嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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第8章 10 雪の朝

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 その日の夜半からラジオの天気予報通りに『ロータス』に初雪が降った。雪はやむことなく夜明けまで降り続いた・・・。

 翌朝―

今日からヒルダは冬期休暇に入った。

ジリジリジリ・・!

6時半にセットしたヒルダの目覚まし時計が部屋のなかに鳴り響く。
目を覚ますと部屋中が冷え切っていることに気が付いた。

「寒いわ・・。」

白い息を吐きながらベッドの上に乗せておいたカーディガンを羽織り、床の上に置いた室内履きに足を入れると、ヒルダは部屋の窓のカーテンをシャッと開けて、目を見張った。

「まあ・・一面銀世界だわ・・。」

雪はすでにやんでいたが、相当雪が降ったのだろう。街路樹も垣根にも・・雪が綿のように積もっている。街中ではすでに道路の雪かきをしている人々の姿も見えた。

「う・・。」

その時、立って窓の外を眺めていたヒルダの左足がズキリと痛んだ。

「やっぱり・・冷えると左足が痛むわ・・・。」

今朝は格別冷える朝で、ヒルダの左足は鉛のように重く感じた。左足を引きずるようにして歩きながらリビングに行くとすでに起きていたカミラが薪ストーブに火を入れ、鉄のヤカンと、その隣には両手付き鍋が乗っている。

「カミラ・・既に起きていたのね・・。今朝は朝食の準備をする為に早起きしたつもりだったのだけど・・・。」

ヒルダがポツリと呟くと、リビングの隣のキッチンからエプロンを身に着けたカミラが出てきた。

「まあ。おはようございます、ヒルダ様。学校はお休みに入ったのにもう起きて来られたのですか?」

カミラが笑顔で言う。

「ええ。おはよう、カミラ。今日からまた朝食の準備をしようとしたのだけど・・。」

ヒルダの言葉にカミラが真顔で言った。

「いいえ、ヒルダ様。冬はとても冷えてヒルダ様の左足に負担がかかっている事はよく存じております。どうか、家事の事は気になさらないで下さい。私が朝お部屋を暖めておきますから、ゆっくり起きてきてください。」

「でも、それではカミラに悪いわ。だって・・貴女は毎日働いているのに・・・。」

ヒルダは目を伏せた。

「何をおっしゃっているのですか、ヒルダ様。ヒルダ様こそ冬休みの間はアルバイトでお忙しいではありませんか?さっそく本日からアレン先生の診療所でアルバイトが始まるのですよね?」

「ええ・・でもアレン先生が冬場は私を気にかけて下さって、10時から15時までのアルバイトなのよ?」

「ええ・・・ですが・・・・。」

カミラは毛糸の靴下をはいたヒルダの足を見ると言った。

「痛むのですよね?左足が・・・。先ほども足を引きずっておられましたから・・・。」

「え・・・・?気づいていたの?」

ヒルダは目を見張った。

「勿論です。ヒルダ様の事はいつも見ておりますから。さ、ヒルダ様。朝食の準備なら私がいたしますので、どうぞ御着替えをなさって来てください。」

「ええ・・・ありがとう。カミラ。」

ヒルダは部屋に戻ると、早速着替えを始めた・・・。

タイツを履き、ビロードのスカートに白いブラウスの上からセーターを着るとヒルダはリビングへやってきた。するとすでに丸いダイニングテーブルの上には朝食が乗っていた。ミルクとメープルシロップで煮込んだオートミールに、野菜スープ、そしてハムエッグが出来立ての湯気と共に置かれている。

「まあ・・・おいしそうだわ。ありがとうカミラ。」

「いいえ、とんでもございません。ではヒルダ様、頂きましょうか?」

「ええ、そうね。頂きます。」

そして2人は薪ストーブの暖かい部屋で温かい朝食を仲良く食べた。



朝8時半―

「では、行ってきますね。ヒルダ様。」

帽子をかぶり、防寒用ロングコート、そしてブーツに手袋をはめたカミラが玄関まで見送りに来たヒルダに言う。

「ええ。行ってらっしゃい。カミラ。」

「ヒルダ様もアルバイトの時、雪道にお気を付け下さいね。」

カミラは心配そうに言う。

「ええ、大丈夫よ。余裕をもって早めに行くから。」

カミラはヒルダの言葉に笑顔になると、玄関から出て行った。

バタンとドアが閉まると、ヒルダはすぐに洗濯をしに洗面台へと向かった。


 時刻は9時半になった。

分厚いコートに身を包み、小さなリュックを背負ったヒルダがアパートメントから出てきた。アルバイトに出勤する時間になったのである。

ガチャリと鍵をかけて、戸締りの確認をするとヒルダはマフラーを巻き付け、コートの襟を立てると左手に杖を持ち、コツコツと音を立ててアパートメントの階段を降り、メインストリートに降りてきた。
石畳の歩道の部分は大分雪がかき分けられているが、まだ所々に隙間に雪が入り込んでツルツルになってる部分がある。

「気を付けて歩かなくちゃね・・・。」

ヒルダは自分に言い聞かせると、杖を突きながらゆっくりとアレンの診療所へ向かって歩きだすのだった―。




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