どうかな? リア」
ビルが身を乗り出して尋ねてくる。
「とても美味しいわ。スコーンも、それにジャムも。ビルは料理が上手なのね?」
「そうだな、全部料理は大好きな姉に教えて貰ったんだ」
食事しながら答えるビル。
「そうだったの……」
「姉は本当の非の打ち所がない女性だったよ。優しくて思いやりがあって、家事は得意だし。何よりとても綺麗な人だった。そんな姉に恋する男たちも沢山いたよ。だけど俺が全部追い払っていた。大切な姉を誰にも取られたくなかったからね」
私の気を紛らわせる為か、ビルは饒舌に語る。
「そう……ビルはお姉さんのこと、大好きだったのね」
「ああ。それに今だって……大好きだよ」
ビルは私の目をじっと見つめて、笑みを浮かべた——
297
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが
水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。
王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。
数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。
記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。
リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが……
◆表紙はGirly Drop様からお借りしました
◇小説家になろうにも掲載しています
悪役令嬢は間違えない
スノウ
恋愛
王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。
その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。
処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。
処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。
しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。
そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。
ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。
ジゼットは決意する。
次は絶対に間違えない。
処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。
そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。
────────────
毎日20時頃に投稿します。
お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
わがまま令嬢は改心して処刑される運命を回避したい
水谷繭
恋愛
公爵令嬢のセアラは権力を振りかざし、屋敷でも学園でもわがままの限りを尽くしていた。
ある夜、セアラは悪夢を見る。
それは、お気に入りの伯爵令息デズモンドに騙されて王女様に毒を盛り、処刑されるという夢だった。
首を落とされるリアルな感覚と、自分の死を喜ぶ周りの人間たちの光景に恐怖を覚えるセアラ。しかし、セアラはその中でただ一人自分のために泣いてくれた人物がいたのを思い出す。
セアラは、夢と同じ結末を迎えないよう改心することを決意する。そして夢の中で自分のために泣いてくれた侯爵家のグレアムに近づくが──……。
●2021/6/28完結
●表紙画像はノーコピーライトガール様のフリーイラストよりお借りしました!
◆小説家になろうにも掲載しております
【完結】婚約破棄はいいのですが、平凡(?)な私を巻き込まないでください!
白キツネ
恋愛
実力主義であるクリスティア王国で、学園の卒業パーティーに中、突然第一王子である、アレン・クリスティアから婚約破棄を言い渡される。
婚約者ではないのに、です。
それに、いじめた記憶も一切ありません。
私にはちゃんと婚約者がいるんです。巻き込まないでください。
第一王子に何故か振られた女が、本来の婚約者と幸せになるお話。
カクヨムにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる