197 / 566
第8章 6 2人の思い
しおりを挟む
エドガーは椅子から立ち上ると大股で部屋のドアに近付き、ガチャリとドアを開けた。そこには驚いた顔をした執事と、背後にはルドルフが立っていた。
「エドガー様・・・わざわざドアを開けにいらしたのですか?」
執事が驚いたように目を丸くする。
「あ・ああ・・・。悪いが彼と大事な話があるんだ。しばらくの間はこの部屋には誰も近づけないように人払いをしておいてくれ。」
エドガーは溜息をつき、髪をかき上げながら執事に言う。
「はい、かしこまりました。」
執事は頭を下げると部屋の前から去って行った。するとエドガーは素早く言った。
「ルドルフ、中に入ってくれ。」
「はい、失礼します。」
ルドルフは頭を下げると、執務室の中へ入って行った。
「そこのソファにかけてくれ。」
エドガーは執務室の中央にあるえんじ色の皮張りのソファをさした。
「はい。」
ルドルフが座ると、その向かい側にエドガーも座る。こげ茶色のシックなマホガニー製の長テーブルを挟んで向かい合わせに座るとエドガーが口を開いた。
「ルドルフ・・いつ、『カウベリー』へ来たんだ?」
時刻は朝の10時半である。ここから『ロータス』までは汽車で4時間以上かかるのだ。さらに駅からフィールズ家までは馬車で1時間近くはかかる。
「昨日の最終列車に乗ってきました。家に着いたのは夜の11時を過ぎていました。」
「・・・こんなに急いで、ここへやってきたって事は・・ヒルダに何かあったのか?実は今朝ヒルダから手紙が届いたんだ。」
「え?ヒルダ様から・・・ですか?」
ルドルフは一瞬目を見開いたが・・・考えてみればルドルフとヒルダは義理とはいえ兄妹の関係だ。手紙のやり取りくらい普通だろう。
しかしエドガーは言った。
「俺とヒルダは・・滅多に手紙のやり取りはしないんだ。よほどの事でもない限りは・・。知っての通り、ヒルダは父から縁を切られてしまっているからね。」
「ええ・・・そうですよね・・。」
ルドルフは悔しそうに下唇をグッと噛み締めた。
「今回僕がエドガー様の処へ来たのはヒルダ様の進学の件です。」
するとエドガーが言った。
「ヒルダの進学か・・。それは俺も考えていたとこなんだが・・ルドルフ、その前に聞きたいことがあるんだ。」
「聞きたいこと・・ですか?」
ルドルフが少しだけ首をかしげる。
「ああ・・カミラからの手紙で知ったのだが・・学校でオリエンテーリングが島で行われたらしいな。」
「ええ・・・。」
「そこでヒルダが崖下に転落する事故が起こった。」
「・・・。」
ルドルフは黙って聞いている。
「誰かが・・・ヒルダを助けてくれたらしいんだが・・その人物が分かっていないんだ。ルドルフ、君は知ってるか?」
「・・・はい、知ってます。・・それは・・僕です。」
するとエドガーはたちまち笑顔になった。
「そうか・・やはりルドルフ。君がヒルダを助けてくれたのか?本当にありがとう。ヒルダに代わり感謝するよ。それで・・何故ヒルダは君が助けた事を知らないんだ?」
エドガーは何故ヒルダは何も知らされていないのか不思議に思っていたのだ。
「それは僕が学校側とクラスメイト達に誰がヒルダ様を助けたのか・・ヒルダ様には知られたくなかったからです。」
淡々と語るルドルフにエドガーは言う。
「何故だ?君はヒルダの命の恩人だ。何故ヒルダにその事を隠す必要があるんだ?」
するとルドルフは苦しそうに顔を歪めると言った。
「僕は・・ヒルダ様に・・婚約破棄を言い渡されているんです。それなのに・・未練がましく追いかけてしまって・・。ヒルダ様の傍にいられるだけでいいと思っているんです。ただ・・もうこれ以上拒絶だけはされたくなくて・・僕が助けた事実を知った時のヒルダ様の反応が怖いんです。また・・あんな思いをするのはもう御免です。だから内緒にしてもらったんです。」
「ルドルフ・・・。」
エドガーは何と声を掛けてやれば良いか分からなかった。それは自分自身にも当てはまる事だから。エドガーもヒルダを愛している。たとえ叶わぬ恋でも本心はヒルダに自分の愛を告げたいと思ってはいたが・・・それを告げた場合のヒルダの反応が怖かった。恐れられるくらいなら、いっそこの気持ちに蓋をしてしまおう。その思いから父の誘いもあって見合いをしたのだった。
(良い夫になれるよう努力はするが・・・きっと俺は彼女を愛することが出来ないだろうな・・。)
エドガーは10年以上も前の初恋を・・・今だに引きずっていたのだった―。
「エドガー様・・・わざわざドアを開けにいらしたのですか?」
執事が驚いたように目を丸くする。
「あ・ああ・・・。悪いが彼と大事な話があるんだ。しばらくの間はこの部屋には誰も近づけないように人払いをしておいてくれ。」
エドガーは溜息をつき、髪をかき上げながら執事に言う。
「はい、かしこまりました。」
執事は頭を下げると部屋の前から去って行った。するとエドガーは素早く言った。
「ルドルフ、中に入ってくれ。」
「はい、失礼します。」
ルドルフは頭を下げると、執務室の中へ入って行った。
「そこのソファにかけてくれ。」
エドガーは執務室の中央にあるえんじ色の皮張りのソファをさした。
「はい。」
ルドルフが座ると、その向かい側にエドガーも座る。こげ茶色のシックなマホガニー製の長テーブルを挟んで向かい合わせに座るとエドガーが口を開いた。
「ルドルフ・・いつ、『カウベリー』へ来たんだ?」
時刻は朝の10時半である。ここから『ロータス』までは汽車で4時間以上かかるのだ。さらに駅からフィールズ家までは馬車で1時間近くはかかる。
「昨日の最終列車に乗ってきました。家に着いたのは夜の11時を過ぎていました。」
「・・・こんなに急いで、ここへやってきたって事は・・ヒルダに何かあったのか?実は今朝ヒルダから手紙が届いたんだ。」
「え?ヒルダ様から・・・ですか?」
ルドルフは一瞬目を見開いたが・・・考えてみればルドルフとヒルダは義理とはいえ兄妹の関係だ。手紙のやり取りくらい普通だろう。
しかしエドガーは言った。
「俺とヒルダは・・滅多に手紙のやり取りはしないんだ。よほどの事でもない限りは・・。知っての通り、ヒルダは父から縁を切られてしまっているからね。」
「ええ・・・そうですよね・・。」
ルドルフは悔しそうに下唇をグッと噛み締めた。
「今回僕がエドガー様の処へ来たのはヒルダ様の進学の件です。」
するとエドガーが言った。
「ヒルダの進学か・・。それは俺も考えていたとこなんだが・・ルドルフ、その前に聞きたいことがあるんだ。」
「聞きたいこと・・ですか?」
ルドルフが少しだけ首をかしげる。
「ああ・・カミラからの手紙で知ったのだが・・学校でオリエンテーリングが島で行われたらしいな。」
「ええ・・・。」
「そこでヒルダが崖下に転落する事故が起こった。」
「・・・。」
ルドルフは黙って聞いている。
「誰かが・・・ヒルダを助けてくれたらしいんだが・・その人物が分かっていないんだ。ルドルフ、君は知ってるか?」
「・・・はい、知ってます。・・それは・・僕です。」
するとエドガーはたちまち笑顔になった。
「そうか・・やはりルドルフ。君がヒルダを助けてくれたのか?本当にありがとう。ヒルダに代わり感謝するよ。それで・・何故ヒルダは君が助けた事を知らないんだ?」
エドガーは何故ヒルダは何も知らされていないのか不思議に思っていたのだ。
「それは僕が学校側とクラスメイト達に誰がヒルダ様を助けたのか・・ヒルダ様には知られたくなかったからです。」
淡々と語るルドルフにエドガーは言う。
「何故だ?君はヒルダの命の恩人だ。何故ヒルダにその事を隠す必要があるんだ?」
するとルドルフは苦しそうに顔を歪めると言った。
「僕は・・ヒルダ様に・・婚約破棄を言い渡されているんです。それなのに・・未練がましく追いかけてしまって・・。ヒルダ様の傍にいられるだけでいいと思っているんです。ただ・・もうこれ以上拒絶だけはされたくなくて・・僕が助けた事実を知った時のヒルダ様の反応が怖いんです。また・・あんな思いをするのはもう御免です。だから内緒にしてもらったんです。」
「ルドルフ・・・。」
エドガーは何と声を掛けてやれば良いか分からなかった。それは自分自身にも当てはまる事だから。エドガーもヒルダを愛している。たとえ叶わぬ恋でも本心はヒルダに自分の愛を告げたいと思ってはいたが・・・それを告げた場合のヒルダの反応が怖かった。恐れられるくらいなら、いっそこの気持ちに蓋をしてしまおう。その思いから父の誘いもあって見合いをしたのだった。
(良い夫になれるよう努力はするが・・・きっと俺は彼女を愛することが出来ないだろうな・・。)
エドガーは10年以上も前の初恋を・・・今だに引きずっていたのだった―。
2
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
私達、婚約破棄しましょう
アリス
恋愛
余命宣告を受けたエニシダは最後は自由に生きようと婚約破棄をすることを決意する。
婚約者には愛する人がいる。
彼女との幸せを願い、エニシダは残りの人生は旅をしようと家を出る。
婚約者からも家族からも愛されない彼女は最後くらい好きに生きたかった。
だが、なぜか婚約者は彼女を追いかけ……
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる