嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
185 / 566

第7章 10 オリエンテーリング ⑦

しおりを挟む
 明日のオリエンテーリングの下見を終えた生徒たちは宿泊施設へと帰ってきた。

「ふう~・・疲れたわ・・・。なのに今からバーベキューの準備をしなくちゃいけないなんて・・。」

マドレーヌがうんざりしたように井戸の傍で玉ねぎの皮をむいていた。

「でもね、意外と料理って楽しいわよ。私は好きだわ。」

ヒルダはナスを洗いながら言った。

「そうよね。ヒルダは料理をするんですもの。きっと将来は素敵なお嫁さんになれるわね。」

「・・・。」

そんなマドレーヌの言葉をヒルダは目をまるくして聞いていた。

「あら?どうしたの?ヒルダ?」

「いいえ、何でもないの。」

ヒルダは言うと、再び野菜を洗い始めながら思った。

(やっぱり・・大都市と農村都市では人々の考え方は違うのかしら?カウベリーでは大きな傷を身体に負った女性は結婚することが出来ないと言われているのに、大都市ではそんな偏見は一切無いのね・・。ひょっとするとお母さまもカミラもその事を知っていたから・・私をこの土地に来るように勧めたのかしら・・。)

考えてみれば、カウベリーにいた頃は足の怪我のせいで学校でも嫌な目に遭ったことがあった。しかし、この学校に来てからは足の事で偏見の目でヒルダを見る生徒は一部の生徒を除き、後は誰もいなかった。初めてこのロータスに来た時は大都会で戸惑う事ばかりだったが、今ではここに来て良かったと改めてヒルダは思うのだった―。


 宿泊施設の裏手には川が流れ、お昼はこの河原でバーベキューすることになっていた。ヒルダがマドレーヌやほかの女子学生たちと切った野菜を河原に運んでくると、男子生徒たちが4つのグループに分かれて石を積んでかまど作りを行っていた。

「あーっ!うまく石が積めないぞっ!」

「こんなんじゃいつまでたってもかまどを作れなじゃないかっ!」

「おーい、誰かこういうの得意な奴はいないかぁ?!」

等々・・・すごい騒ぎになっていた。何せ彼らは都会っ子であり、ましてや勉強ばかりしてきたような生徒達ばかりである。うまくできなくても当然であった。が・・・。

「おおーっ!すっげー!完璧なかまどだっ!」

ある一角で歓声が沸いた。みると騒いでいたのは一番左端のグループであった。

「どうやらあのグループはかまどづくりがうまくいったようね。」

マドレーヌがヒルダに言う。

「ええ。そうね・・・誰か上手に作れる人でもいたのかしら・・・。」

そこでヒルダは言葉を切った。騒ぎの中心にいたのはルドルフだったのだ。

「ルドルフッ!お前ってすごいなっ!」

「出来るのは勉強だけじゃ無かったんだな!」

ルドルフは上手にかまどを作り上げ、すっかりそこのグループの人気者になっていたのだ。そしてヒルダは見た。わずかだがルドルフが彼らの前で笑顔を見せている姿を。それは・・・あのカウベリーにいた頃のルドルフを彷彿とさせるものだった。

マドレーヌもルドルフのそんな姿に気づいたのかヒルダに言った。

「ねえ、見てヒルダ。あのルドルフが笑っているわよ・・。彼って笑う事が出来たのね。」

「ええ・・・そうね。」

ヒルダはポツリと言った。だが、ヒルダは知っている。カウベリーにいた頃のルドルフは・・それは笑顔が素敵な少年だったと言う事を。そしてヒルダはそんなルドルフの事が大好きだったのだ・・・。


一方、こちらはマイクのグループでは・・。

 
「駄目だっ!いくらやってもうまくいかないじゃないかっ!」

1人の少年がガラガラと崩れてしまう石を見て恨めしそうに言う。

「あきらめるな。もう一度積んでみよう。」

マイクは言うが、他の男子生徒が言った。

「なあ、もう意地張らないでルドルフに頼もうぜ、他のグループだってルドルフにかまどを作ってもらっているぜ。」

「何だってっ?!君たちにはプライドは無いのか?!ほかのグループの人間に作ってもらうなんて・・・!」

マイクは憤慨して言うが、すぐに論破されてしまった。

「うるさいなっ!プライドだけじゃ腹は膨れないんだよっ!」

「う・・・・なら・・・勝手にしてくれっ!僕は知らないからなっ!」

マイクは軍手を投げつけると、踵を返して宿泊所へ行ってしまった。

(僕にだってプライドはあるんだ・・・あんな奴に頼むくらいなら・・昼食なんか抜いてやる・・・っ!)

今やマイクの心はルドルフに対する嫉妬心で一杯になっていた―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

【完結】お世話になりました

⚪︎
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...